ダンジョン攻略14
誤字脱字の指摘ありがとうございます。
扉が閉まると奥に妻ドラゴンが見えた。本当はリードラのように白く輝く鱗だったんだろうな。今、目の前にいる妻ドラゴンの鱗はどす黒くなり禍々しい雰囲気を放っている。つか、デカすぎるだろ、尻尾込みで四十メートルぐらいあるぞ?
両側を見ると火と水の精霊が居る。
「手伝ってくれるのか?」
精霊たちにっこりと笑いコクリと頷いた。
「その割には俺の腕を持って魔力吸ってねぇ? 最後に魔力吸っておこうとかじゃないだろうな?」
俺が二人をジト目で見ると、口笛を吹くふりをして宙を見る二人。
「まあいいや、居てくれるだけでも心強いよ」
そう言って妻ドラゴンに近づいた。
扉から十メートルほど入るとのそりと妻ドラゴンが動く。そこからのギャップが凄かった。鈍重と思われた妻ドラゴンが一瞬で目の前に現れ大きな顎での攻撃が放たれる。何とか回避はできたが腐臭のする涎の飛沫がクロースアーマーに付着し煙を上げる。
「涎が酸なんてな。口臭も凄い。そりゃ女性としては嫌だろうに。元々がホーリードラゴンなんだから余計だろうな」
妻ドラゴンの攻撃を避けながらブツブツ独り言を言っていると。
『そうなのよぉ、私あんなんじゃないの! もっと綺麗だったし息も爽やかだったのに……あっブレス来るわよ』
「へっ?」
話に集中して反応が遅れる。
目の前を大きな炎が俺に近づき周りを包まれてしまった。
「こりゃ避けられないかなぁ……クロースアーマーに期待だな」
と、両腕で顔を覆いダメージ覚悟で耐える。
ん? 熱くないが……。
俺の目の前に立ち炎を防ぎながらニヤリと笑う水の精霊と、俺に抱きつき魔力を渡してくる火の精霊が居た。
『あなた良いの持ってるじゃない。精霊があなたを守っているみたいね』
「おぅ、サンキュ」
水と火の精霊が俺の方を向くとニヤリと笑う。
ブレスが終わると腐ったようなにおいがした。メタンガス?
「しかし臭いな」
『それは言わないで! いくら死んでいるとはいえ、あれを見るのは嫌なのよ』
思った通り。
炎は精霊たちが防いでぐれるので助かるのだが、物理攻撃をガードすると……。
体重差が大きすぎるため、攻撃をガードしても勢いでぶっ飛び壁に突き刺さる。
クロースアーマーの肩甲骨から腕の部分に血が広がり袖の部分から血が垂れた。若干の吐き気も催す。
まあ、俺も向こうで血を流す方じゃなかったが、貧血でもしたかね。
「イタタタタ、いくらクロースアーマーでも衝撃までは無理か……うわっ本気で痛い。肩が動かねえや」
俺は痛みをこらえながら回避し体全体に魔力を行き渡らせ治療魔法を使う。
耐えるしかないのかね……。
しばらく攻撃を回避していると
「ん? おかしい」
攻撃そのもののスピードは反応できないぐらいに速いのだが、その後の攻撃に至るまでが遅いのだ。もっとコンボを繋いで俺を潰してしまってもいいだろうに……。
対戦格闘ゲームでボタンを押して適当に技を出している感じかな? 小技を繋いで最後に大技で決めるようなことが無い。
様子を見ていると攻撃の初動がわかるようになってきた。攻撃の初動がわかるようになると簡単に避けられる。見た感じスキの多い大技が単発で出るだけなのだ。
「おっと思い出した、この妻ドラゴンはリッチに操られているんだったな。世界最強キャラを持っても扱いきれていないってことか」
いくら妻ドラゴンのステータスが全EXだったとしても操るリッチがショボけりゃなぁ……。
イライラしているのか攻撃が余計に雑になり余計にスキができるようになった。
しかし単発だと思っていた攻撃が繋がる。リッチの奴使い慣れてきているようだ。あんまり時間が無いかも。
俺は避けながら妻の言っていた逆鱗を探す。通例では喉の辺りだったっけ?
よく見ると喉の辺りに十センチぐらいだろうか、小さな白い鱗があった。
「あれが逆鱗か……」
『そう、あれが逆鱗。あれを突き破ればその先にある魔石が壊れるから全身への指令が行かなくなる。あの体は動かなくなるわ』
妻が教えてくれた。
「おう、急に出てくるな」
ちょっと焦ったぞ。
『せっかく言ってあげたのに……』
あっ妻が拗ねた。
逆鱗を目指し攻撃をかいくぐる、連撃が増えなかなか近寄れない。
「リッチの野郎、更に慣れてきたか? んー、俺にも余裕がなくなってきたねぇ」
一撃の速度が速いためかギリギリのせいか、クロースアーマーに衝撃波で切れた跡が残る。
小さな隙でいい、一瞬でも止まってくれれば助かるんだが……。
えっ、アイナの気配? ターンアンデッド? それもいつもより長い。
抵抗をしているのか妻ドラゴンが固まる。
その隙を見逃さず妻ドラゴンの喉元へ近づき逆鱗を下から聖騎士の剣で貫いた。
聖騎士の剣の剣先から光を放ち逆鱗が青白く光りだすと、それが広がっていく……そして大きな妻ドラゴンの体全体を覆うと蛍のような光が無数に舞いだした。
『私の体が崩れだしたわね』
妻の声が聞こえる。
「さっきはすまんかったね、アドバイス助かったよ」
『それは、わたしから頼んだことだから……』
「お別れか?」
『お別れね』
妻ドラゴンの体がどんどんと小さくなっていく。
「そうか、早く来れなくて済まなかった」
『いいのよ、最後には会えた』
「お前が居た生活楽しかったぞ」
『私もバカ話できて良かった。まあ、わたしみたいにMSVのパイロットが言える妻は居ないでしょうがね』
「俺もJrのグループ名が言えるようになるとは思わなかったよ、メンバー名まではわからんがね」
「『フッ』」と苦笑いが出る。
『今からは私のことを考えてはダメ。私を倒すのを理由にしたのだから私を忘れること! あの子たちはあなたの伴侶になるんでしょ?』
「しかし……」
『私は向こうの世界であなたを独り占めできた。それにここであなたにも会えた。だから十分。あなたはできることを十分にしてくれたの。だからもうあの子たちの番……ね』
大きかった妻ドラゴンの体は俺の手のひらに乗るほどの小さな光になっている。
『じゃあ、さよなら……私の愛した人』
「ああ、じゃあな。カミさん」
その言葉をかけ終わると小さな光は消えた。
逝ったんだな……。
「俺はもっといろいろ話したかった。でもな、いざとなると言葉が出ない。ほんとカッコ悪い夫ですまんね」
床に溜まる涙を見ながら独り言を言っていると、ボス部屋の扉が開いたのか五人が入ってきた。
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