第五十話 これからも、一緒にいたいから。
「退院おめでとう!」
「すいません、こんなことまでしてもらって、、、」
有闇は頭を下げながら、謝る。
意識が戻った数時間後、ようやく会話ができる様になった。
そして、その日中に退院できるよと、医者から言われ、早急に退院した。
しかし、これから有闇は定期検診を行わなければいけないらしく、職業もしっかりと選ぶようにと言われていた。
あと、エナドリも控えろと、ドクターストップがかかった。
家に着いたのが、22時頃で辺りは真っ暗だった。
母親が仕事帰りに、ケーキを買ってきてくれて、それを退院祝いとしようと言い出したのは美鶴。
グッドタイミングなのか、母親は退院することを知っていたなのか、いつもは買ってこないであろう、少し高めのケーキを買ってきていた。
別に今日が、誰かの誕生日でもないのに。
心なしか、母親が仏の様にも見えてきた。
「今住んでいる家から、今月中には引っ越します」
「そうするといいよ〜」
「これからも、よろしくお願いします。美鶴さん」
「頑張ってね、七香ちゃん」
家の中には笑顔が広がった。
春人や愛実もふと、笑みが溢れていた。
和やかな雰囲気の家は、とても居心地がよく、今日は木葉もおおらかだった。
「明日から、また配信頑張ろうね」
「うん!もちろん!」
今日の予定していた配信は、延期となった。
★☆★☆★☆★
事務所の炎上がキッカケに、マネージャーやスタッフが大勢いなくなった。
そして、1週間後には事務所の倒産がニュースとなった。
信頼を失った事務所の社員は途方に暮れたという。
今まで良い給料で働いていた分、周りの会社の給料が、どうしても薄給に見えてしまうのは仕方がない。
1週間経った今でも、Tmitterには事務所を批判する様なコメントが多数寄せられている。
そう、ネットは許さない。
いつまでも、失態が残り続ける世界であり、記者会見なども、データとしてこの世の中が存在する限り、残り続けるものとなっている。
「機材、大丈夫?買い替える?」
「あ〜今は大丈夫かな」
機材の購入なども、事務所がしていてくれた分、今までは機材購入などの支出はなかったが、フリーとなった今、機材なども自身の給料から買わないといけない。
特にマイクなどは特別高く、美鶴が使っているマイクは約20万円ほどするとてつもなく高いコンデンサーマイク。
家で【歌ってみた】系の動画を録音するために、高いマイクが良いそう。
俺が拝診やっていた時のマイクは5万円程度だったけど、時代は変わったんだな〜。
時代の波に乗れなくなった、超有名配信者がいた。
「パソコンとかも、データ整理とかしなくていい?」
「この前、整理してゲームデータ消えて、絶望した記憶があるから、もうやらない」
「やりましょう」
「やりたくない」
「ダメです、やるましょう」
「いやだ」
「イヤイヤ期だ、、、」
「私を2歳児と同じにしないで」
ムスっとした顔になる美鶴。
そんな彼女も可愛いと思ってしまう自分がいる。
しかし、彼女だとは認められない、どうしても。
最近は女性に対しての恐怖心が薄れてきたが、彼女彼氏の恋人関係になると、俺は耐えきれなくなってしまう可能性がある。
いい関係を保つために。
俺は感情を抑えた。
「今回の配信内容はどうするの?」
「最近始めた、ゲームを軽く進めるながら、雑談する感じかな」
「なるほど、がんばれ」
「うん」
そして、部屋の扉が開く。
「私はどうすればいいですか?」
「七香ちゃんは休んでて〜」
「私、最近何もしてないじゃないですか!」
「体を大切にしてほしいの」
有闇はハッと息の飲み込む。
「これからも、一緒にいたいから」
涙腺おじいちゃんの俺は少し、グッとくる時だった。
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