王の部屋
誤字脱字の指摘、助かっております。
「コンコン」イングリッドの王の部屋へのノックが廊下に響く。
「誰だ!」
今度は国王の声が響いた。
「お父様、私です、イングリッドです」
「イングリッド? まだ帰る時期じゃないはずだが?」
疑いの声が聞こえる。
「お父様に見てもらいたいものがあり、急ぎで参りました。入ってもよろしいでしょうか?」
「本当にイングリッドなのか?」
「お父様、いい加減にしないとこの部屋に隠してある女性との逢引の証拠をお母様に見せますよ!」
おっと最終手段?
「それを知っているならイングリッドに間違いないな。入れ」
認める国王。
「失礼します」
イングリッドと共に、俺たちとリードラに片手で釣り上げられたノルデン侯爵は王の部屋に入った。
おっと凄いねぇ、金銀を使ったうえに装飾が凄いや。俺だったらこんな所じゃ集中して仕事ができないな。ただ机の上には書類の山が二つほどあった。千枚単位じゃないか……。国王もデスマーチを体験しているのだろうか?
王の部屋の隣には白い光点が三つほど並んでいた。
「お父様、急な訪問申し訳ありません。王都にて滞在中、我が国のノルデン侯爵と人の国のオークレーン侯爵の間での不正の証拠を手に入れましたのでお持ちした次第です」
国王の前に手紙の束を広げるイングリッド。
証拠を提出され、後がないノルデン侯爵は暴れ逃げようとするが、リードラはびくともしない。
流し読みで手紙を確認し封蝋に押された印璽を見る。
「ノルデン侯爵、儂に申し開きはあるか?」
「私はオークレーンにそそのかされただけです。私は悪くない」
「ノルデン侯爵よ、それはオークレーン側でも同じことを言いそうだな。それはいい、調べればいい事だ」
王様は手元にあったベルを鳴らした。
隣の部屋に居た三人の兵士が現れる。
「この者を牢に閉じ込めておけ!」
其の三人の兵士に連れられノルデン侯爵は王の部屋を出ていく。
すると、それを見送る俺の耳に精霊の声が聞こえてきた。
「終わりましたぁ、敵対心のある者で意識のある者はこの部屋の周囲には居ませんよぉ」
「ん、終わった」
だそうだ。
やることが終わった精霊たちは俺の体に擬態する。
「ところでお前たち何者だ? イングリッドを知っておるようだが?」
「お父様、こちらはマサヨシさんと言います。聞いたことは有りませんか? 『炎の風』を単独で討伐したパーティーの事を……」
「そんなパーティーが居たと聞いたことが有るな」
「そのリーダーがマサヨシさんです。それと、パルティーモで人族の男性に助けてもらったと書いた手紙を送りましたが……」
「おお、そんな男が居たと手紙に書いていたな。名も言わず去ったとか言うとったな」
「そして、フォランカの途中で盗賊に襲われていた私たちを助け、最後にヒューホルムでゴブリンの群れに襲われた私を助けてくれた男性がこのマサヨシさんです」
イングリッドは興奮気味に話す。
「何? つまり、『炎の風』の討伐をし、パルティーモ、フォランカ、ヒューホルムでお前を助けた男というわけか?」
「はい、更にはドラゴンライダーでゼファードのダンジョンを単独攻略したとか……」
「何だその豪勢な肩書は? イングリッドよ、マサヨシ殿は誰かに仕えておるのか?」
「いいえ仕えておりません。私も仕官を要請しましたが断られました」
イングリッドが答えた。
「マサヨシ殿、儂に仕える気は?」
しつこいね。
「無いですね。宮仕えは疲れます。それに戦争に使われるのも嫌ですから」
そう俺は答える。
「そうか……」
イングリッドが王の耳元で何かを話す。
「おぉ、それならばマサヨシ殿は儂の義理の息子になる訳じゃな?」
んー聞こえてるし……。
「マサヨシさん、お父様の許可が出ました。あの家に一緒に住みます」
「えっ、早いね」
「はい、私がマサヨシさんの妻になれば、魔族とは敵対しないだろうと言いましたから」
「オッサン……あっランヴァルド様、いいんですか?」
「『オッサン』で良い。このほうがいいと儂の『勘』が言っておる。マサヨシ殿を王城に入れた儂の『勘』が正しかったのが嬉しいのだ」
俺は『勘』っていうのは経験と知識に裏打ちされているから当たると思う。だから、このオッサンは凄い経験と知識を持っているんだと思う。しかし『オッサン』と呼ばせてくれる国王って凄いな。
そんなことを考えていると、傷ついた兵士が王の部屋へ戻ってきた。
「どうした?」
国王が問う。
「申し訳ありません、牢に入れる前にノルデン侯爵に逃げられました」
俺は兵士に近寄り治癒魔法をかける。
「ノルデン侯爵領に入られたら領兵を出すでしょう。こちらも国軍を出して力業で潰す必要が出てくる。早く捕えないと」
「イングリッド、ノルデン侯爵の領都は?」
「セリュック」
俺のマップにセリュックが表示される。
「ちなみに距離は?」
「馬車……いや、なりふり構ってないでしょうから、馬ね。馬を潰すつもりで三日かしら」
イングリッドが腕を組み考えながら言った。
「儂は罪を悔い自害するのなら、娘に跡を継がせても良いと考えておる。争いは国を疲弊させるからな」
「俺がノルデン侯爵を探しに行ってくる。その辺の説得はオッサンに任せるよ」
俺は、バルコニーから外を覗く。
「マサヨシさん、どうなさるので?」
「リードラが居るからね、探すのは何とかなるだろう。ちょっと庭借りるぞ?」
そう言って、王の間のバルコニーからリードラと飛び降りる。
「リードラ、服は予備を出すからそのまま戻ってもらえるか?」
「わかったのじゃ!」
リードラが服を破り白いドラゴンに変わる。そして俺を背に乗せると空へと駆け上がった。
ノルデン侯爵をレーダーに緑の光点で表示させた。そんなに遠くには行っていない。リードラに指示を出し光点の方へ飛んだ。
リードラは当然馬より早く、更にはドラゴンを見た馬が恐怖で棹立ちになりノルデン侯爵を振り落としてしまった。
その目の前に俺とリードラは降りる。
「ノルデン侯爵、このまま逃げるのか? このまま帰れば領軍と国軍の戦争になる。国軍が勝とうが領軍が勝とうが疲弊は免れない。負ければお前の妻も娘も一族郎党さえ斬首の可能性さえある。国王は『ノルデン侯爵が罪を悔い自害するならば、娘にノルデン侯爵を継がせてもいい』と言っていたが……お前はどうする?」
「見逃してくれないか、一目、妻と娘の姿が見たい。それから王都に戻り自害する。私はそういう事をしたのだから……。ただ、領都に残した妻と娘の姿が見たいのだ」
ノルデン侯爵は縋るように俺に言う。
走れメロスかよ……。
「はあ……俺は甘いんだろうなぁ……。リードラ、ノルデン侯爵を掴め。セリュックまで連れて行くぞ」
リードラがノルデン侯爵を掴むと俺は背に乗った。
「セリュックに連れて行ってやる。時間をやるから妻と娘と別れをしてこい」
俺たちは、セリュックに向け飛び立つのだった。
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