ゴブリンに負けるということ。
俺は、女騎士と思われる光点を追う。
俺を見つけたゴブリンが
「ギャギャギャ」
「グゲゲッ」
と何か言うが、何言っとるのかわからんわい!
女騎士に近づくにつれ俺ぐらいの身長のゴブリンが増えてきた。上位種なのだろう……。手には剣などの武器も見える。
それでも高速で移動をすると真っ二つにゴブリンが分かれる。俺が原因で敗走中ということもあるのだろう。俺の移動速度もあり、なんとか追い付くことができた。
紐で縛られ猿ぐつわをされた女騎士。鎧も鎧下もなく、下着さえ剥がれている。紐で各所が誇張されて見える。
女騎士には屈辱なはずなのだが、目は死んでおらずゴブリンたちをキッと睨みつけていた。
気付いたかな?
驚いた表情で俺を見る女騎士。
素早く女騎士を運ぶゴブリンたちの首を折り、女騎士を抱き上げる。すると俺の背後からひときわ大きいゴブリンが現れニヤリと笑った。
背後を取った優越感からか? 三メートルぐらいはあるな。ただ、雰囲気から察するに俺の相手にはならない。
振り向きざまに上位種の腹を蹴ると、腹が弾け向こう側が見えるようになった。靴には肉とも内臓ともつかないようなものがへばりつく。
んー、汚いなぁ。
俺は足を振って汚れを振り落とす。
ゴブリンたちは俺を中心に囲み近寄らなくなった。
「おう、お待たせ」
女騎士の両目に涙が溜まる。
「よく頑張ったな。王女は確保したから安心しろ」
俺は、縄を解き猿轡を外した。
そして、真っ白な肌についた傷を癒し洗浄魔法を使う。
ん、綺麗になった。
「ほい、このローブ着ておいてくれ。その格好は……その……まあ、俺には目の毒だ。要は綺麗すぎて困るんだよ」
俺がホーリードラゴンのローブを差し出すと、女騎士はそれを受け取る。
全裸の女性なんて見たこと……、あっ結構あるな。まあ、皆魅力的なのは仕方ない。女騎士の裸もそのうちの一つなのは間違いなかった。
「マサヨシ殿が来た。私が望んだ通りマサヨシ殿が……」
人目もはばからず……っていうか周りに居るゴブリンの目もはばからずってところかな? 抱きついてきた。
「だーかーらー! それ着てその体を隠せ! 息子が親離れしてしまう。それにな俺がここに来たのはカリーネの依頼だからな? たまたま、お前を見つけただけだ。間違えないように。でもまあ、よく頑張った! ご褒美だ」
俺は女騎士の頭を撫でた。よく鍛えられ肉感のある体を見下ろす。
ここは役得ってことで……。
女騎士が泣き出した。大きな体だが小さな声で啜るように……。
「怖かった……」
「お前無理しすぎだろ? ゴブリンに囲まれて怖かっただろうに」
「しかし私は騎士だから、恐怖に屈してはいけない」
「騎士だからって頑張り過ぎてもな」
「うん」
「でも今回はお前の頑張りのお陰で王女が助かったんだ。偉かったな」、
高圧的だった女騎士が見る影もない。
「じゃあ早く着替えろ。ヒューホルムに行くぞ」
「うん」
俺のローブ着る女騎士。
「着た」
んー、チラチラと見えるのがあって、ちょっと困るが全裸よりはましか……。
「じゃあ、背中に乗れ! 背負っていくぞ」
女騎士はおぶさってきた。
うっ、胸が当たる。
俺は女騎士を背負うと、ヒューホルムに向かってゴブリンの壁を突っ切った。ゴブリンも死にたくないのか俺を中心に二つに分かれて道ができる。お陰で難なく突破することができた。
女騎士を背負っているので、いい感じに背中に感触がある。
「お前って結構あるのな」
「何が?」
「胸」
「ボッ」という音が聞こえそうなぐらい赤くなり、背中を通して体温が上がるのがわかる。
そういう免疫は無いのか……結構かわいい所もあるようだ。
ヒューホルムへ向かう途中に馬車の残骸があった。そう、王女の馬車だ。その周りにはもう遺体とも言えないような肉の塊。引き裂かれたメイド服もあったから、王女様のお付きも殺られたのかも知れない。
ゴブリンの数が多すぎて末端まで食べ物が行き渡らないってこと? で、食べ物が無いから森から出てきて街を襲ったのか?
「なぜ……私は?」
「そりゃ……」
俺は女騎士を見る。
「今回ヒューホルムの街を落とすことができなかっただろ? ゴブリンの長、ジェネラルなのかキングなのかロードなのかは知らないが、怒りを収めるための道具として運ばれようとしていたんじゃないかな?」
「怒りを収める?」
「ああ、正確には怒りを発散する相手にされる予定だったってところだろう」
「女がゴブリンに負けるとはそういうことなのか……あのようにされ嬲られる」
女騎士はゴブリンに運ばれた姿を思い出したのかもしれない。
「ああ、さっさと殺されて食われるか、嬲られて死ぬか、ああ子供を作る道具ってのも聞いたことがある。そんなものなんだろうな」
女騎士は散らばる骨や肉塊を眺めていた。
ただ、そのまま放置しておくのは忍びない。
「弔ってやらないと……」
そう言うと俺は人の残骸を燃やす。そして両手を合わせた。
異世界流ですまんね。
「私だけが生き残った……」
女騎士は炎を見ながら呟く。
「人には生き運というものがあると思うぞ? お前はたまたま生き運があったんだよ。俺がもう少し遅かったらお前も死んでいたのかもしれない。『気にするな』とは言わないし『忘れろ』とも言わないが、生き残った者として前を向かないとな」
コクリと女騎士が頷く。
「で、まず俺はゴブリンの群れを殲滅……でないと、お前の仲間や王女様のお付きみたいな人が増えてしまう」
「私は?」
「お前は王女様の護衛、とりあえずお仕事頑張りましょう。何かあったら助けてやるから」
「うん」
女騎士は俺を見ると、ぎこちなく笑った。
「俺の着替えで悪いんだがこれを着ておけ、俺も男だからなそのままではお前の乳房なんかが見えて困る」
俺は収納カバンからズボンとシャツを取り出した。
女騎士は俺の着替えを着てローブを羽織る。
俺は再び女騎士を背負うとヒューホルムの街へ向かった。




