アイナの事情
誤字脱字の指摘、助かっております。
鍛錬の場へ移動すると、ヘルゲ様とミスラ兄さんがまだ朝の鍛錬をしていた。
「おはようございます。お二人さん」
「おはようございます。ヘルゲ・バストル様、ミスラ・バストル様」
「ん、おはよう!」
俺たちは二人に朝の挨拶をする。
「おはようマサヨシ。イングリッド殿下もおはようございます。あと、そこのちっこいのもおはよう。それでどうした? 何かあったのか? ラウラとの結婚の期日が決まったわけではあるまい?」
ヘルゲ様 が俺たちに冗談で返す。
「ああ、ノルデン侯爵の件が意外と早く終わったんで、オークレーン侯爵の不正の証拠を持ってきたんだけど……」
「なに? あれから数日しか経っておらんが、もう終わらせたのか?」
「ああ、ノルデン侯爵はこの証拠を認め自害したよ。その結果まあいろいろ押し付けられたがね。ノルデン侯爵自筆の手紙の内容を認める書類も添付してあるから、後はヘルゲ様の使い方次第だな」
俺は、収納カバンから纏められた手紙の束を出しヘルゲ様に渡した。
ヘルゲ様が軽く口笛を吹くと黒服の男が現れる。
そして、黒服の耳元で何かささやくと手紙の束を渡した。
黒服の男はすぐに館の中へ入る。
どっかに保管しに行ったのかな?
「マサヨシよ、そのちっこいのは何者だ? どこかで見たような気がするんだが……」
「ちっこい」と言われる度、アイナの眉がピクリと動く。
「この子は俺がドロアーテで拾った子だ。面識はないと思うが……」
俺がヘルゲ様に説明すると。
「聖女に似ておる」
あっこれ、さっきもあった。
「私はマサヨシの妻になるの!」
アイナ、再び無い胸を張ってのアピール。
爆弾投下。
「おまえ、このような幼い子にまで手を……」
勘違いのミスラ。
「ミスラ兄さん違いますから……」
「マサヨシさんは、アイナちゃんとよく寝ています」
傷を広げるイングリッド。
「しかし、ラウラは大丈夫か? 年齢的にマサヨシの当たり枠に入っているのか?」
ニヤけているから、多分楽しんでいるヘルゲ様。
「だーかーらー、勘違いも甚だしいから……俺普通だし、二十五歳の候補だって居るんだから」
「マサヨシは当たり枠が広い……」
再び投下のアイナ。
「手あたり次第って訳じゃな」
「あー、言い訳するほど言い訳にならない気がする」
俺があきらめると、
「まあ、マサヨシをからかうのは面白いが、ここまでにして……」
と、話を切った。
やはり、楽しんでいましたね。
ヘルゲ様の顔が少し真剣になる。
「そのちっちゃいの、ミスラがドロアーテで捜してた子だろ?」
「よくお分かりで」
「えっ、まさか。ドロアーテの街の子供はすべて調べ尽したと報告にありました。どの子も検査済みの紙を持っていたと……。ですから、『死亡は確認できなかったが、その子は死んだと思われる』という報告を出したのです」
「ミスラよ、マサヨシが居るんだぞ? 証拠をうまく隠してわざと検査させれば『この子は検査済み』って紙が貰えるんだろ? 二度手間がないってお前が俺に言ってたじゃないか。つまり、誰かに一度検査させてしまえば、この子は自由の身になれるわけだ。」
「年の功だね、その通りだ」
「マサヨシ様、なぜそのような事を?」
「ん? 捕まると面倒そうだったから」
「面倒だからって……。私の報告は……」
「ミスラ兄さん……悪い、ミスラで呼ぶ。いいか?ヘルゲ様」
「わかった、儂が許す」
「父上!」
泣きそうな顔になるミスラ。
「あきらめろ」
ヘルゲ様がニヤリと笑う。
「ミスラ、アイナの捜索を指示した者は、わざわざ奴隷に落としてまでアイナをドロアーテに放り込んだんだろ? 聞いたら隷属の紋章には追跡機能もあるって話じゃないか? 俺が隷属の紋章を上書きしたから反応がなくなって、焦った誰かがミスラに捜索を指示したわけだ。で、伯爵家に指示を出せるのは、王、公爵、侯爵」
