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ノーラ変貌

誤字脱字の指摘、助かっております。

 朝目覚めると、俺の右腕にはアイナが……左腕にはイングリッドが抱きついていた。

 ベッドは別だったはずなんだが……。

 高い天井を見ながら思う。

 ノルデン侯爵のことはとりあえずは終わったかな? 

 あとは、ノーラが次期当主に認められれば、フィリップの家臣たちがノーラの家臣としてやっていくでしょう。

 ノーラの力も見せつけたしね。


 俺は二人を起こさないようにベッドを抜け、着替えて部屋を出ると、メイドが一人やってくる。

「マサヨシ様、おはようございます。ノーラ様がお呼びですが……」

「君は俺が部屋を出るまで待っていたのか?」

「そう申し付けられましたので……」

「すまなかったな、ノーラのところへ案内してくれ」

 俺はメイドの後を付いていく。すると泣き声の聞こえた部屋に着いた。

「こちらにノーラ様がおられます」

 そう言うとメイドが離れていった。


「コンコン」

 ノックをして反応を待つ。

「どうぞ」

 少し疲れた声が聞こえた。

 俺は中に入る。

 そこにはお嬢様らしい明るいピンクに彩られた部屋があった。

 ノーラはその部屋の中央に体の線が強調されるような服を着て立っていた。

「変ですか?」

「いや、年相応の部屋だろ?」

「いえ、この服です」

 あっ、そっちね。

 違和感しかない。

「んー綺麗だと思うぞ? ただ、着せられた感があるかな? 夫人にでも言われたか?」

「はい、この服を着れば殿方はイチコロだと……」

 ノーラが苦笑いしていた。

 イチコロってこっちにもある言葉なのか? 

「別に色仕掛けしなくても、俺はノルデン侯爵家を助けるがね」

「そうですか、それでも」

 ノーラはスッと顔が変わり、俺の前に来て、

「昨日はありがとうございました」

 と深々と礼をする。

 顔には化粧で隠したつもりだろうが涙の跡が見える。

「前にも言ったが、フィリップに頼まれたからな。礼なんていい」

「それでも、私だけではノルデン侯爵家が笑われていたでしょう」

「これでも後見人だからな。言っただろ『今後お前が何を言おうと助ける。ノルデン侯爵に加担する。お前の意思は関係ない。だから、お前も俺が何しても感謝する必要もないし礼を言う必要もない』って」

 ノーラの顔が歪む。

「でもな、お前に感謝されるってのもいい気分だな。フィリップに騙された俺だが、その点は良かったと思ってる」

「えっ」

「『フィリップに押し付けられて』って言う理由もあるが、それ以上に情が移ってきたんだと思う。だからそんな服着なくても見捨てたりはしないよ。いつもの服着てろ。恥ずかしいんだろ?」

「いっいえ……あなたならいいのです」

 何でモジモジ? 

「ん? 俺じゃなくてもいいだろ? そういうのは自分の好きな男に見せてやれ」

「だから、あなたでいいのです」

「へ?」

 ポカンとする俺。


「昨日、お父様の手紙の中に書いてあった『優しい』という言葉がよくわかりました。あなたは私が恨んで何をしても自分で何とかして、私があなたを刺そうとした時のように私を見て苦笑いするだけでしょう。それでも私がどうしようもならなくなれば、私を助けてくれる。力を持つ者の温かい優しさ……。それはお父様みたいなんです」

 フィリップ、お前の娘はファザコンだ。

「王の前でノルデン侯爵家の後見人になることとその後の婿入りの話を決めたと聞きます」

「ああ、言った。でも婿入りは確定じゃないんだがね」

「確定です。お父様はその時、私のことを『ドラゴンよりまし』と言ったみたいですね。あなたはそんな女を手なずけたのですから。責任をとってください」

 なんだその理論……。

「夫人は?」

「大賛成です」

「何で『大』がつくんだ?」

「あなたが圧倒的過ぎたんです。母は『あれは勝てない。でも考えてみて、後見人なのよ? あれが居れば我が家の存続は確実。大きくなることさえできるかもしれない。ちょっとデブだけど、優良物件よ!』って言ってました」

「俺って優良物件?」

 貴族社会のしたたかさなのだろうか? 

 変わり身早すぎだろ? 

「はい、『ドラゴンライダー』で『王に面識があり王女を娶る予定のお父様が認めた男』。政治力は別として我が家を守るのに、これほどの男性は居ません」


「で、お前は?」

「私は……『まだ泣く時じゃない』と怒られたときに『この人が私の傍に居てくれたらいいな』と思う自分が居ました。悩んだのですよ? あなたは私の父を捕らえた男です。でも、お父様が言った通り優しかったんです」

 ああ、逃げ場なし。

「そういう風に思わせた俺に責任を取れと……」

「はい!」

 一瞬ノーラの顔がフィリップと重なった。

 ああ、フィリップと同じ顔だ……。俺の逃げ場をなくしていく顔だ……。

 もう逃げられないんだろうなあ……まあ、いいけど。

「言っておく、俺には八人の妻候補がいる、そしてお前を入れれば九人だ。それでもいいのか?」

「強い男に女性が集まるのは当然のことです。ノルデン侯爵家としては、子種を頂き跡継ぎができれば問題ありません。でも、私としては、愛してもらいたいです……きゃっ言っちゃった」

「きゃっ」て何?


