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侯爵の手紙

誤字脱字の指摘、助かっております。

 その夜は王城で食事を取り、リードラと二人で寝た。まあ、「甘やかす」という約束のためもあったしな。まあ、色々いじったが、何も無かったという事で……。

 寝る前に事情の説明で一度家に帰った時、アイナが本当にほっぺを膨らませているのを見て、俺とリードラは笑った。拗ねて部屋に行ったので、後でフォローが必要だろう。

 そして夜が明ける。


「コンコン」扉がノックされ、俺は返事しないのにそのままイングリッドがドアを開けた。

「おっはよー。キャッ、まさか昨夜は」

 イングリッドが俺とリードラの姿を見て驚いていた。まあ、俺は上半身裸、リードラは全裸だ。

「何にもしちゃいないよ、甘えさせただけ。リードラとの約束だったからな」

「約束だからなのか?」

 ちょっと拗ねたふりをするリードラ。

「んー、それ以外もある」

「だったらいいのじゃ」

 リードラは笑った。


「じゃれつくのはいいけど……マサヨシ、ノルデン侯爵は自害したわよ?」

 イングリッドは腕を組み柱にもたれている。

 婚約決まってちょっと性格変わった? 

「えっ、もう? こんなに早く?」

「侯爵からの申し出だったみたい。『もう思い残すことは無い、イタズラもできたしね』と言って笑ってたみたいよ?」

「侯爵め……置き土産がデカすぎる」

「あとは『コレを持って行って欲しい』って、あなたに……」

 封蝋がされた手紙と契約書を渡された。

「妻と娘へ俺が届けろって? 注文が多いぞ」

「そういう事らしいわね」

「遺体は?」

「棺桶に入れて、馬車で侯爵領へ行く準備をしているわ」

「ちなみに、どのくらいかかる?」

「七日ほどだと思う」

「そんなに経って腐って腐臭のする死体を見せるなど俺にはできないからな。俺が侯爵領へ遺体を持って行くよ。リードラ手伝ってくれるか?」

(ぬし)よ当たり前じゃ」

 俺とリードラは服を着る。

 そしてイングリッドについて遺体安置所へ行った。

 侯爵用? の豪華な馬車に乗せられた棺が見えた。

(ぬし)よコレでは扉は通らんぞ? (われ)が持って行こうか?」

「さてどうするかね。イングリッド、やはり棺だけよりは馬車があったほうがいいんだろ? 罪人とはいえ元当主が戻るんだ」

「そうね、そのための馬車だから」

「貴族ってのは見栄えがいるんだな」

「要は面倒くさいのよ」

「王女のお前が言う事じゃないな」


 俺は、収納カバンを漁る。そして、オークレーン侯爵のデカい扉を取り出した。

(ぬし)よそれをどうする?」

「それってただの扉でしょ?」

 ああ、俺が扉を作ったところって、三人しか知らないんだったな。

 おれは、猫型ゴーレムの扉をイメージし扉へ魔力を流し込む。

 んー、扉がデカいせいか魔力が食われる。

 暫くすると魔力の流入が止まり扉が自立した。

(ぬし)よまさか……」

「そう、扉のデカい版だよ。今回は扉がデカかったからかは知らんが結構魔力が食われた、ちょっとだるいね」

「マサヨシさん、ここまでしなければいけないの?」

「仕方ないだろ? 押し付けられたとはいえ後見人だからな」

 俺はノルデン侯爵の庭をイメージし扉を開ける。

 そこには昨日寝ころんでいた庭があるのだった。

「イングリッド、俺は馬を扱えない。御者を呼んで……って……」

「私は御者ができるから動かすわ」

 既に馬車に乗り扉を越えるイングリッド

「イングリッドはじゃじゃ馬じゃったのじゃな」

「そうみたいだな」

 俺とリードラも扉を越えた。


 突然現れた俺たちに、兵たちが驚き俺たちを囲む。

「私の名はイングリッド・レーヴェンヒェルム。ノルデン侯爵の遺体を届けに来た。次期当主であるノーラ殿をお呼びいただきたい」

 とは言え、王女としてのイングリッドを見たこともないのだろう。どうしていいのかわからない兵たちはオロオロしていた。すると騒ぎを聞きつけた男が走り寄ってくる。

