8・とうとう城攻めが始まった
翌日、とうとう本拠地へと向かうだという。
しかし、考えてみると不思議な事にこれまでその疋勿という領主の軍勢と戦っていない。あくまで村や町を任された者と対峙し、ある者は姫さまと戦い、ある者は降伏した。あくまでその地を治める豪族、よく言って家臣であって本隊ではない。
「まあ、アイツが得意なのは防御、『堅陣の疋勿』だからね。優秀な妖術はあるんだけど、守り一本でそれに驕ってたもんだから、今の状態なんだ」
という。
つまるところ、ソイツは本拠さえ守っていれば姫さまは撤退するしかないと?なのに、姫さまは騎馬武者のみを引き連れ、大した長期戦の準備もない。
もちろん、籠城と言うのが援軍あってのモノだというのは理解しているし、相手には明確な援軍が居ない事も確かだろう。なんせ、こちらは大した準備も無く身軽な騎馬武者三千をとにかく引き連れているにすぎず、攻城に必要な準備など皆無。
もちろん、そんな奇襲に近い攻撃に対して十分な時間があるはずもなく、相手も援軍を呼ぶ時間も無しにとにかく籠城する状態だろう。
「ん?心配か?確かに攻城戦だが、援軍が来る算段は無いよ。二つも三つもの相手をうまく渡り歩こうとしてるから、同盟関係なんか結べていない。何とかバランスを取ることで攻められない状況を確保してるだけだからねぇ」
と、飄々としているが、それはそれで危なくないか?一歩間違えば侵攻軍が僕らの背後から襲ってくることになる。
「だから、順大が頼りだよ。一気に決める。時間を無駄には出来ないからね」
と言って来る。とても責任重大なんだけど、本当に出来るんだろうか?
そんな思いを胸に、今日は敵の本拠地へは向かわず、その手前で夜を明かすことになった。
野営陣での食事と言えば保存食なので、味気ないものなんだろうと思っていたのだが、ビスケットか煎餅の様な、それとも薄い乾パン?なモノと昨日の豆スープだった。昨日と何が違うんだ?
そんな翌日、とうとう敵の本拠地へと進軍した。
そこにはこじんまりとした平城があり、一見すれば簡単に攻め落とせそうに見える。しかし、何度か姫さまが撃退されている城だ。
僕はひとり、姫さまの軍勢から歩みを進める。いわば開戦前の名乗りである。
「我は玄家が六男、玄 順大である。疋勿よ、我に降伏致せ。さもなくば、一息に城を蹂躙致す!」
などと、姫さまと示し合わせたセリフを吐く。なんだかなぁ~
「玄家?なぜ西国の者が丁家に加勢しているのか!謀るでないわ!!」
と、予定通りに口上を否定してくる。
「降伏なきなら是非もなし!!」
と一言述べて弓を引き絞る。
豪華な甲冑を着込んで返答したのが当主で間違いなさそうだが、僕が狙うのはその人物ではない。そもそも、当てられるか怪しい距離だし?
射った矢は放物線を描いて大手門へと当たり、落ちる。
「口ほどにもない奴よ!そんな遠くから弓を射るとは怖気付いたか」
疋勿らしき武者はそう言ってこちらを挑発するが、まったく予定通りなので、気にせず二射三射と大手門へと矢を当て、六射射たところで姫さまが登場してくる。
「虎姫、これはなんの余興ですかな?我輩に敵わぬからと、玄家を騙る道化を立てるなど、笑い話にしかなりませんなぁ」
と、余裕の口上を述べる。
「ふん、その余裕もこれだでだよ!紫電!!」
姫さまが刀を振るうと稲妻が大手門へと伸びる。
櫓の上から声こそ聞こえないが、笑いながら何か言っている武者が見えた。
轟音を伴う稲妻が大手門へと直撃し、直後、弾け飛んだ門の内側で稲妻が猛威を振るっている。
「よし、突撃!」
瞬時に突撃を指示する姫さまに従って騎馬武者が大手門へと走って行く。
僕は櫓の上で呆然とする武者が射程に入るところで馬脚を緩め、武者へと狙いを定めた。
常識的に考えて、この距離から鎧武者ヘ射掛けたとしても、普通ならば僅かな隙間を通さない限り倒せる距離ではない。
例えば槌の付与などの妖術もあるが、あれは矢速に依存した攻撃なので、遠距離では威力が極端に下がる。
誰かが櫓や大手門へと火の妖術を付与した矢を射掛けた。
しかし、ただ当たるのみで火が燃え移る様子はない。
なるほど、確かに堅陣の名は嘘ではないらしい。妖気の中へと潜れる僕の妖気で無ければ効果はないということか。
鎧武者が正気を取り戻し、僕の放った矢を大袖で弾く。
普通ならそれで問題ないのだが、弾いた直後、鎧武者は首の力を失い頭を垂れながら櫓へともたれ掛かる。今にも頭が落ちそうだ。
それを見た櫓の兵達が騒ぎ出し、城内への指示が滞りだす。
暫くすると当主が討ち取られた事が伝播し、一気に形勢が決まった。
もとは姫さまの家臣達だった事もあり、当主が討ち取られた事で簡単に降伏し、姫さまの指示に従っている。
城内へ入った僕はあたりを見て回るが、大手門裏を除いて大した破壊は起きていない。姫さまがうまく立ち回って居るんだろう。
「順大、こんなところに居たのか、こっちおいで」
姫さまが声を掛けてきたので着いていくと、城内の一室に白装束の女性達がかたまって居た。
「虎姫さま、どうぞ私だけで。他の者にはお慈悲を」
入った先に居たひとりが姫さまにそう声をかける。
「やだね。駒、お前は負けたんだ。潔く私に従いなよ」
歳が近いであろうその女性の言を切り捨てる姫さま。
「しかし、ここの皆は生娘ばかりです。姫さまも女子ならば分かって頂けるかと」
それでも頭を下げ続ける女性。
「これで全部か?」
姫さまは近くに居た女武者へと何かを尋ねる。
「はい、間違いありません」
女武者の言葉に頷き、さらに一言
「生きのイイ奴らを連れてこい」
姫さまの言葉に女武者が駆けて行く。
「虎姫さま、それはあんまりです!」
キッと姫さまを睨む女性。後ろには女武者たちに囲まれた同じ様な白装束の女性が肩を寄せあって震えている。
「せめて、せめて自害を!同じ女子ではないですか」
そんな女性の声にも反応を返さず、姫さまも女武者たちもただ包囲を続けている。
それからしばらく、ガチャガチャと音を立てながら複数の者達が近づき、その音を聞いた白装束の女性立は皆で抱きかかえるようにして泣き出している。ただひとり、姫さまを睨む者を除いて。
「駒、子供が居ることになってるよね?子供は?」
ようやく姫さまが口を開き、女性に尋ねるが、女性は視線を逸らすだけ。
「あのバカのやりそうな事だよ。目先しか見ず、娘の事すらコレ。ホント、ロクデナシだねぇ」
何だ?
「順大、東は女の方が妖気が多い事を知った。脅威になる女はどうすると思う?ここに居る奴ら、みんな妖気が多いのさ。子さえ産ませれば、気にしなくて済むだろぅ」
そう言って嗤う姫さまは、やって来た男達へと視線を向けた。
え?まさか・・・




