彼女たちのこと。
誤字脱字の指摘、助かっております。
俺は扉を開けヒューホルムの宿屋へ戻る。
リードラは女性たちの護衛ってところだ。
あまり目立ちたくはないのでメタボ偽装はせず。クロースアーマーの上を外す。
宿屋の主人に不思議な目で見られたが、聞かれることも無くすんなり宿屋を出ることができた。
ああ、もう夕方か……。
夕闇の中、外壁に居る四人の姿が見えた。
四人に近づくと。
「終わったよ」
「そう、お疲れ様」
「お疲れ様です」
「ん、お疲れ」
「マサヨシ様、お疲れさまでした」
皆から労いの声がかかる。
「ただ、後始末があってな。皆に手伝ってほしい」
皆が頷く。
「まずは服と下着の調達だな。今からドロアーテに飛ぶから、三十人分ぐらいの下着と服を購入しなきゃならん」
「何でですか?」
「あのなマール、ゴブリンが捕らえた女性を置いておく館があって、そこに二十人ほどの女性が全裸に近い状態で囚われている。その女性たちに着せる服が要るんだ」
「わかりました。綺麗な服で身なりを整え、ゴブリンたちとは何もなかったと偽装なさるのですね。その後は?」
「次はアイナに、傷ついた女性たちを治療してもらう。ただ気分のいいものではないから覚悟しておいてくれ」
「マサヨシ、今更。マサヨシの役に立てるなら問題ない」
「ありがとう、アイナ。最終的には彼女たちの身の振り方かなぁ。そのまま帰りたい者も居れば、帰れない理由がある者も居るだろう。そこら辺は本人たちに聞いてからだな」
予定通り例の扉で直接ドロアーテのおばちゃんの店へ向かう。
おっとメタボ偽装は忘れずに……。うんうん、これこれ。
「おばちゃん、久しぶり」
奥からちっちゃいおばちゃんが出てきた。金の匂いがするのだろうニヤリと笑う。
「ああ、あんたか。で、今日は何の用だい?」
「依頼としては、女性ものの下着を上下三十着。あとは緩めの服の上下を三十着かな。靴もあれば助かる」
「ほう、大した量じゃないか」
「すぐにできる?」
「無くはない」
「あるってことでいいかな? 今回は急ぎだから服代に金貨一枚追加ってとこでどう?」
「だったら有るね」
「悪いけど本当に急ぎなんだ。すぐに頼むよ」
「わかった、嬢ちゃんたち手伝っとくれ」
そういうとおばちゃんは奥へと向かう。それを追うようにクリス、フィナ、アイナ、マールの四人はおばちゃんを追いかけていく。しばらくすると大きな袋が八袋カウンターの上に置かれた。
「あっ、忘れてた」
「まだあるのかい?」
おばちゃんが聞いてくる。
「ああ、ちょっと上等な服と下着を三日分ぐらい欲しいんだ」
「そういうことならもっと早く言っておくれ、また見繕わなきゃいけない」
おばちゃんが不機嫌になる。
「申し訳ない」
俺が謝ると、
「仕方ないねぇ。体格はどんな感じだい?」
「クリスぐらいかな」
「クリスはあんただっけ? 一緒に来な」
そう言ってクリスを連れて奥に向かった。
「何で上等な服が必要なんです?」
「王女様と女騎士の服が無いんだ。ずっと一張羅ってのも嫌だろ? そう思わないかフィナ」
「昔は一張羅でもあまり気にしなかったです。でも、お風呂が当たり前になって着替えるのが当たり前になったので、着替えられないのは辛いです」
「そういうこと」
こっちの世界では毎日風呂に入るというのはまず無い。ただ俺が風呂に入りたいからわざわざ大きな風呂のある家を選んだのだ。そして風呂の魅力に住人たちは取り付かれている。
「だから、着替えぐらいはできるようにしてやらないとな」
そんな話をしている間にクリスが袋を持って帰ってくる。
「マサヨシ、服の調達終わり。どうせ王女様とあの女騎士の分でしょ?」
「よくお分かりで」
「そんなだから増えそうになるのよ! 優しすぎ」
「でもクリス、お前も嫌だろ? 着替えが無いってのは」
「まっまあ、そうだけど」
口ごもるクリス。
「はいはい、急ぎなんだろ? 全部で金貨七枚。足が出た分はまけておくよ」
おばちゃんが話を切る。クリスを援護したのかね?
