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胸を張るノーラ

誤字脱字の指摘、助かっております。

「ただいま」

 ノルデン侯爵の館の部屋に戻るとイングリッドが暇そうにしていた。

「おかえり。あれ? アイナちゃん連れてきたんだ。でもなぜ?」

「ああ、アイナに司祭をやってもらおうと」

「またまた、アイナちゃん小さいからそんなこと出来るはずが……」

 とたんに機嫌が悪くなるアイナ。

 せっかく機嫌良く来てくれたんだ、ここでへそを曲げられてはたまらない。

「まてまて、俺は神聖魔法ではアイナに全幅の信頼をおいているぞ? 知らないのか? ヒューホルムにプロテクションかけたのもアイナだぞ?」

 俺が誉めたので、アイナの機嫌が戻る。

「えっ、町全体が覆われたという、あのプロテクションをアイナちゃんが?」

 おっと、アイナが威張ってる。無い胸を反らしてるぞ。

「ちなみにブレスによる祝福も可能らしい」

「それって十年ほど前に出てきた聖女と一緒じゃない!」

「そんな人がいたんだ」

「急に話を聞かなくなったけど、どうなったのかしら?」

 アイナの母ちゃんかな?

「まあ、そういう事で、司祭の代わりでアイナに通夜と葬式を仕切ってもらいたいんだが……」

 頷くアイナ。

「あとは、調理場に行って、食材の供給をすればいいかな? イングリッド、部屋に居るのも疲れたろ。一緒に行くか?」

「はい」

「アイナは?」

「行く」

「じゃあ、勝手に部屋の外へ出てしまおう」

 俺たちは部屋を出た。


 リビングのようなところへ行くと、ノーラと夫人、あまりいい顔をしていない。

「悪いが調理場を教えてもらえないか?」

 通りかかった使用人に聞き調理場へ向かうと頭を抱えている料理人たちが居た。

「どうかしたのか?」

 料理人の一人に聞く。

「我々と関わるのを恐れて、店が食材を卸してくれないのです。普通の野菜はあるのですが食卓を彩る高級な肉が手に入りません。明日の葬儀の後に出さなければならないのに……」

「これを使え!」

 俺は収納カバンからオーククイーン、ワイバーン、サイクロプスの肉をきれいなまな板の上に出した。そして数個のコカトリスの卵も……。

 料理人は出てくる素材を見て驚く。

「これなら、フィリップ様の顔が潰れるようなことはありません。当然次期当主のノーラ様の顔も」

「ならいいんだ、美味しいのを頼むな」

「はい、腕によりをかけて作ります」

 これで料理は大丈夫。

「あと、菓子になるようなものはありませんか? 通夜に使うものが少なくて……」

 ついでに聞いてきたようだ。

 作り置きしてあった、メレンゲを焼いた菓子を山盛り出す。

「これでいいか?」

「これ何?」

 イングリッドがつまみ食いをする。

「えっ、美味しい。何これ」

「俺が作ったやつ」

「マサヨシのは美味しい」

 アイナが口をモグモグさせながら言う。

 お前もつまみ食いか!

「王城の料理人にも教えてよ」

「お金になりそうだから言わない」

「ケチ!」

「ケチで結構! さて、次はアイナを紹介しに行くか」

 リビングへの階段を上るのだった。


「通夜と葬儀を仕切る司祭は決まったのか?」

 居るならそれでいい。

「もうダメ!今晩までに来れるような者が居ない」

 ノーラが答えた。

「ブレスによる祝福ができればいいんだろ」

「バカ言わないで! 祝福のできる司祭なんてこの辺じゃ居ないの。王都まで行かないと! ただのヒールが使える司祭だって居ないのに!」

「司祭の代わりをここに連れてきた……俺の仲間」

 ノーラがフンと鼻で笑う

「そんな小さな子が司祭の代わりをできるわけないじゃない!」

 アイナの眉が上がる。ちょっと怒ったかな? 

「ブレス!」

 アイナが叫ぶと、周囲が明るくなる。ノーラや夫人の顔から疲労が消えた。

「「えっ」」

「黙っておいて欲しいんだが、こいつは聖女だ」

 俺とアイナはニヤリと笑う。

「このような小さな子が……」

 夫人が驚いていた。


「アイナ、段取りは大丈夫か?」

「ん、大丈夫。母さんとフィリップが来てくれた」

「えっ、アイナ、お前の母さんはあとで聞くとして、フィリップ来てるのか?」

「来てる。そこ」

 アイナは何もない空間を指差す。

「『大変そうだな』って言ってる」

「お前のせいだ」

「『お前なら任せられる』だって」

「へいへい、約束したんだ、働くさ」

 アイナのスペックの高さが半端ない。

「アイナが葬儀を仕切るんでいいか?」

「えっええ、私にはその選択肢しかないから……」

 ノーラはしょぼんと下を向いた。


「次期当主さん。聞いてもらっていいか?」

「えっ?」

 ノーラがこっちを向く

「お前侯爵になると言ってもぽっと出の新人だろ? 知らないことが多いのは当たり前じゃないか? お前のオヤジさんもそういう時があったと思うんだが……」

「フィリップが頷いている」

 アイナが言う。

「あれを見ろ使用人が不安がってる。当主であるお前が下を向いてどうする。俺の事は(かたき)を上手い事使ってやったって胸張ってりゃいいんだよ。空元気でも空威張りでもいいから胸張ってろ!」

 沈黙が訪れる。

「……えっぐ……えっぐ……」

 すすり泣きが聞こえ

「うわーーん!」

 ノーラは俺に抱きつき泣き崩れる。

 不安なんだろうな。

「泣くな! 今は泣くな。お前が泣いていいのは葬儀が終わってからだ」

 俺はノーラの肩を持ち立たせると、ノーラは涙をぬぐい胸を張って一人で立つのだった。


 通夜、葬儀とつつがなく進む。

 フィリップもアイナの祝福で昇天したようだ。

 その後の参列者に出す食事も終わった。

 侯爵にしては葬儀に来た者は少なかったが、

「次期当主は侮れませんな。急な葬儀だというのにあのような素材を手に入れ我々に出せるとは」

「通夜に出たお菓子も見たことがありませんでしたが甘く美味しかった」

「私は初めてブレスを使った祝福を見ました。あの荘厳な雰囲気。フィリップ様が亡くなられ次期当主があのような小娘では考えなければならないと思っていましたが、あのような司祭を呼べるのであれば今後とも付き合いを続けなければ……」

 と、概ね好感触だったようだ。

 口コミでもいいから葬儀の事が広がっていけばいいだろう。

 まあ、ノーラは今から大変なんだろうがね。

 与えられた部屋に俺とアイナとイングリッドとで戻る時、ある部屋の前から泣き声が聞こえる。

 やっと、思いっきり泣けるな……お疲れさん……。

 俺たちは部屋へ戻るのだった。



ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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