「お前たち、何があった」

 男の耳元で一人の兵士が話す。

 その言葉が終わるとイングリッドを見た。そして焦る。

「これはこれはイングリッド殿下、ノーラ様をお呼びしますので少々お待ちください!」

 ノーラを呼びに走って行った。

「あれ誰?」

「この館の家令。私を見たことがあったのでしょう」


 暫くすると、小走りにノーラが現れる。

「殿下、お久しゅうございます」

「ノーラ、久しぶりですね。この度の事悲しく思います」

「いえ、父は自分のしたことの責任を取ったのです。仕方ありません」

 下を向き唇を噛みしめるノーラ。

 納得はできていないようだ。俺はノーラに睨まれる。

「マサヨシさんから話があるそうです」

 あぁ、ここで振られるわけか。

「お前のオヤジさんから預かったものだ。渡しとくよ」

 俺は手紙と契約書を渡す。

 ノーラが受け取り、内容の確認を始めた。

「えっ、あいつが私の後見人? 婿入り? お父様、何でそんなことを……えっ、あいつが優しい? 恨むなですって?」

 内容が信じられないのか手が震えている。そして俺を指さすと、

「イングリッド殿下、この男が私の後見人となり、後にはこの家の婿になるというのは本当ですか?」

 と聞いた。

「すべて真実です。わが国には自害の際、最後の願いを聞くのを知っていますね? ノルデン侯爵が王の前でおっしゃった願いは、『マサヨシさんにあなたの後見人となり、後には婿に入ってくれ』と言う内容だったのです」

「侯爵家であれば、うまくすれば国軍にも勝つことができたかもしれないのに……。戦って負けを認めるならまだしも、戦う前に負けを認めるなど……」

「私にはわかります。マサヨシさんが居たから負けを認めたのでしょう」

 えっ、俺が原因? 

「自害の前に少し話をしました。捕まった時『一目家族の姿を見たい』と言ったらマサヨシさんはこの館に連れてきたそうです。この場所に来た時マサヨシさんに聞いたそうです『裏切ると思わないのか?』と、すると『裏切られても、探してあんただけ捕まえる。ここの民や兵と争いたくないし、あんたの妻や娘に手を出そうとも思わない』と言ったと聞きました。そこでこの優しさに勝てないと思ったそうです。『領軍を出し戦ったうえで負けるよりも、負けを認めマサヨシにこの地を守ってもらうようにするほうがはるかに有益』と思ったと言っていました。最後にマサヨシさんの優しさをうまく使ってやったと笑っていました……。そして、これで安心して逝けるとも……」

 あのオヤジ……。

「なぜ、お前はこの国に加担する?」

 ノーラが俺に聞いてきた。

「んー、イングリッドが俺の婚約者だからかな? 身内に加担するのはダメか?」

「いや、それは……」

 ノーラは口ごもる。

「俺は、お前の後見人だ。だから今後お前が何を言おうと助けるからな。つまりノルデン侯爵に加担する。お前の意思は関係ない。だから、お前も俺が何しても感謝する必要もないし礼を言う必要もない。俺とオヤジさんの約束だから……。ああ、婚約は気にしなくていいぞ。嫌いなやつと結婚するのもいやだろ? 親の仇みたいなもんだし」

 おっと、大事なことを忘れてた……。

「俺の事より、フィリップ・ノルデン侯爵に会ってやってくれ。王都から連れてきたんだ」

 俺は、馬車を指さす。

「お父様!」

 ノーラは馬車に上がり棺を開ける。

「お父様、ああ、こんなに冷たい」

「ノーラ。ノルデン侯爵は昨晩自害しました。普通の馬車ではここまで七日かかります。七日かかれば、色が変わって見れなくなったノルデン侯爵と会うことになるのです。『それじゃかわいそうだ』と。マサヨシ様が魔道具でここに運んでくださったのです」

 イングリッドがノーラに話す。

「お父様なぜ笑っておられるのですか? 安心した顔をなさっておられるのですか? これではあの男を、恨めないではないですか!(かたき)と思えないではないですかぁ……」

