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兄貴の不安

誤字脱字の指摘、助かっております。

 繋いで、アイナとイングリッドと扉を開けようとしたとき、扉の向こう側から机をたたく音と声が聞こえてきた。

「王よ! 魔族でないあの男にイングリッドをやるなど、私には納得できません」

「なぜだ?」

「魔族の血が薄くなります。イングリッドは翼持ちです。血が濃いのですよ?」

「別に気にする必要はあるまい? 翼を持っていようが持ってなかろうが強い者は強く、弱い者は弱い」

「そうですが……」

「マサヨシは思慮深くもある。わざと誰にも言わずにノルデン侯爵の件を進めたのだ。お前がイングリッドの帰還をすぐに儂に言っておれば、あのようなことにはならなかった。ウルフよイングリッドが急いでここに帰ってきた理由をお前が推測できれば、ノルデン侯爵に話すことなどなかっただろうに……」

「ぐっ、でもあいつは甘い。ノルデン侯爵を家族に会わす必要などなかった」

 酷い言われようだな……。イングリッドも顔をしかめている。

「儂はあの甘さも気に入っておる。為政者じゃないのだ、甘さがあっても良かろう? もし、城内で捕らえたとしても、あいつなら『俺が責任を持つから家族に会わせてやれ』と言うたかもしれぬの。あのまま反感を持った侯爵家が領兵を出し国軍との戦いになってみよ。国の中にしこりが残ったのだぞ?」

「王よ! なぜマサヨシの肩を持つのです。私はあなたの跡取りですよ?」

「ウルフよ何を恐れておる? 自分の届かぬものを見たからか? この国をどうかされるとでも?」

「…………」

「マサヨシは国の経営などに興味はないよ。それがわかれば、儂なら力を持つ者をどうやってうまく使おうかと考える。あのフィリップ・ノルデン侯爵のようにな。あの死に際は見事だった。お前は王になる男だ。今後自分より強き者に出会う事もあるだろう。その者をどう扱うかで、国が生きるか死ぬかが決まる。即断も必要だ。『勘』を鍛えねばな」

「だから『勘』を鍛えておられたのですか?」

「そうだ『勘』は知識と経験がないと当たらぬ。当たると気持ちいいしの。マサヨシの件は大当たりだったぞ? じゃが儂も『勘』が外れて痛い目を見たことがある。今のお前のようにな……。お前もいろいろ経験をして『勘』を鍛えろ。失敗しても儂が尻拭いはしてやる」

「王よ……」

「まあ、儂もイングリッドが嫌がっておるのなら身を挺してでも止める。だが、イングリッドはマサヨシを好いておる。だから、許したのだ。本来娘など政略結婚の道具として考えればよいのだろうがな。儂も身内には甘い。為政者失格だな」


「バン」と扉を開け、

「お父様、大好き!」

 と言ってイングリッドが国王(オッサン)に抱き付いた。

「マサヨシ、聞いておったのか?」

 苦笑いの国王(オッサン)と兄貴。

「まあね」

「どこから?」

「俺とイングリッドの婚約をそこのウルフに反対されたところからかな」

「俺を呼び捨てなど……」

 ウルフの顔に怒りが浮かぶ。

「俺を嫌いなのはいいが、俺に嫌いと言うことの不利益を考えていない。では俺がお前に敵対心を持ったらどうする?」

「我が近衛兵をもってお前を倒す!」

「できないことを言うな!」

 俺が大声を出したことにウルフが驚く。

「結果お前が俺に倒されたとしよう。そうすればオッサンは国をあげて俺を討伐しようとするだろう」

「だろうな、儂と儂の国の面子がある」

 国王(オッサン)が言う。

「俺も本気でやる。そこで俺が勝ったら、この国が滅びるぞ? まあ、極端な話かもしれないが起こりうることなんだ。それを考えられず、勢いに任せて言うようじゃダメなんじゃないか? 一言を堪えることも必要だと思うがね。」

 おれは諭すように言った。


「まあ、俺が国を滅ぼしたとして俺に何が残る? 残されたイングリッドや魔族からは恨まれるかもしれない。俺の妻候補からも疎まれるかもしれない。良いことなしだ」

「ん? 私は一緒に居る」

「ありがとな、アイナ」

 おれはポンとアイナの頭に手を置いた。

「まっ俺はお前に嫌われようがこの国には手を出さないさ。イングリッドが居るからな」

「イングリッドが居なければ?」

 ウルフが聞く。

「ノーラも居るしなあ」

「ノーラ・ノルデンが居なければ?」

「さあ? それこそ『勘』を鍛えて考えろ。俺が答えを言う必要はないだろ?」

 俺はニヤリと笑う。

「はっはっはっは」国王(オッサン)が豪快に笑った。

「マサヨシの方が一枚上手じゃな」

「ぐっ」ウルフが呻く。

「マサヨシよ、お前はいくつなのだ?」

 国王(オッサン)が聞いてきた。

「二十二歳、今年で二十三になります」

「そうよのう、しかし思考が年齢に合わん気がする」

「まあ、色々苦労しましたから」

「ふむ、まあいい。イングリッドのことはよろしく頼むぞ」

「畏まりました」

 俺はわざとらしく頭を下げるのだった。



ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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