「ありがとうおばちゃん、話した通り、金貨八枚な」
そう言っておばちゃんに金貨を渡した。
「まいどありー♪」
ニコニコしているおばちゃんを背に俺たちは袋を抱え店を出た。
裏通りに入るとゴブリンの館の女性たちの服が入った袋を収納カバン仕舞い、扉を出してヒューホルムに戻る。
「クリスはこの袋を持って王女様のところに行ってもらえるかな? で、女騎士を着替えさせておいてくれ。俺の着替えとローブを回収したい。あと、ゴブリン討伐の報告もお願い。俺が行くよりは顔見知りのクリスのほうが王女様も安心するだろうしな」
「いいえ、多分あなたが行く方が殿下は安心するし喜ぶと思うわよ?」
「何で?」
「だって、いつでも危ない時に来て助けてくれる人なのよ? 賊から二回、ゴブリンから一回。そんな人を好きにならないはずが無いでしょ?」
「そんなもん?」
「そんなもん」
おっと、クリス? だけでなく周囲を見ると他も怒ってる。
「だったら余計に行かないほうがいいだろ?」
「まあねぇ。それでも何となくオチは見えてるんだけど」
オチって何だよ。
「それじゃ、俺たちはゴブリンの館に行くから任せたぞ」
さっさと移動するに限る。
そして、扉でゴブリンの館の前に移動した。
「主よ、お帰りなのじゃ。皆もよう来た」
リードラが出迎えてくれた。
あれ、ゴブリンの子の亡骸がない。
不思議そうにしている俺を見て気付いたのだろう。
「主が帰るまでの間にゴブリンの子たちの亡骸を埋めておいた」
「ありがとな」
「暇じゃったからの」
気を遣わせたかな?
「で、主よ、この女たちはどうするのじゃ?」
「洗浄魔法で洗って、アイナのフルヒールで回復させて、服を着せて、何もなかったことにして帰すつもり。まあ、色々事情がある人も居るだろうから、それはそれで対処だな」
さっき言ったことを端折ってリードラに話す。
「じゃあアイナ。悪いんだがこの人たちを治療してくれ」
「ん、わかった」
アイナがブツブツと小さな声で呪文を唱えると、女性たちの傷ついていた体がみるみる回復する。潰れていた目も見えるようになったようだ。
全ての女性たちが同時にである。
アイナ、お前の聖女特性って凄すぎだろ。
「あっ、見える」
「本当に見える」
「体も痛くない」
同じ境遇の者同士で喜びあっていた。
あとは服だな、その前に綺麗にしないと。
俺は洗浄魔法をかけ、女性たちの汚れていた体を綺麗にした。
「あんなに汚れていた体が……」
ボサボサの髪がつややかになり、垢で汚れていた皮膚に艶が戻る。
更に綺麗になったことで、恥じらいも復活したようだ。俺を見る目が痛い。
んー、別に見たくて見てるわけじゃないんだが……。
「とりあえずその格好じゃ帰れないだろうから、この袋の中の服を着てくれ、緩めの服を選んであるから少しくらい大きさが違っても何とかなると思う。靴もあるが、合わなかったら諦めてくれ」
そう言って、おばちゃんの店で買った服を袋ごと置いた。
「マール、男が居ると着替えづらいだろうから外に行く。あとは任せたぞ」
「畏まりました」
俺が館の外に出るとリードラ、アイナ、フィナがついてきた。
「主よ気を使い過ぎじゃ。助けたのじゃから堂々としておればよい。役得じゃろ?」
「そうだけど、まあ、お前ら居るから。お前らのほうが綺麗だろ?」
「我はいつでも脱げるぞ?」
「いやいや、今はいい」、
んしょんしょとアイナが脱ごうとしてる。
「どさくさに紛れて何やってる?」
「裸が見たいのなら……」
「今はいいって言っただろ? それにアイナの体じゃちょっとな……」
「ちっちゃいから?」
「そうだな、もっと大きくなってから見せてもらうよ」
「残念」
「残念」って何だ? 俺はロリコンじゃないぞ?
「だったら私が!」
フィナも脱ごうとする。
「だーかーらー、今はいいって言ってるでしょうが! もう居ないよな」
「マサヨシ様、囚われていた女性たちの着替えが終わりました。ですので、脱ぎましょうか?」
マールが一歩前に出てきた。
「そこでなんで脱ぐ必要がある? 繋がらんだろ?」
「残念」
今度は何の「残念」なんだ?