 ノーラは泣き崩れた。優しく撫でるイングリッド。


 少し遅れ、ノルデン侯爵夫人が現れた。

 ノルデン侯爵の姿を見て涙を流す。そして、ノーラを叱った。

「ノーラ、あなたは次期当主となる者です。しっかりなさい!」

 ノーラが持っていた手紙を読み何か納得したようだった。

「イングリッド殿下、マサヨシ様、夫フィリップの遺体を運んでいただきありがとうございます。王都に居た者がこのようにきれいな姿で領地に戻ってこれることはありません。我々は今から通夜を行い明日には葬式そして埋葬することになります。それらに後見人たるマサヨシ様のご列席をお願いしたいのですが……」

 俺がイングリッドを見ると、イングリッドは頷く。

「ああ、参加させてもらうよ」

「私も参加します」

 俺とイングリッドは頷いた。

 リードラは、どうしていいのかわからないようだった。

 まあ、魔人の風習だからな、俺もわからん。


 俺たちはノルデン侯爵の館の一室に通される。結構広い部屋。ベッドルームも四つある。

 ここで待っているようにノルデン侯爵夫人は言うと部屋を出ていくのだった。

 俺たちは個々にソファーへ座る。

「ふう、通夜って何をするんだ?」

「いいえ、特には……。死者の周りで昔話をしたりするだけ。簡単なお菓子とお茶を飲みながら故人をしのびます」

(われ)にはわからん」

 リードラは首をひねる。

「それでいいんじゃないのか? 簡単にわかるものじゃないだろうし」

「葬儀は?」

「通常は司祭が来て葬式を執り行い、その後食事をして解散となります。ただ、ノルデン侯爵は罪人です。来てくれるかどうか」

「関わりたくないと……」

「そうなりますね」

 そんな話をしていると外から

「司祭が来れない? なぜ? えっ王都へ行っている?」

 そんな声が聞こえてきた。

 来たくなくて居留守を使ったか、実際に王都に行っているのか……どっちでもいいか。

「お前ら、ここに居てな。ちょっと見てくる」

 俺は部屋を出た。


 俺は勝手に館を歩く。

「このままじゃ、葬式もできない次期当主と笑われてしまいます」

 ノーラの声が響いた。

「どうかしたのか?」

 勝手に出てきた俺に驚くノルデン侯爵夫人。

「いえ、何も……」

「そうか」

 そう言っている前で、

「ウルザ様、どこの司祭も来れないそうです」

「ウルザ様、食材はあるのですが、侯爵家の威厳を保てるようなものがありません」

 そう報告すると二人の使用人は下がっていった。

 あまり状況はよくないみたいだね。

 俺は使用人の一人を追いかける。

「司祭と言うのはどの程度のレベルなんだ?」

 と使用人に聞いた。

「ああ、ヒールが使える程度ですね。本来はブレスで死者へ祝福を与えてもらう必要があるのですが、そのような高位な司祭は居ませんから。この辺ではヒールを代わりにします」

「ブレスが使えれば、魔族でなくてもいい?」

「そうですね、ブレスを使える司祭を連れてきたとなれば、侯爵家としての威厳は十分に保てます」

「ありがとう」

 続いてもう一人を追いかけ、

「食材ってどの程度のものがあればいい?」

 と、聞いてみた。

「高位の魔物の肉があればいいですね」

「高位とは?」

「手に入る高位といえばハイオークでしょうか?」

「オーククイーンやプリンセス、サイクロプスとかワイバーンなんかあったらどう?」

「それは、一種類だけで王が周辺の王を呼んだ時に出るか出ないかと言うものです。それを全部出せるなら侯爵家の箔は上がります」

 ふむ、冒険者ギルドへ素材の回収に行くかね。

 俺は与えられた部屋に戻った。

「イングリッド、リードラ、ちょっと出かけてくる」

「えっ、どこへ?」

「家経由、冒険者ギルドまわり」

(われ)はここで役に立たん。一度家に帰る。一緒に帰ってもいいかの?」

「ああ、いいぞ」

「じゃあ、私は待っています」

 普通の扉を出し、家のリビングへ繋ぐ。そしてリードラと二人で家へ帰るのだった。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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[一言] 蘇生を使うかと思った 自害はしたでしょって言って
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