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孤児院

誤字脱字の指摘、助かっております。

 久々に木漏れ日亭に近づく。

 昼前の食事の時間。大盛況なのか店の前には長い行列ができていた。

「こりゃ、かなり待たないといけないな」

「そうですね」

「んー、ブラブラするか?」

「はい」

 フィナが俺の腕にしがみ付く。


 屋台の中を歩く……。

「あれ美味しそうです。あっ、あれも……。あれもいい匂い」

 鼻がいいフィナは食べ物に夢中だ。

「何か食うか? 小腹も減ってるし」

「この屋台と、この屋台がいい匂いします」

 俺はフィナが指差した屋台に行き、ソーセージと串焼きを十本ずつ買う。

「こんなに要りますか?」

「なんとなくな……」

 俺は裏路地に行き、収納カバンから買い置きしてあったパンを出す。

 ナイフで切れ目を入れ、そこにソーセージを挟んだ。からしマヨネーズ(からしではなく辛い葉っぱを混ぜたものだが)を塗り、フィナに渡す。

「これは?」

「ホットドッグって言う俺の世界の食べ物。食べてみろ」

「食べやすいです。ソーセージから染み出る肉汁がパンにしみこみます。塗ってある……マヨネーズでしたっけ? これがいい刺激になります」

 俺も食べてみたが結構いけた。


 んー、俺の周りに結構な数の光点が……敵対心はないな。

 光点がある方向を見ると、そこには小さな子供たち。

 昔のアイナの姿を見ているようだった。

 んー、仕方ないね。

 別に仕方ないわけじゃないのはわかってるが、仕方ないって事にしておく。

 俺はパンに切れ目を入れ、ソーセージの分のホットドッグを作る。串焼きの肉を外した「なんちゃって照り焼きドッグ」も作った。

「お前ら腹減っているんだろ、こっちへ来い」

 髪の毛ボサボサ、垢だらけの服、足は裸足だ。

 冬をどう乗り切ったのかわからない。

 洗浄魔法で集まった子供たちを洗った。

 綺麗になった自分に驚く子供たち。

「ほい、これを食え」

 並んだ子供に順番にホットドッグかなんちゃって照り焼きドッグを配った。

「おいしー」

「こんなの食べたことない」

 子供たちはおいしそうに食べる。ただ食べられるだけでニコニコしていた。


「フィナ、この子たちどうすればいいと思う?」

「ご主人様、全部の子を養うのは無理……じゃないですね。ご主人様の思うままに」

「孤児院作ろうか」

「孤児院ですか?」

「ああ、孤児院だ。とりあえず子供の住む建物と大きな土地があればいいわけだが……。建物……。ああ、クリスの母ちゃんの別荘があったな。これを使えばいいわけか。それなら土地だな……」

 頭の中でやるべきことの整理を行う。

「また明日、ここに来るから、仲間を集めておいてもらえるかな?」

「おっさん、また来るの?」

 やんちゃそうな男の子が俺に声をかけた。

「ああ、また来る」

「このおいしいパン作ってくれる?」

 線が細い女の子が俺に聞く。

「おう、任せろ」

 子供たちに声をかけられ、それぞれに返事をした。

「じゃあ、解散な。明日また来る」

 そう声をかけ俺は路地裏から離れた。


 俺とフィナは両開きの扉を開け冒険者ギルドに入る。

 昼過ぎのギルドは冒険者もおらず暇そうだった。

 受付にリムルさんを見つける。

「こんにちは、お久しぶり」

 俺は声をかけながら受付へ座る。

 フィナは丸机に座ったようだ。

「ああ、マサヨシさん、お久しぶりです」

「早速、聞きたいことがあるんだがいいか?」

「なんでしょう?」

「俺が今住んでいる土地の周辺をできるだけ買いたいと思ってるんだが、どうすればいい?」

「そうですねぇ、土地の権利を持っている人から買うのが普通なんですが、あそこの周辺は土地の権利を持っている者が居ないと思います」

「なぜ?」

「魔物が徘徊する土地を買う者が居ないからです。それも町から馬車で三日なんて誰が住むのですか?」

「ほう。誰も住まない土地を無理やり俺に売ろうとしたわけだな」

 リムルさんの目が泳ぐ。

「そっそれは……、たまたまマサヨシさんの条件に合った物件でしたから……。まあ、今快適に住んでいるんだからいいじゃないですか」

 誤魔化したな……。

「まあいい」

 リムルさんはホッとする。

「それじゃ、土地の権利がない場所を手に入れようと思えばどうすればいい?」

「領主に開発の範囲を申請し、その範囲に見合うお金を払えばあなたが土地を開拓する権利を得ます。まあ、あの農場程度の土地なら、銀貨一枚程度で済むんじゃないでしょうか? 何もない場所ですからね」

 あの広さで銀貨一枚か……。

「金貨一枚あればすごい広さの権利が手に入るんだな」

「そのあと森を開き、農場に変える力が必要になりますけどね」

 俺はその辺の心配はしていない。

「ああ、忘れないでください。権利は五年で失効します。あと、開拓した後は、ちゃんと自分の土地だと申請しないと五年後に別の者に取られることもありますから気を付けてください」

「申請はどこで?」

「ここでできますよ? 私が申請を受理した日から五年で開拓してください」

 詳しいと思ったら、そういう事だったのか……。

「それじゃ、申請したいんだが……」

「わかりましたちょっと待ってください」

 リムルさんは奥に行き大きな紙を持ってきた。

「これが、ヘルマン辺境伯領の地図になります。ここがあなたの農場」

 おぉ、小さいなぁ。

「この周辺、金貨一枚分ですね」

 リムルさんはセロファンのシートのようなものを取り出した。

「あっ、これ虫の羽なんです。この赤い四角範囲が金貨一枚分の範囲になります。ちなみに銀貨一枚用がこれ、白金貨用はこれになります」

 銀貨と白金貨の大きさを見せてくれた。さすがに白金貨は広い。

「じゃあ、あなたの家を中心に金貨一枚分ですね……」

 リムルさんは羽を置き呪文を唱えると地図に赤い範囲が表示されて残る。

「これで、手続きは終わりです。手数料が百リル権利代一万リルで一万百リルをお願いします」

「ほい、これで」

 俺は、リムルさんに代金を渡した。

「開拓範囲がこれより広くなったらどうなる?」

「その場合は、越えた分の権利代を払えば問題ありません。それに少々超えてもわかりません。地図上に表示された範囲がわかる人などいませんから。最終的に権利書で確定するので問題になりません」

「適当なんだな」

「はい」

 にこりと笑ったリムルさん。

 言い切ったよ。

「これが、開拓の権利書になります」

 俺は、書類を受け取った。


 フィナと冒険者ギルドを出る。

「意外と簡単でしたね」

「そうだな、おかげで助かった。」

「開拓するのですか?」

「帰ったら開拓する。まあ、しばらくはヘルゲ様(オヤジさん)からの連絡待ちだろうから暇だしね」

「デートは?」

「そっそれはもう少し落ち着いてから……」

ジロリとフィナが俺を見た。そのあとイタズラが成功したように笑う。

「孤児院ですか……どうなるんでしょうね」

「当然、食べられない子供を食べさせることを目的とするんだけど、だからといってタダで食べさせる気はないんだ。当然働いてもらう。働けば何らかの技能が付くかもしれない。あと、字の読み書きと簡単な計算ができるようにしたい」

 いろいろ考えるのが楽しくニヤけていたのかもしれない。

「ご主人様が楽しそうです」

「そうか?」

「はい!」

 フィナが嬉しそうに微笑んでいた。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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