戦闘訓練所にて……。
誤字脱字の指摘、大変助かっております
戦闘訓練所に着くと、観客席らしき所に冒険者の姿があった。俺を指差し、
「お前知ってるか、あいつこのダンジョン攻略したやつだぞ?」
「えっあのデブが? 綺麗な女を連れてダンジョンに出入りしているって聞いたけど、でもあの話が出て十日も経っていないぞ?」
結構大きな声で話す。
余計な話を……。
ダンジョン攻略したことはそのうちバレることだとはいえ、今じゃなくてもいいんじゃない?
王女様はダンジョンを攻略したと聞いて驚いたのか
「マサヨシ様、ゼファードのダンジョンをクリアなさったので?」
と話しかけてきた。
「殿下、マサヨシは先日このゼファードのダンジョンを攻略しました。先ほどの部屋に金箱があったのを覚えていますか?」
俺の代わりにカリーネが説明する。
まあ、ギルドの名誉でもあるしな。助かるぞカリーネ。
「確かにありました、あの宝箱が伝説の金箱だったのですか。中身は何だったのでしょう?」
王女様気になるようだ。
「エイジングの薬です。あまり喜ばれないみたいですね」
残念そうに俺が言うと、
「エイジングの薬! あの少し歳が取れると言う?」
あれ? えっ人気ないんじゃないの?
「はい、そのエイジングの薬です」
王女様は少し考えると
「欲しい」
と呟いた。
俺は聞こえたがカリーネと女騎士は聞こえなかったようだ。
んー、これは聞かなかったことにしようと決めた。
「カリーネさん、マサヨシさんの仕官や貴族への取り立ての話は出ているのですか? ダンジョンを攻略するようなパーティーを抱える国や貴族が居てもおかしくないと思うのですが……」
うわっ面倒な話が出てきた。
「いいえ、三日前に攻略が終わったところですから、そのような話はまだ来てはおりません。報告は上げましたが領主も国王もまだ聞いていないと思います。王都のギルド本部にも伝わってないですね」
カリーネが答える。
そのあと王女様は俺を見ると、
「マサヨシさんは仕官する気はないのですか?」
と聞いてきた。
「私は気ままな冒険者が好きなので今のままでいいです。だから仕官する気はありません。先ほども言いましたがお金もありますし家もあります。まあ、転がり込んできた名誉もありますので、あとは気軽に生活できればいいのです」
今更、宮仕えする気も無いし、貴族みたいに経営する気もない。
「そうですか……」
そう言うと、王女様は何かブツブツ言いだした。良からぬことを考えていなければいいんだが……。
俺と王女、カリーネで話している間、女騎士は木剣を見ていた、手になじむものを探していたのかもしれない。
「この木剣を使わせてもらおう、あとこの盾だな」
一メートルとまではいかないが、そのくらいの長さの木剣を右手に持ちバックラーという奴だろうか、小型の円形の皮でできた盾を持っていた。
「マサヨシ殿は?」
「俺は……コレ」
目についた短剣を選ぶ。長さは三十センチぐらいだろうか。
軽く振ると「シュン」といい音がした。
「盾は?」
「要らない」
俺がそう言うと、女騎士はさっさと広場の中央へ行き俺を待つ。
そんなに急がないといかん?
そして、中央で向き合うと、
「さあ始めようか」
そう言って女騎士は構えを取った。
「悪い、カリーネ。開始の合図してくれるか?」
「いいわよ、それじゃ始め!」
カリーネが声をかけた瞬間、女騎士が動こうとする。しかし、女騎士が動くより前に俺は喉元近くで木剣を止める。
女騎士は見えてなかったようだ。
多分カリーネも王女様も見えてなかったんじゃないかな?
「はい、終わり」
俺がそう言うと、女騎士は驚いた顔で俺を見る。
「やはり私より強い、それも相手にならないほど……」
ボソリと一言言った後何か考えだした。
強かったらなんかあるのだろうか?
