ギルドマスターの部屋にて……。
誤字脱字の指摘、ありがとうございます。
ギルドマスターの部屋にはカリーネ以外には居ない。
居たら威圧とか暗殺とかされそうだし、いい結果にはならないだろう……というわけで、家で待機である。俺の姿はクロースアーマーにホーリードラゴンのローブ、あと体はメタボな感じにしてある。
しばらくすると「コンコン」とノックをしてギルドの受付が来た。
「王都騎士団代表の方がいらっしゃいました。お通ししてよろしいでしょうか? ただ……」
俺のほうを見ると、カリーネの耳元に近寄り小声で何かを呟く。
俺ってそんなに信用無いかね……。
カリーネがため息をつくと、
「仕方ないわ、いいわよ……」
と言う。
暫くするとコツコツとさっき聞いた受付の足音。その後ろから別のカツンカツンと重そうな金属音とトタトタと軽快な音が聞こえてきた。
俺のレーダーにも映っているのだが、先頭は敵対心無し……これが受付だとすると、一人は敵対心有り……ああ、女騎士かな? もう一人は……敵対心無し……誰だ? わけわからん。
「コンコン」というノック、そしてさっきの受付と見ただけで高そうな青いドレスを着た紫の皮膚の女性、年齢的には俺よりは少し下かな? あとは、例の女騎士。
「レーヴェンヒェルム王国王女イングリッド・レーヴェンヒェルム殿下と護衛の王都騎士団部隊長ラウラ・バストル様です」
紹介されたイングリッド・レーヴェンヒェルム殿下っていう女性はなんか、映画なんかで見たことがある、片足を斜め後ろの内側に引いて、もう片方の足の膝を軽く曲げる高貴な挨拶……何だったっけ?……まあいっか。あと女騎士は会釈のみ。
「で、誰?」
小声でカリーネに聞くと、
「現魔族の国の王女様と鋼鉄の処女と言われる女騎士よ、王都騎士団一の強さらしいわ」
小声で教えてくれた。
「フーン、王女様と鋼鉄の処女ね……」
まあいいや、関係ないし……。って思うんだけど、女騎士の方からめっちゃ睨まれている。
聞こえたかな?
「ありがとう、あなたお茶を持ってきてくれる」
カリーネがそう言うと受付け嬢は部屋を出ていった。
「私はギルドマスターのカリーネと申します。こちらがあなた方が身柄を確保しろと言っていたマサヨシです」
カリーネが俺を紹介してくれたので、軽く会釈した。
すると王女様は俺に近づいてくる。そして前に立つ。
「お久しぶりです。いつ以来でしょうか?」
「ん?」
薄目で王女様をじっと見る。俺に心当たりは全く無い。
「申し訳ないが、あなたに会った記憶がない」
王女様はため息を一つすると、
「一度助けてもらってます。その後馬車ですれ違ったのに逃げましたよね? 綺麗な獣人さんを抱っこして……」
そういや、それっぽいのはあったな……。
「前にパルティーモへ用事があって行ったとき、王女様がおっしゃったようなことがありました。でも、あの時助けた女の子はもっとこう……小さかったですよ?」
俺は自分の腹の位置だったとアピールする。
あの時の女の子の身長は一メートル四十センチぐらい。今居る王女様は一メートル七十センチぐらい? 身長が全然違う。それに体も……出るところが出て引っ込むところは引っ込んでる。
じろじろ見ているつもりはなかったのだが、「ゴホン」という咳払いが聞こえると女騎士に睨まれた。
「あの時はまだ少女の時期でしたから……」
そう王女様が言うと、
「マサヨシ、魔族って子供から大人に成長する時期がはっきりしていて、一年ほどで一気に成長するのよ。体が一気に変わるの。ちょうどその時期だったのかもしれないわね」
種族によって成長の時期が違うのか……。
「そういうことなら、高そうな服を着た女の子をヘドマン子爵……だったかな? の庭に連れていった記憶があります」
俺がそのことを思い出すと、王女様の顔がパーッと明るくなる。
「そうです、その子が私です。ずっとお礼を言いたかったんです。でもあの後、王都へ行く用事があったので……どうにもなりませんでした」
王女様が早口でしゃべるので、俺が唖然としていると、
