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別れ

誤字脱字の指摘、助かっております。

 さすがリードラ、しばらく飛ぶと四方を外壁に囲まれた街が見えてきた。マップに映る位置からして、あれがノルデン侯爵領の領都セリュックのようだ。近づくにつれ町の中心に広大な庭を配した大きな館が見えてきた。あそこにノルデン侯爵の家族が居るのだろう。俺たちは館の入り口前に降りた。


「ここで良かったんだろ?」

 ノルデン侯爵を降ろした。

 兵が現れ俺に槍を向ける。

「やめろ、手を出してはならん!」

 ノルデン侯爵が手で制すると兵が槍を収めた。

「ああ、ここでいい。しかし君は私の剣さえも取らずに館に返してくれる。私が裏切るとは思わんのか?」

 んー不思議がられてもな。

「そうだなあ、オヤジさんが剣も持ってないってのはカッコ悪いだろ?」

「恰好って……」

「それにな、裏切られたらその時はその時で考えるよ。信用して裏切られるのは俺のせいだからね。人を見る目が無かったんだ。でももし裏切られても、探してあんただけ捕まえる。ここの民や兵と争いたくないし、あんたの妻や娘に手を出そうとも思わない。」

「負けるとは思わないのか?」

「負ける気は無いよ。王城で見ただろ?こいつも居るしな。おっと、時間は無いぞ?日が暮れるまではここに居る。それまでに別れを済ませてくれ」

 日はまだ高く日暮れまでは時間があるとは思うが、今生の別れをするなら時間は足りないだろう。

 俺はノルデン侯爵に背を向けるとリードラと共に館の入口から離れた。


 庭の中央あたりでドラゴン状態のリードラが横になると、俺はその腕にもたれてぼーっとレーダーを眺める。周囲を数十名の兵が囲むが無視だ。

 館の中でノルデン侯爵を中央に数個の白い光点が集まる。妻と娘そして家臣だろうか。

 その後光点が離れ、ノルデン侯爵の周りには二つの白い光点が残った。

 のぞき見しているようなので、俺はレーダーから意識を外す。

 しかし、意識を外そうとしたとき、一つの白が赤く変わる瞬間を見た。恨まれたのかもしれない。

 まあ、こういう立場だ、仕方ないのだろうな。


「暇じゃのう」

 リードラが言う。

「ああ、暇だな」

「放っておくのか?」

「ああ、放っておく」

「逃げるかもしれんが……」

「その時はその時」

「適当じゃの」

「ああ、適当。俺が動いたって何も変わらないよ。だから待つしかないんだ」

「仕方ないのう」

「そう仕方ない」

 空が赤くなり始めていた。もうあまり時間は無いな。

 リードラが目を瞑り、俺も目を瞑る、そして静かに時を待った。


 リードラが体を動かし、俺を起こす。

(ぬし)よ来たぞ」

「おう、ありがとう」

 丁度目覚めたとき、兵たちの輪が割れ、俺の前にノルデン侯爵が二人の女性を連れ現れる。

 一人はノルデン侯爵の年齢に近いなノルデン侯爵の妻か。もう一人は十代後半?成長期は終わっている。娘だろうな。

 妻はハンカチで涙を拭っている。

 娘の方は気丈にも涙は見せず、俺をキッと睨んでいた。

 ああ、敵対心の赤はこの娘だったか。

「君は敵地で兵士に囲まれても寝られるんだな」

 ノルデン侯爵は俺を見て苦笑いする。

 俺はリードラを指差し

「まあ、何かあればこいつが起こしてくれるから」

 と言った。

「グルルル」とドラゴンらしい声を上げるリードラ。

「で、家族との別れはできたか」

「ああ、できた。思い残すことが無くはないが、諦められるものばかりだ」

 ノルデン侯爵は憑き物が落ちたようなすっきりとした顔になっていた。

「正直だな」

「この期に及んで嘘を言ってどうする?」

 ニヤリと笑うノルデン侯爵。

「じゃあ、行こうか」

 俺がノルデン侯爵を導きリードラの背に乗ろうと歩き出した時、娘が飛び出す。

「ノーラ、やめろ!!」

 ノルデン侯爵は娘を止めようとしたが届かない。

 俺はノルデン侯爵の娘が短剣を両手で持ち俺に体を預けてくるのが見えたが、止めることはしなかった。

 娘が持った短剣は何も音がせず柄まで埋まる。

「悪いな、この服下手な鎧よりも強いんだ。刺さらないと思う」

 娘に睨まれ続ける俺。

 やっぱり睨まれるんだな。

「人ってのは自分がやった事に責任を取らなきゃいけない。俺もだしお前のオヤジさんもそうだ。お前の母ちゃんも、お前でさえそうだ。お前のオヤジさんはやっちゃならんことをやった責任を取るために死ぬんだ。それもお前や母ちゃんが死なないために潔く。それをお前が考えなしに俺に手を出して……オヤジさんの考えを無駄にするつもりか?笑って送り出せとは言わないがせめてオヤジさんの意を汲んで黙って送り出してやれよ。結果、俺を恨むのはいい。俺はなかなか死なない。だから気が済むまで復讐してくれ」

 ストレス解消のサンドバックぐらいにはなれそうだな。

 娘は短刀を握りしめ下を向く。泣き出したのか震えだすと手の力が抜け短刀が滑り落ちた。

「君……名は?」

 ノルデン侯爵が俺に聞いてきた。

「ああ、俺はマサヨシ。オッサン……おっと国王とちょっと縁がある冒険者だ」

「わかった、ちょっと迷惑をかけるかもしれないが後のことは頼むよ」

「迷惑?後のことは頼むって?」

「内緒だよ。さあ、行こうか。王に謝り自害しなければならんからな」

 ニヤリと笑うノルデン侯爵、そして自らリードラの前に立つ。

「わけわからん。リードラそれじゃオセーレに戻るぞ」

「わかったのじゃ」

 俺はリードラの背に乗るとノルデン侯爵と共にオセーレに戻るのだった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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