「マサヨシさん凄い! 動きが見えませんでした」
驚く王女様。
「あなた、本当に凄かったのね」
カリーネも驚いていた。
「カリーネは俺の戦闘を見たことなかったよな?」
「そうね、初めて見た。あの鋼鉄の処女が一瞬なんて……」
「まあ、それくらいじゃないと、元妻は倒せないってわけだ……」
二人で話していると、
「二人はどういう関係?」
王女様が聞いてくる。
「まあ、最終的には妻にすることになってます。いろいろ思うことが終わったらってトコですけどね」
「後、五人居るのよね?」
カリーネが言う。
「お前、それは今言わなくても……」
「マサヨシさんは一夫多妻なのですね。魔族も一夫多妻が許されています」
ん? どういう意味?
「ほう、魔族も一夫多妻なんですね」
「はい、だから大丈夫です」
「ん? 何が?」
「何でもありません」
そう言って王女様が目を伏せた。
「えーっと、それで俺への用事って結局何なのでしょう?」
何言われるか分からなかったから、結構構えてきたんだけどなぁ。
「ああ、私は助けてもらったお礼が言いたかったのが一番ですね。あとはマサヨシさんがどんな人なのか知りたかったのです。ですから用事は終わりました」
王女様が言う。
おお、ミッションクリア。
次は女騎士。
「私は……マサヨシ殿が私より本当に強い男か知りたかったのだ」
「んー、それを知ってどうしたかったんだ?」
「それは……今は言えない」
いつもより小さな声。
「そう、まあいいけど」
「で、目的は? 達成できた?」
「ああ、達成できた。後で迷惑をかけるかもしれんが、その時は頼む」
「へ?」
迷惑って何だ?
「まあ、迷惑って言っても俺が解決できるなら何とかするけど……」
「なら安心だ……私の用事は終わった」
ミッションクリア? 一応終わったかな?
そういえば……と思い出す。
俺は女騎士の剣を折っていた。
宝箱の中から色々武器は出ていたが、奴隷たちの持つ武器よりは弱かったので収納カバンの中だ。その中でレイピアを見繕う。
価値がわからんがミスリルレイピアってのがあったのでコレでいいかな? ミスリルってファンタジーじゃ強い金属じゃなかったっけ?
俺が収納カバンからミスリル製のレイピアを出すと視線を感じた。
「マサヨシさん、それは何ですか?」
王女様から声がかかる。
あっ、やらかした。最近、カバンを知っている奴の前でしか出してなかったから……知らない人のことを考えてなかった。
「ああ、俺専用の収納カバン。結構いろんなものが入って便利なんだ」
「これがあれば、物流に革命が……」
あっ、王女様が為政者の顔になってる。
「同じこと皆言うけど、俺以外使えないから」
そう言ってさっさと女騎士の方へ行った。
「この前、お前のレイピア折っただろ? これ代わりに使ってくれ。宝箱から出たものだから遠慮しなくていいぞ?」
俺はレイピアを渡す。
「えっ」
女騎士はレイピアを受け取ると鞘から抜き放つ。
「これはミスリル。こんな高価なものを……」
「さっきも言ったが宝箱から出た残りだからな、気にするな」
「本当にこれを貰っていいのか?」
「さっきも言った通り、俺が折ったレイピアの代わりだから」
本当に気にする必要はない……本当だ……。全然無理もしてない。でも、女騎士の目が変わった。
「マサヨシ殿、大事にする……」
そう言って女騎士はレイピアを抱きしめたのだった。
あっ、俺またやらかした。
カリーネの視線が痛い……。
王女様の視線も痛い? なんで?
「そろそろ私たちは帰ります。明日には我が王都を目指さねばなりません。長い旅になります」
王女様が言った。
「ちなみにどのくらいの期間が必要なのですか?」
「あと一か月ほどでしょうか」
「大変ですね」
「ドラゴンライダーが居れば、すぐ連れていってくれそうですが?」
ちらりと俺を見たが
「ドラゴンライダーなんて伝説ですよ。私は見たことがありません」
当然嘘だ。
「そうですか……あなただと思っていたのですが仕方ないです。それでは名残惜しいですが、失礼しますね」
残念そうな顔をする王女様。
そんな顔されてもなぁ……。
さっとカリーネが前に出ると、
「では私が案内しましょう」
そう言って王女様たちを案内していった。
一人残された俺……。ただなんか疲れたよ……。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