「あっすみません。嬉しくてつい……」
恥ずかし気に俯いた。
「あの時は、たまたま王女様を見つけただけで感謝されることもしてないんだが……」
「それでも、種族が違う見ず知らずの私を助けてくれたあなたが居たから嬉しかったんです」
「マサヨシ、色々やらかしているわね」
「カリーネ、でも放っておくよりはいいと思うぞ? 女の子が追われているのがわかっているのに助けない男ってどう思う? それも、逃がす力があるのに……」
「最低ね……」
カリーネが言う。
「だろ? 俺も最低だと思う。だから助けただけ……。勝手にやったんだ報酬も欲しくないし感謝される筋合いもない。それに金なら持ってるし家もある。女も欲しいと思わない……」
「マサヨシならそうでしょうね」
「だから、お礼で物とか無しで……」
俺は先手を打ったつもりで言った。
「はい、今はお礼だけ言っておきます。でもそのうちマサヨシ様へ我が国からの王城への出頭命令が行くと思うので受けてくださいね」
うわっ、王女様こわっ。でもまあ面倒なことがあっても何とかなるメンバーなんだがな……。
カリーネを見ると「とりあえず受けておきなさい」って感じだったので、
「わかりました」
と言っておいた。
ノックがして「お茶をお持ちしました」と受付の声が聞こえる。
「入っていいわよ」
カリーネがそう言うと、
受付はお茶を持って入ってきた。
「立ち話も何ですから、そこへお座りください」
カリーネが促す。
結構な時間の立ち話だ。王女様も座ったほうがいいだろう。しかし、
「いや、立ったままでいい。私は、そこのマサヨシ殿と手合わせがしたいのだ」
と女騎士が言った。
「何で俺があんたと手合わせしないといけない? それに立ったままでは、お茶を出せない受付が可哀想だろう? 話は座ってでもできる」
渋々という感じで女騎士は座った。
雰囲気が嫌だったのだろう、受付はお茶を出すとすぐに出ていった。
「手合わせしてもらえるのだろうか?」
前の時のような高圧的な雰囲気ではない。懇願するような感じ……。
なんかやり辛いな……。
「ただし条件がある。手合わせするのはいいけど模擬戦だぞ? 木剣でいいだろ? 君と命のやり取りをする理由がない。まあ木剣でも人は殺せるだろうけどね」
「模擬戦でいい、いつしてくれる?」
早くしたくてたまらない?
「今でもいいが、カリーネ、戦闘訓練所は?」
「あなたのクモも片付いたから、空いてるわよ?」
「じゃあ、ラウラさんだったっけ? せっかくお茶が出たんだ、お茶を飲んでからでいいか?」
ラウラと呼んだ時にビクリと反応する。
「わかった、このお茶を飲んでからで……」
「王女様はどうします?」
「鋼鉄の処女の戦いが見られるのであれば見ないわけにはいきません。盗賊に襲われた時はラウラさんに助けられましたから」
あっ、あれも俺だったけど、言ってないのね……。
女騎士はハッとした顔で
「殿下、盗賊に襲われた時、私たち護衛を援護をしたのはマサヨシ殿だったと思われます。マサヨシ殿本人は否定しておりますが……」
と報告する。
「えっ、純白のドラゴンに乗った黒服の男ですか?」
「はい、殿下の護衛である王都騎士団隊長の私としてはそう判断しています」
ありゃ、ここで言うんだ。言わなくていいのに……。
あー、王女様めっちゃ俺を見てるし……。ワクワク感満載の目じゃね?
「俺はドラゴンなんて飼っていませんよ」
伴侶候補としては居ますが……って苦しい言い訳。
カリーネは事情を知ってるから逆に知らんぷりだな。どうするかは俺任せっぽい。
意味がないとは思うが、俺は白い奴って感じでホーリードラゴンのローブをアピールした。
仕方ないなぁ、とりあえず手合わせから片付けますかね。
「じゃあ行きますか……」
そう言って俺が立ちあがると、カリーネ、王女、女騎士という順に立ち上がり、俺を先頭に戦闘訓練所に向かった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




