扉回収
誤字脱字の指摘、ありがとうございます。
ラウラは俺と腕を組んだままだ。腕を組むことに慣れたかな? 見た目は仲のいい二人なので、鋼鉄の処女だとは誰も思うまい。
ただ、心ここにあらずかなぁ?
空が赤くなりだした。そろそろ家具屋に行っても大丈夫かね?
通りを進み家具屋にたどり着く。店先に先程の女性店員が居た。
「すみません、そろそろ扉が出来上がっているころだと思いまして」
俺が店員に声をかけると、
「ああ、出来上がっていますよ。こちらへ」
と、奥の倉庫のようなところへ促される。
そこには、明るい木枠に囲まれた赤い扉が立てかけられていた。
「このような感じになりましたが、よろしかったでしょうか?」
「かわい……ん、コレでいいです」
ラウラ、いま「かわいい」って言いかけたろ? 女の子らしいリアクションが取れないのも損だな。
「これでいいらしいから、引き取っていくよ」
俺は引換証を渡す。
「馬車か何かを準備なさっているのですか?」
店員が聞いてきた
「ああ、そんなものは要らないんだ」
扉を収納カバンの口に当てると、中に入っていった。
「えっ!」
店員は驚く。
驚いている店員の後ろのほうに、館の玄関になりそうな大きな両開きの扉が無造作に置いてある。
「店員さん、あれは?」
「あれは、ある貴族に依頼されて作った扉なのですが、玄関の大きさに合わないという事で作ったまま放置されている物です。貴族の館の扉、特に玄関と言うのは一品物で作るために、他の貴族の館の扉とは大きさが合いません。それに誰かのお下がりと言うのも嫌がります。そういうわけで売れ残って放置してあるのです。捨てるにしろお金がかかってしまいますからね」
「ちなみに、いくらだったら売ってくれる?」
「えっ、お買いなるのですか?」
「大きい扉も持っておきたいのでね。それに、持ち運びには困らない」
カバンを指差す。
「ちょ、ちょっとお待ちください」
店員は奥に走っていった。
「ん?」
「どうしたんでしょうね?」
俺とラウラは首を傾げる。
暫くすると恰幅のいい男性、店主かな? が現れた。
「この者から聞いたのですが、あの扉を買われるので?」
「ああ、今後あると便利そうなんでね」
「取り付けはどのように?」
「収納しておくので、取り付けは要らない」
「でしたら、問題ありませんが……一つお願いがあります」
これが言いたかったのかな?
「この扉は王都内では使わないでいただきたい」
「それは問題ないですね。使うならドロアーテの郊外にある俺の家で使います」
「ふう、なら良かった」
店主は胸をなでおろした。
「ちなみに、なぜこの王都では使えないので?」
「納める予定だった貴族から、難癖付けられることがあり得るからです」
「その貴族の名は?」
「オークレーン侯爵と言います。残忍です。一年か二年前、ダークエルフを手籠めにしようとして反抗され顔に傷がついたとか……。そのダークエルフはボロボロに痛めつけられ、奴隷商人に売り払われたとか……」
おう、ここでマールの情報……。
ラウラは知らないから何の反応もなしか……。
「注意しておくよ。ところで代金は?」
「そうですね、もう何年も売れていませんから。金貨一枚でお譲りします」
「安すぎない?」
「私も、縁を切りたい」
「わかりました、ではこれで」
俺は金貨一枚を渡し、大きな扉を手にいれた。
さて、何に使おう。
俺たちは家具屋を出て通りを歩く。
「さて、イライラしてますね。ラウラさん」
時間が経つにつれラウラが落ち着かなくなっていた。
「うっ、うん」
「先程の三人の件?」
「この王都で王都騎士団の末端にあのようなことをしている者がいるとは思わなかった。情けない」
苦々しい顔をしたラウラが居た。
「そういえば見逃したけど……」
「あれは、第三中隊の隊員なんです。肩に第三中隊の印が付いていたので……。私は第一中隊の中隊長。部隊が違うと干渉できないのが暗黙のルールです。忠告までが限界ですね。手を出せば内部での問題になります。兄には報告しますが私は団長の妹、団長に贔屓目で見られていると思われてしまうんです。父上の跡を兄上がついでからは顕著になりました」
「大変なんだな、王都騎士団も。」
「このようなことは表には出せません」
俺には言うんだ。
「で、第三中隊の中隊長は?」
「オークレーン侯爵子息」
「子息の父親の爵位がミスラより上っていうのも面倒そうだな」
「そうですね……。兄は強く言えないかもしれません。父上のころは言えたようですが……」
「何気にオヤジさん凄いんだな。でも、何とかしないといけないね。マールも絡んでるし……」
「マール殿絡み?」
ラウラが首を傾げた。ああ、言ってなかったね。
「ああ、あの家具屋で出てきた『奴隷にされたダークエルフ』ってマールの事だから。手の指は飛ばされ、目も見えない。そんで奴隷商人に売られた。当然そんな奴隷は売れないだろ? 後は売れ残りの部屋で朽ちて死ぬのを待つだけだったんだ」
「あのような美しいマール殿がそのような仕打ちを……だから何とかしたいと?」
「そうだね、マールの事もあるが、ミスラの事もある。兄貴になるかもしれないんだからね。少々風通しがよくなるのもいいかなと……でも俺は貴族のことがわからない。どのようにすれば貴族を没落させられる? 何なら貴族って言うのを辞めさせられる? そういうのを知らないんだ」
貴族の事など現代社会で普通習わないからな。
「兄の事は呼び捨てなんですね?」
ラウラはクスリと笑った。
「貴族の件は、お父様に聞いてみれば? あの人はミスラ兄さまに後を譲ったとはいえ、未だに子飼いの密偵を使って王都の情報を集めています……。それに、裏の事情に詳しい。だから、オークレーン侯爵も強く出られなかったのかもしれません。あの性格ですから、そういう事情は兄さまに教えていないのでしょう。『自分で調べろ!』ってことかもしれませんね」
「まあ、あのオヤジさんだから貴族の事を教えてもらう代わりにうまく使われそうな気もするが、それで何とかなるなら使われてみるのもいいかもね」
「はい、お父様も暇そうなので喜ぶでしょう」
ミスラの事で動く俺が嬉しいのかもしれない、ラウラがニコニコしている。
「さてと」
そういうと、俺は扉を出し二人でラウラの家の鍛錬の場所へと移動した。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




