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その緑眼に反射する6


 記憶が勝手にまた刷り込まれる。


 『身勝手な停滞』それは人類以外にすら疾患するものだったらしい。動物すらもそうなって、植物すらもそうなっていく。全部が苦しみは停滞させずに加速する。


 いつまでたっても夜になる。

 生物以外は、それを選択できたという事なのか風化して勝手に次々滅んでいく。文明がなくなっていく。その様は何かにむさぼられた後のようにも思えた。


 住むところもなく、楽しむものもない。何も産み出すことはできなくなる。触れたものさえ変化しなくなるからだ。苦しさはあり続けるのに、快楽のような愉快さのようなそれらは動かない。

 ただそこに存在しつづけるものになっていく。その中で、思考は最後まで残る。

 それが、それすらもが、じわじわ削られていく中で、翼をもつものが生まれる。

 翼をもつものが現れたら、それがそれ以外に終末を諭す。翼を持つものは、浸食しきったものがたどり着く行く末の一つ。


 そして終末思想に染まり、終末へ使える使徒となる。全てが使徒となった時、『終わりという幸福』が降臨するのだ。

 世界がそれを待つための一つの神殿と化し、崩壊して涙を流し幸福の中で終わる。

 『神』と崇める何か。とても、そうとは思えないはずの、一方的に全てを食らう何かに。それに違和感すら持たなくなる。

 それでもその中で、食われることによって神と一体化して停滞を脱する喜びのために。


 それが、この『身勝手な停滞』であり、『身勝手な停滞』を食事とする、『身勝手な停滞』の味が好みなだけの、浸食に侵されたものが神だと仰ぎたくなるその実、単なるひと世界に収まらないが神と呼ばれるほどに何も生み出すわけでも施すわけでもない、超常であるだけの食事をするために世界を移動し食らうだけの獣であり、ある一定ラインを超えた者たちが『終わりをもたらす存在』として警戒するものの一つである。この現象は過程で、本来なら『その後、神と呼びたくなるそれに食される本番』が待っている。


「馬鹿げてるわね……本当に」


 鈍くなっていく体。侵されている。油断すれば、つい思考が『神にこの停滞を捧げたい』などという方向に知らず、ずれていく。

 誤魔化しながらやってきた。それでも限界が近かった。


 ポイントを稼いでも、倒しに倒しても意味がない。

 他の難易度のダンジョンと致命的に違うのはそこだったかもしれない。他のほとんどの場所で通じる、経験と体験による余裕が全く生まれない。ポイントというものを得て、その対価として更に得られる奇妙な力がなんら役に立ってくれない。倒せばその分浸食されるのに、向かってくるから倒さないわけにもいかない。


 これは――このダンジョンと呼ばれる用意された場所は、その『身勝手な停滞』の一部でしかなく、本番は訪れない――それが指すところの『神』が来るほどの停滞を蓄えられないようにされている。そうとわかる。明らかに足りていないと。だから、本来のそれよりぐっと、色々と弱いのだともう理解している。それも、一部であれ巨大な力すぎるというのも体験しているため、何の慰めにもならないが。


「馬鹿らしいって思うわけ? 今の私を見て、愚かだ、天罰だって、そう笑ってやりたい気持ち?」


 ルーシーが、虚空に向かって話す。

 ルーシーには、彼女の幻影が見えていた。それが見せられているものなのか、自分がおかしくなっているからか。

 このダンジョンの効果か、浸食によるものか、ステッキのせいなのか。

 自分では、判断がつかない。


「笑ってないで、何か言いなさいよ……」


 いつものように向かってくる彼ら彼女らを押しのけ、翼を持つものの翼をめりめりと剝ぎ取りながら、その目は幻影の彼女だけを映している。


「何か!!!! 言いなさいよ!!!!!」


 翼が無くなった翼を持つものの体をその幻影に投げる。幻影だ。わかっている。そこにはいない。わかっている。


 彼女は死んだのだ。わかっている。


 記憶があいまいだが、死体を見たのだ。わかっている。


 記憶があいまいだが、埋められたことを知っているのだ。わかっている。


「わかってるわよ!!!! だから、死んでまで、出てきてんじゃないのよ!!!!!!!!」


 自らの拳を、いくら使っても柔らかく硬くならない綺麗なままの拳を。己のものとは全く思えない、彼女のものだとしか思えないそれを、幻影にふるう。

 当たらない。通り過ぎる。気付けば通り過ぎたはずのその姿は目の前にある。

 血まみれの拳。


「私になろうっての? いいじゃない」


 方法はわかっている。この窮地を脱する方法など、ルーシーはとうに見つけている。変わるたびに攻撃が通じるようになるのだ、渦中にいるのだからわかって当然だ。

 それが、ここをクリアする手段なのだと、道筋なのだと、もう導かれるでもなく導き出している。『精霊の道しるべ』は、今はもはや全ての行動を拒否するように感じられなくなっているけれど。だが、それだけでもダメだとも思う。


