変な職人たち
誤字脱字の指摘、助かっております。
土地の手続きを終え次にどこ行こうかと悩んだ。
「フィナ、どうする? 行くところあるか?」
「いいえ、私はご主人様と一緒に行ければいいです」
そう言って、右腕にしがみついてきた。
嬉しいことを言ってくれる。
「そうだな、久々にミラウ武器店に行こうか」
「はい!」
久々にドランさんの店、ミラウ武器店に向かう。素材も手に入れたし、相談したいこともあったのだ。
店に入ると、
「いらっしゃい!」
メルさんの元気な声が聞こえてきた。
「お邪魔します」
「ああ、あんたか」
俺たちを見たメルさん笑う。
「どうした、デートかい? 腕なんか組んで」
恥ずかしいのかフィナは赤くなり、腕をパッと離した。
「そんなに恥ずかしがらなくてもいいのに……」
メルさんは「若いねぇ」って感じでニコニコ笑っていた。
「夫を呼んだほうがいいかね?」
「できれば」
「あんた、マサヨシが来たよ!」
奥のほうを向きメルさんが声をかけると、手ぬぐいで汗をぬぐいながらドランさんが出てきた。
「おう、何だ? ドレスアーマーの件か?」
「あっ、忘れてた」
「おいおい、自分の仲間の防具だぞ? 忘れちゃいかんだろ」
「すみません」
俺は頭を掻きながら謝った。
「フン」と一息つくと、
「で、何だ?」
ドランさんが聞いてくる。
「ああ、いろいろ素材が手に入ったから、見てもらおうかと……」
「そういや、ダンジョンを攻略するって言ってたな」
「えーっと、オーククイーンとプリンセスの素材とジャイアントポイズンスパイダーの素材とサイクロプスの素材、ワイバーンの素材があるんだけどどれから?」
ドランさんが固まった。
「ドランさん?」
ドランさん復旧……。
「おっお前、それ全部あるのか?」
「ありますね……。多分この店がいっぱいになります」
「お前んちに土地余ってるか?」
そう俺に聞いた瞬間、
「あっあんた、まさか」
メルさんの驚く表情。
「えっ、どういう事?」
「土地が余ってるかって聞いているんだ!」
「はあ、土地はあります」
「メル、俺は引っ越ししたい」
「この家どうするんだい!あんたが欲しがった高熱炉まで買ったんだよ? それを置いていくのかい? それに引越ししたとして、どうやって食っていくんだい!」
「でも、ワイバーンだぞ!ジャイアントポイズンスパイダーだぞ!サイクロプスなんて聞いたことない素材だぞ。行きたい!行きたい!行きたい!」
駄々っ子かよ……。
「はあ、こうなったらテコでも聞かないんだから……」
ため息をつくメルさん。
「ああ、だったらこうしませんか? 俺、孤児院をしようと思ってるんです。その職業訓練の先生になってもらえませんか? でしたら、こちらから給料は出します。ちょっと離れますが街で買い物ができるようにします。そうですね、ひと月金貨一枚でどうでしょう? 後は防具や武器の出来高で……当然メルさんにもお払いします。売り子としての訓練もさせたいので」
「えっ私にもかい?」
「はい、メルさんにもです。素材を使って制作したものを販売してもらいます。その知識を子供たちに教えてもらえれば……。ドランさんには男の子たちに鍛冶仕事を教えてもらいたいのです。孤児院はまだ計画段階ですが、土地は準備しますので引越しは問題ありません。
「片づけをしなきゃいけないね」
メルさんが前向きになった。
「お前、良いのか?」
「夫がやりたいことをさせてやるのがいい妻の条件だろ? 素材の話を聞いて、仕事したくて仕方ないんなら引越しするしかないじゃないか」
片づけを始めようとするメルさん。
「あっ、片づけ要りませんよ? 店はこのままで住居と鍛冶場を移動しましょう。店はこのまま販売に利用すればいいので……。引越しの日はこちらが準備できたら連絡します」
「そっそれでいいなら、助かるけども……」