「まあ、落ち着け」

「あっ、はい。気持ちが昂って」

 軽く深呼吸するノーラ。

「とりあえず、俺、人族なんだけど、いいのか?」

「それは大丈夫だと思います。魔族と人から子供ができる場合。魔族側の方に似ます。それこそ人族の血が入っているとわからないくらいに」

 魔族の遺伝子の方が優性なのかね? 

「私たちの子供には居ないでしょうが、翼が生えてくる子が居ますね」

「子供の事はまだ気が早いな」

 恥ずかしそうに顔を伏せるノーラ。

「でも、翼って?」

「先祖返りと言われています。魔族の始祖と言われる者の血が濃いという証明になり喜ばれます」

「魔族の始祖ね」

「人との戦いをやめ共存を始めた最初の魔族。女性だったと聞きますが名前は残っていません。人の男性を愛したと言い伝えられています」

「ちなみに私にも翼はあるんですよ? 確か、イングリッド殿下にも……」

 背が見えるような服を着ているのだが、翼のような物は見えない。

「見せてもらえるか?」

 ノーラは目を瞑り何かを意識した。するとノーラの背丈ほどもあるコウモリのような翼が一対背中に生えた。その翼が、悪魔を思わせた。

「翼は成人すると好きな異性にしか見せてはいけません。責任を取ってもらいますからね」

 恥ずかしいのか、翼で体を包む。

「そう言うのは先に言っておいてもらえるか? わざとやったようにしか見えないんだが……」

 小悪魔って奴かね。

「はい、わざとです」

「お前、やっぱフィリップの娘だわ。よく似ている」

「親子ですから」

 ノーラが意地悪な笑顔になった。


「で、そこのお二人さん、のぞき見はいい趣味じゃないぞ?」

 扉の向こうでガタンという音がする。

「マサヨシとノーラがイチャイチャしてるから入れなかった」

「アイナ、イチャイチャはしてないぞ?」

「あー先にノーラに翼を見せられた」

 イングリッドは悔しそうにしている。

「イチャイチャしたかったんですが、してくれませんでした」

「ほら、ノーラが一方的だろ?」

「ノーラの計略?」

 アイナが首を傾げる。

「正確には、ノーラのお母さんとノーラの計略だな」

「目的は達成しています。私はあなたと婚約しましたから。翼の責任は取っていただけるんでしょ?」

 ノーラが横目で俺を見る。

 お前も変わり身早いわ……。

「まあ、フィリップとの約束だからな」

「約束ですか?」

「そういう理由にして恥ずかしさを誤魔化してる……じゃいかんか?」

「いいえ、だったらいいのです」

 ノーラが攻めてくる。

「マサヨシは『女に弱い』」

 二ーって顔をしてアイナが言う。

「正確には、『手を出した女に弱い』じゃないかしら?」

 イングリッドは服を脱ぎながら言う。

 俺、手を出してないぞ?

「お前何しているんだ?」

「マサヨシさんに翼を見せようかと……」

「聞いた話によると、成人後は好きな異性だけに見せていいんだろ? 今の状態はそれじゃない。そういうのは、二人っきりの時にするものじゃないか?」

 紫色の肌が赤紫になるほど真っ赤になる。

 納得したのだろう……渋々服を着なおす。

「お前、それ手伝い要る奴?」

「いや、大丈夫」

 意外と早くイングリッドは着終わった。


「私はあなたを何とお呼びすれば?」

 ノーラが聞いてきた

「呼び捨てでもなんでもいいぞ?」

「旦那様でどうでしょう? いずれは私の夫になる人です、それでもいいと思うのですが?」

「ノルデン侯爵当主は俺じゃないんだから旦那様は無いと思うが……所詮入り婿だろ?」

「そうですね、でしたら一対一や誰に話しかけているかわかる時には『あなた』、多人数で話している場合には『マサヨシさん』と呼ばせてもらいます」

 アイナは気にしていない。「好きに呼べば?」って感じかな? 

「私は『マサヨシさん』のままかな。今までそう呼んできたし」

 イングリッドが言う。

「まあ、状況によって変わるだろうから、好きなようにすればいいさ」


「一応葬儀が終わった、これでひと段落か?」

「そうですね、領内の事は家臣による統治、今まで通りになると思います。あなたのお陰で周りの者がノルデン侯爵を軽んじることは無いでしょう」

「それじゃ、後見人として他に何かあるか?」

「特には……お帰りになるので?」

 寂しそうな顔をするノーラ。

「ああ、オッサン……おっと王に報告しないとな。イングリッド連れて外に出たからね。謝っておかないと……」

「次にここに来るのは?」

「そうだなあ、遅くとも明日には来ると思う。早ければ今晩?」

「えっ、そんなに早く?」

「王都から来たような方法で来るから距離は関係ないんだ」

「あっ」

 思い出したのだろう。ノーラの顔が明るくなった。

「まあ、そういうわけでオセーレに戻る」

「お帰りをお待ちしてます」

 俺は扉を出し王の部屋へ繋ぐのだった。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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