「『終わりをもたらす神』は、ここにはこれないのよね。ここには、その捧げものだけがあるのよ。捧げ者が捧げ者を傷つけられるわけがないということよね。そんな食材が痛む行動を、『停滞』という自分好みの味を振りまく『神と呼びたくなる何か』は許さないからよね、仕組みだけはここにあるのよ。そこから外れているから、攻撃が通る」


 ステッキを手にして、いつもの自分ではいられなくなった代わりに攻撃が通じたのはそのせいだ。

 攻撃が通じなくなってきてから、別人のような手足になったのはそのためだ。

 更に先に進んでいくためには。


 この『停滞』を乗り越えるためには。

 『神と呼びたくなる何か』に繋がらないようにするためには。

 ここにある全てを乗り越えて打倒するためには。


 ここに来た、ルーシーだった己は、もう浸食されている。これを取り除くことはできない。

 そんな力はない。ステッキにも、そういう力はないらしかった。ポイントなどあってもどうしようもない。それで得られる力などクソの役にも立たなかった。


「ふ、ふふふふふ!!! 愚かね、愚かよ。私」


 ステッキがしたのは単なる強化ではない。強化など、浸食に対しては意味をもたらさない。

 越えるには、まだ足りない。そしてそれは、ただ『神と呼び、仰ぎ、畏怖し、崇拝したくなる存在』のために、であってはならない。


 そうならないための思考と手段が必要だ。わかっている。時がたつごとに、追い詰められる。わかっている。

 思って即座に何でもができるなら、誰も苦労はしないし不幸がそこら中に落ちていたりはしない。


「あははは! あんなに望んできたじゃない!

あんな風になりたいって!

あんな風に生きたいってぇっ!」


 気付けばルーシーは泣いていた。なかなか死ななくなった彼ら彼女らを殺しながら泣いていた。

 このままなら、どん詰まりだ。道しるべは他の道を示しもしないくせに『そんな道は選ぶな』いうように駄目を突きつけてくる。


 自殺と同じだ。考えようによっては、それは。


 しかし先に進みたいなら、このまま終わりたくないなら。考える方法しか、少なくともルーシーには思いつかない。

 しかしそれでどうにかしようというには、強固な精神に至っていない。強度がまだ足りていないのだ。振り切れない、己自身を。


「なんでよ……私、頑張ったじゃない……? こんな風にされなきゃいけなくなるくらい、悪いことしたの……?

あなたも、やっぱり私なんか死んでしまえって思うわけ……? それとも、とぼけた笑顔で、いつもみたいに『そんなことないよ』っていってくれるの……?」


 嫌いだろうが、憧れがあろうが、誰かを羨んで、嫉妬しようが、努力して築き上げてきた、己という全て。

 捧げるように、変わっていく己。

 変わるのではない、なくしているといってもいい。

 そうせねばならないと示されている。


 自分を、対価として捧げるように。その手から離さなければならないということ。

 どうしようもない感情の濁流に、ルーシーは飲まれてしまう。


「バカみたい……知ってるわよ。言わないわよね? だって……あなたもう、死んでるんですもの……私が、殺したんだもんね……同じよ、結局。止められなかったんだから、本気で予想すれば、わかったはずだったんだから、同じよ……」


 けれど、幻影は何も言わない。言うような幻覚までに、ルーシーはたどり着けない。そこまで彼女を貶める事は、ルーシーにはできない。

 都合のいい言葉を吐き出させるくらいのものを見ることができたなら、もっと気楽にいけたかもしれなくても。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 人間が珍味として好んだためにわざわざガチョウを太らせて不健康にする事で作り出し、最後には食べられてしまうフォアグラと 『身勝手な停滞』に近しいものを感じて、『終わりをもたらす存在』に親近感…
[良い点] スタッフぇ… [気になる点] ある意味、一番外に近いのか。 [一言] 新しい自分になる! もう自分じゃないじゃん!
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