最後の望み
誤字脱字の指摘、助かっております。
俺たちは日が暮れ星だけが瞬く空を飛ぶ。ポツポツとある灯が村や集落か。遠くに一面を埋め尽くす町の灯が見えるのが魔族の王都オセーレなのだろう。
「リードラ、そろそろいいだろう。降りるぞ」
俺たちは平原に降りた。
「何をするつもりだ?」
予定外を恐れるノルデン侯爵。
「ああ、面倒なんでね、ちょっと近道をするんだ。その前にリードラ、人化してもらえる?」
リードラは人化して裸体をさらす。
「侯爵、眼福だろ?」
ふと見るとノルデン侯爵がリードラの美しさに見とれていた。
「リードラ、これ着て」
リードラは着替えを受け取り着替える。
「君は何者なんだ?」
「さあ、強いだけの男かな? さて、早速王様に会いに行こう」
俺は例の扉を出すと、王の部屋の中へ繋ぎ扉を開けた。
先触れなしだがまあいいだろう。
「何なのだこの扉は? ここは王の部屋の中では?」
ノルデン侯爵を先に王の部屋へ入れる。
「オッサンお邪魔するよ。ノルデン侯爵連れて来……た……ぞと……」
王の机の両側には重役っぽい偉そうなオッサンたちとイングリッド、そしてその兄貴ウルフが立っていた。
イングリッド以外は俺の扉を見て驚く。
「オッサン」言わない方が良かったかな? そんなことを考えていると、
「ノルデン侯爵、王の呼び出しにより参上しました」
片ひざをつき、ノルデン侯爵が頭を下げた。
「ノルデン侯爵よ、よく来た。呼び出しの理由はわかっておるな」
おっさんは王様らしい低く通る声で話す。
逃げて捕まった者を「呼び出し」で済ますとは……。
「はい」
ノルデン侯爵が頷く。
「お前が我が国のために為したことが多いのを知っているが、だからと言って悪事を為していいというわけにはならん。よってノルデン侯爵に自害を申し付ける。申し開きはあるか?」
その場が静まりかえる。
「王よ、ありません」
よく通るノルデン侯爵の声が響いた。
「うむ、この国では自害の際、最後の望みを聞くのが通例になっておる。無理な事でなければ、叶えるのも通例。ノルデン侯爵よ何かあるか?」
えっ、そんなんあったんだ……。
ノルデン侯爵は俺の方をチラリとみてニヤリと笑う。
ん?
「王よ、私の最後の望みはマサヨシ殿に我が娘ノーラの後見人になってもらい、後にノルデン侯爵家の婿として家へ入ってもらうことです」
周囲の重臣たちがざわめく。
王はニヤリと笑う。
「ノルデン侯爵よ儂が先に目をつけたのだぞ?」
「早い者勝ちでございます」
ノルデン侯爵はオッサンを出し抜いたのが嬉しかったのか笑っていた。
「最後の最後でやりおるな」
「王よ我が国は一夫多妻が許容されておりますから、どうにでもなりますぞ? わたしは妻と娘そして領民が安心して暮らしていければいいのですから」
おっさんとノルデン侯爵はお互いに「はっはっはっは」とにこやかに笑う。
蚊帳の外な俺。
「ノルデン侯爵、俺は『してやられた』って言ったほうがいいのかな?」
「君にそう思われるなら嬉しいな。でも、頼む! 君なら我が家を……娘を守れる」
「俺は領地経営など知らんよ?」
「経営は家臣ができる。君は娘と領地を守ってくれればいい」
ノルデン侯爵は土下座に近い姿勢で俺に頼んでくる。
「あの娘、俺を刺してきたぞ?」
「君なら大丈夫。竜よりはましだから」
「竜よりましって何だそりゃ? あっ、言っとくけど、俺の伴侶候補ってイングリッドとあんたの娘ノーラ込みで九人だからな」
「それまた多いな。だが、強いものに女が集まるのは、世の常。娘を邪険にしないのなら問題ない。だから頼む」
どっかで聞いたことあるな。
「マサヨシよ死出の者の願いだ聞いてやってくれんか?」
オッサンがノルデン侯爵のフォローをする。
「ふう」俺はため息一つつくと、
「俺がこの約束を守らなかったら、どうして欲しい」
とノルデン侯爵に聞いた。
「そうだな、お前が家を起こしノーラを妻にするというのはどうだ?」
どっちにしろ妻にはしないといかんのね。
「わかった。ノルデン侯爵、名は? 俺の義理の父親になるかもしれない人の名を知らないのも失礼だろ?」
フッと笑うと。
「フィリップだよ」
と答えた。
俺は収納カバンから契約台を出す。
収納カバンに驚く重臣は無視した。
契約用紙に「ノルデン侯爵家とノーラの事を守れなかった場合、マサヨシは家を起こし、ノーラを妻としとその家臣を配下とする。この契約はフィリップが死すとも継続する」と書く。
「ほい、これ」
ノルデン侯爵に契約書を見せる。
「君、これは……」
「俺は魔法書士! 俺の魔力は高いから破棄されることのない契約書を作ってやるよ。安心して逝けばいい」
俺とノルデン侯爵は契約台に置いた契約書に触れる。そして俺は魔力を流し込み契約が終了した。
「一つ貸しだからな」
俺が言うと、
「無茶を言う。返せるはずがないものを……」
ノルデン侯爵は笑った。
オッサンは話は終わったと判断したのだろう、
「ノルデン侯爵を連れて行け」
控えていた兵士がノルデン侯爵を連れ王の部屋を出ていった。
オッサンが俺の方を向く。
「して、マサヨシよ」
「何だオッサン」
「この後どうするのだ?」
「わからない。ノルデン侯爵の娘の後見しないといけないんだろ、どうすればいい?」
「マメなのだな、約束など反故にすれば良いだろうに」
「俺はあの娘に人の責任って奴を話してしまったからな。約束をしたら守るのは当たり前だろ? この国では違うのか? それに契約書もあるしな」
ノルデン侯爵が自害するのはどうのこうのと、あのノーラって娘に言いきったからな。
「そんなはずはない。約束をしたら守るのが当たり前だ。マサヨシが、約束をどう捉えているのか知りたかったのだ」
いちいち試すのはやめて欲しい。
「マサヨシよ、イングリッドを妻にするんだな?」
「ああ、オッサンの許可が出たら俺んちで住むって約束したからな」
「じゃあ、婚約を公表していいんだな?」
「ああいいぞ? そのつもりだし……ただ、俺とイングリッドじゃ格が合わないと思うが……」
「ドラゴンライダーなら、イングリッドの夫として十分。気にしなくていい」
オッサンは重臣を見回すと、
「さて、聞いての通り、マサヨシ自身がイングリッドとの婚約の意思があると言っておる。よってマサヨシはイングリッドの夫内定。そのつもりで扱うように」
と言った。
「ハッ!」重臣たちが頭を下げる。
反論無しなのね。
「やった」と言ってイングリッドが俺に抱きついてくるのだった。
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