「そうだ、オークレーン侯爵からの指示だった。この条件の娘を急ぎで捜し報告しろと……」
「だから、ミスラはあんなにやる気がなかったのか……」
「そうだよ! 何でオークレーンなんかのために俺が動かなければいけないのか」
「まあ、そのやる気のなさでアイナは助かったんだがね。で、その上に居るのは誰だ?」
「アビゲイル・オースプリング。オークレーン侯爵の実の娘、そして王の正室だ」
ミスラが真剣な顔をして俺に言った。
「そこまでして探す理由があるってわけか……」
すると、
「マサヨシよ、儂の推測なのだが……」
ヘルゲ様 口を開く。
「王と聖女の仲が良かったというのは聞いたことがあるか?」
「はい、魔族の王に聞きました」
「お前がアイナという娘は、王と聖女の娘なのではないのか? 王と聖女が仲がいいという話が出た当時、正室であるアビゲイル様には子が居なかった。その時に王と聖女との間に子を成したというのならば、アビゲイル様が嫉妬にかられるのも頷ける」
ヘルゲ様のあと淡々と語りだすアイナ。
「お母さまは私の妊娠を知ると、王都から逃げました。すでにアビゲイル様の嫉妬による嫌がらせがひどかったためです。私が殺されるのは目に見えていたと言っています。名も知らぬ寒村に部屋を借りそこで私を産んだそうです。何もなく私とお母さまの二人でつつましく暮らしていましたが、ある日黒装束の男たちが私たちを襲ったそうです。お母さまは殺され私には印がつけられた……。どういう理由かわかりませんが、私はドロアーテに投げ出され、そして生き抜いた。泥水をすすって腐ったものでも食べて……」
アイナは俺の腕をそっと掴んだ。
「そういや、フィリップの通夜の時『お母さまが来てる』って言ってたな」
「そう、ゴブリンを倒したあと、お母さまが見えるようになった。私の能力が上がったからみたい。でももうすぐ居なくなる。私が安心して生活できるようになったら居なくなるって言ってたから……」
「オークレーン侯爵の件が終わればって事か?」
「私が命を狙われなくなったら安心できるって言ってた」
アイナが俺を見上げた。
「マサヨシは終わらすつもりなんでしょ? マールのためにも」
「そうだな、アイナのためにも終わらせないとな」
そう俺が言うと、アイナが俺のおなかに顔を埋めてきた。
「マサヨシよ、一つ気になることがあるんだがいいか?」
ヘルゲ様が俺に聞いてきた。
「ん? 何?」
「隷属の紋章を上書きしたと言っていたが本当か?」
「ああ、上書きしたぞ? だから、アイナがドロアーテで消えたことになったんだよ」
「隷属の紋章の上書きはできないと聞いていたのだが」
「膨大な魔力を使えば可能。紋章が焼き付いて赤くなる。その後の変更は効かなくなるがアイナは俺の下に居るって言ってるから問題なし」
「そう、妻になる!」
またやってるし……。
「と言う事は、お前は膨大な魔力を持っていると言う事か?」
「んー、そうだね。多分この辺を灰にできるぐらいの魔力はあるんじゃないかな」
「INTのランクは?」
「内緒。でもヒント、二文字」
「何? SSだと?」
「まあ、そういう事で……」
正直に言う必要はない。
「ヘルゲ様、証拠は渡したから、うまく使って。ラウラも明日か明後日あたりから騎士団に復帰させるからよろしく」
俺は「悪い、国王調査が要らなくなるかもしれん」そう思いながら、扉を出し家へ帰るのだった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