半信半疑なんだろうなぁ。
「おばさん、ご主人様にお任せください、悪いようにはしません」
フィナがフォローしてくれる。
「それじゃ、家に帰って準備してくるよ」
俺が店の外に出ていこうとしたとき、腕を引っ張られる感覚があった。
「何か置いていってくれよぉ」
ドランさんが半泣きで俺にしがみつく。
「素材?」
「そうだ、素材をくれぇ」
俺は、ワイバーンの皮を一枚出し、ドランさんに渡した。
「これは、ワイバーンの皮じゃないか!ヒャッホー!」
ドランさんは早速奥に向かう。
「マサヨシ、すまんね」
謝るメルさん。
「いいえ、俺もこんな反応があるとは思ってもみませんでした。申し訳ありません」
ドランさんは素材フェチだったようだ……。
ん? ドランさんの騒ぎで何か忘れてる。ああ、
「すみません、メルさん、腕のいい大工って知りませんか?」
「大工?」
何でだ? って感じだね。
「館を孤児院として使うために改造を依頼したいんですよ」
「そうだねぇ……この近所にベンヤミンという飲んだくれたドワーフが棟梁の大工の一団が居る。仕事は一流なんだ。ただ金より酒が無いと動かない。そんなんでよかったら、紹介するけど……どうだい?」
「いいですね、ドワーフらしい。火酒で大丈夫でしょうか?」
「それならば問題ない。喜んでやるだろうね。じゃあ早速行くかい?」
メルさんがエプロンを外してカウンターに置いた。
「店を放っておいて大丈夫なんですか?」
俺が聞くと、
「大丈夫。盗られるようなもんなんて店にないんだから。あんた! ちょっと出かけてくるよ!」
そう言うと
「うぇーい」というドランさんの声が聞こえてきた。
それを聞くと、メルさんはさっさと店を出て行く。
それを俺たちは追いかけていくのだった。
ベンヤミンという大工の棟梁の家は本当に近かった、ちなみにドランさんの店から三軒隣り。
「おーい、ベンヤミン居るかい?」
メルさんが入り口から声をかけると、
「誰だ、ああ、ドランとこのクソババアか」
赤ら顔の背が低いドワーフが現れる。
「『クソ』は余計だよ!お前さんに客を連れてきたんだ」
「そこの男か女か?」
「男のほうだよ、マサヨシという冒険者だ」
「で、何の用だ?」
「今度、孤児院を作ろうと思っています。そこで子供たちが住む家を作ってもらいたい。側は昔の館があるので、多人数の子供が住めるようにしてもらいたいのです」
「お前、酒持ってるか?」
ベンヤミンというドワーフはニヤリとして俺を見る。
「これでいいですか?」
俺は、火酒を樽ごと出した。
「なんだこれは」
「火酒ですが……」
ベンヤミンというドワーフは栓を開け匂いを嗅いで笑う。
「受ける! 俺はこの仕事受けるぞ! この酒に見合う仕事をしてやろう。で、いつだ、今日か、明日か?」
「仕事ができるようになれば連絡します」
「そうか、まさか、この樽は仕舞うのか?」
不安げな声。
そんなに酒が心配かね。
「いいえ、前金として渡しておきます。ご自由にお飲みください。ただ、仕事はしっかりとお願いしますよ!」
「任せろ、火酒の分はきっちりと働く。俺のすべてをぶち込んでやる!」
「それでは失礼します」
そう言ってベンヤミンというドワーフの家から離れた。
「えらい気合入ってるけど、大丈夫なんですか?」
俺はメルさんに聞く。すると、
「あんた、羽振り良すぎだよ! あいつ酒の分だけ働くんだよ。火酒一樽は多すぎたかもしれないね、あれ多分やりすぎると思う」
やれやれという感じで説明された。
「まあ、その時はその時で考えます。それじゃ我々も帰りますね。紹介ありがとうございました」
俺は扉を出すとフィナとともに家に帰った。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