「あっそうです。一人無気力な者が居ます」
マールが報告してきた。
「着替える気力もないようなので、一応着替えさせましたが……」
「とりあえず館に戻るよ。他の人の意思も確認したいし」
俺は、ゴブリンの館に戻った。
館の中には着替えが終わった女性たちが居た。十代前半から二十代後半に見える女性たちだった。
まあ、種族によって見えかたも違うんだけど。
「俺があなたたちを助けたマサヨシです。いきなり聞くんだけど今後どうする? 洗われた服。綺麗な身なりから誰もあなたたちがゴブリンに囚われていたとは思わないんじゃないかな? ただ事実は知っての通りです。今までのことは変わりません」
女性たちは静かに聞いている。
「生きていく術があり、今までのことを心に秘め生きていくと言うなら、ヒューホルムまで連れていってあげます。行くところがなく、我々と来る気があるなら、我々のところへ連れていきます」
よく見ると、三グループに分かれていた。大多数と少数と一人。
「私たちはヒューホルムに戻りたいと思います」
大多数のグループの代表の女性が言った。
「わかったヒューホルムに連れていきます。で、君たちは?」
少数のグループに聞く。
「私たちは冒険者です。身寄りもありませんから帰る場所もありません。お金も装備もゴブリンたちに取られましたから……」
「主よ、その先の部屋に冒険者たちから奪ったと思われる武器を溜め込んでおったぞ?」
「装備があれば冒険者として続けていく?」
「今回のこともありましたし、正直言って安定した仕事につきたいのが本音です」
「何かできるの?」
「私は魔法。この子が剣、あそこに居るのは短剣が使えます。あと彼女は斥候を主にしていました。冒険者としての知識はあると思います。ただ、他のことは……」
「そう……。まあ、何か考えるよ」
冒険者代表は下がった。
そして、ポツンと一人、ただボーっとして焦点が合っていない少女? 年齢が分からない。この子もエルフなのか特長のある長い耳が目立っていた。
「君はどうする?」
俺のほうを見るがそれだけだ。
「行くところは?」
反応が無い。ああ、この子が無気力だと言っていた女性か。
「家族は?」
「主よ、ダメじゃ。心を閉ざしておる」
リードラが言った。
「現実から目をそらすために心を閉ざしてしまったのじゃろう」
ゴブリンに犯されるのだ、無理もない。
「しかし放っておくわけにもいかないだろ?」
俺は彼女の目を見て
「一緒に来るか?」
そう言うと、彼女は俺を見てコクリと頷いた。
「相変わらずじゃのう。まあ、それが主なのじゃろうが」
闇が広がり木々の間から星が見え始めた。
「暗くなってしまったのです」
フィナが言う。
「仕方ない、ここで野宿かな? 扉を使えば町まではすぐだが、今、扉を見せるわけにもいかないだろう。歩くにしろ夜道は危ない」
春になったとはいえ夜は寒い。俺は柵に使ってあった木を引き抜き、鉈代わりのダガーで薪を作っていく。三カ所ほど山にすると、エンに依頼して火をつけた。
また、買い溜めしてあったパンを切り皆に配る。普通のカバンに入る程度の量を出す。
一晩持てばいいので、カバンの情報をさらす必要もない。
「水しかないが我慢してくれ」
俺はコップを出した。コップにはスイが常に水を満たすので、回し飲みしても無くなることは無い。
「ああ、パンなんていつから食べてないのかしら……」
「美味しい。パンがこんなに美味しいなんて」
すすり泣く声が聞こえてくる。
どんな食生活だったんだろう。想像したくないな……。
ふと見ると。エルフの少女はただ炎を見ていた。
腹が満たされ体が温まったのか女性たちは固まり身を寄せ合って寝始める。
冒険者たちも。
エルフの少女は俺の背中にもたれて寝始めた。
リードラは「我は数日寝ずとも問題ない」ということで徹夜で見張り兼火の番。
フィナとアイナ、マールは場所取りのじゃんけんをしていた。
胡坐をかいた俺の前にアイナがちょこんと座り、俺にもたれて寝始める。それを恨めしげに見ながら、フィナとマールがお互いにもたれながら寝始めた。
じゃんけんの結果は見ればわかるか……。
しかし、後ろに少女、前にアイナ。これじゃ寝辛いぞ? あんまり俺のことが考えられてないような気がする……。そう思いながら浅い眠りについた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




