滅びの粒子舞う廃墟群/信仰心とは他者にとって
廃棄された人型兵器が飛んでいた。それを彼らがなしたことだと知った。動かすことができるようになった、ではないことが死体引きにはわかっている。
その技術を理解したから、運用できているわけではない。
ただ――そう、動かせるようになってしまった、というべきなのだ。
そのことに気づくべきだった。
そうなるくらいに、馴染んでしまっている。彼らに渡されている力は強大であるが、歪だ。一様に同じ風にされているようであり、そして応用範囲も広い。しかし、わざと残されているのかそうされているように穴も多い。試すかのように。試していいというように。ある種の誘惑に似ているように。
だから、想定外であり想定内でもあるのだろうと考えたのだ。彼らは疑うべきだった。渡されたものに悪意があるということを、もっと。
短期間ならば、まるで問題のない話だった。
それですむ話だった。こんな展開はなかった。
残り続ける数が多すぎたのではないか、と死体引きは思う。
だから、こちら側が――あの粒子が、そちら側を理解してしまう速度も上がっていき――彼らは違うようだが、こちらの陣取り合戦であり、トップとなるものを決めるためのその行動の範囲内に含まれようとしているのではないか。そういう感触を観測から得た。
浸食だ。その理をこちらに組み込んだのは、十中八九そちらと同じに違いないという部分に悪意しか感じない。
『研究員たちよ、力を貸してくれ。今更なんだというのだろう、哀れな我等がこれ以上なにをするというのかと怒るのかもしれない――もしかしたら、これでもまだ、それまでの希望と今からの未来が綺麗に見えたものもいるかもしれない――けれど、それでいいんだろうか』
生体波動による通信は、世界が小さくなっているからこそ満遍なく伝わっていく。対話を断つように一人円の中狂っていた自身を恥知らずと思わないわけではない。しかし、今はその感情に蓋をする。
『我々は愚かだった。昨日までの幸せの全てに未だに縋りつき、狂っていた私が言えることではない。そもそも、全ての元凶である私が言えることはないのかもしれない。
しかし、しかし……やめよう。もう、我々は終わったのだ。いいや、終わっていたのだ。とっくの昔に。神が生きろと自信を分けに分けて生かしてくれたが、その瞬間に終わっていたのだ。申し訳なくも。
これは、少しだけ気まぐれで続いた夢の残滓でしかない』
申し訳なくも有り難く、その言葉に研究員たちが止まったのも把握できる。同調をいくつもの同胞が返してくれていることにも、死体引きはありがたく思う。
どうしようもない諸悪の根源ともいうべきものを、見捨てられないようなものばかり集めたものに憤りを感じるほどに、感謝をする。
『彼らは、子供だ。上から目線で申し訳なくは思うが――それでも、彼らは、我々よりも未熟だと思うのだ。誇れるだろうか……そんな彼らを利用して、また我々が生き延びるということに。
例えば、もし……未来で残った我々が元の体に、元の生活に近いところまで戻れたとして――未熟だった我々に寄り添ってくれた神々に、家族に、友人に。これまでの、生きてきた全てに――』
否。
答えは、それだけ。一部も仕方がないなという雰囲気ではあるが同意のそれには違いない。
生体波動がうまく使えない子供たちでさえ、懸命にそれを伝えてくる。もう、そうできる全員が。
『ありがとう。私は、君たちを誇りに思う。我々は、我々にできることをしよう。しでかしたことが事だ、私を信じてほしい、などとは口が裂けてもいいたくはないが――そうだな、私の信仰をこそ、信じてほしい。ともに同じく仰いだ神に誓おう。寄り添った神に誓おう。我々もそれに倣うために行う行動であり、私欲には決して使用しない』
動いていた人型兵器が落ちる。疲れたのだろう。疲れていたのだろう。誘導されたそれに従うことでしかないとわかっていながら、それでも、まだ未来があるのならと力を振り絞っていたのだろう。繰り返しのそれに、いくら嫌気がさしていたとて。
向かってくる側の彼らの一部が、こちらの理に入った。入ったものは、もうどうしようもない。粒子に浸食されるだけだし、そこから逃れることも難しいだろう。だから、申し訳ないがこれは諦めてもらうしかない。早めに気付いてここから脱出することを願うくらいしかできない。
死体引きは、その入ったものから――外へのアクセス手段を得た。その与えられた力から、元の世界というべき宇宙を発見することができたのだ。
しかし、それを使って元の世界に戻ろう、というわけではない。そんなことはできないし、しても無駄だ。もう、終わった世界だ。いったところで何もできない。生まれた星で死にたいという我儘な気持ちもあるが、それもしようと思えない。
ただ、神に。
どんな形になろうが、こんな形になろうが、それでも生きていてほしいと願った神に。
それが、願いに反することだと、その尊き意志に反することだとわかっていても。
『ありがとう。皆と出会えてよかった――では、皆、安らかに。未熟な彼らを、こちらの巻き添えにしないために――今までの幸せを、次につなげるために。少しでも、寄り添ってくださった神に。次の寄り添う誰かのために』
最後の信仰心を、証として届けるために。
それは、蘇りの儀式。生命力と波動と信仰心を、外側へのレールに乗せて。
『我らが命は、今ここにて終わるわけではない。我らが神こそ、我らが命――例えそれが、神が望むべくでないにしても。円にして、繋がるものである』
真なる死を対価に、死体引きは全ての生命を殺して送り出した。
それらは、別の宇宙からそこに気まぐれに移動をしてきたある種、完成体と呼ばれるものに似た力を持つ個体たちである。
それらが種の逃走と生き残るために注ぎ込んだ完成体と違うのは、別にそこまでの全力を注ぎ込まれずともそういう力があるのが珍しくはない強き種がいた世界であるということだろうか。ほかの宇宙に渡る術というものを気軽にではないが持てるような種だった。
そんな彼らはある時別の宇宙の別種の生き物である人間という生き物を見て、なんと弱くも力強い生き物だろうかと感動して、勝手ながらそこに住み着いてみることにした。
力小さき、命も短い人間という種は多く愚かなことを繰り返してはその数を増減させていた。その様を、彼らは時に憤慨し、時に悲しみにながら寄り添い続けてきた。大きく手を出せば何でも解決はできただろう。そうしなかったのは――この宇宙はこの小さき者たちのものであるという認識をしているからだ。いくら、神と呼ばれるようになり、受け入れられていても外様でしかない自覚があるからだった。手を貸し続ければどうしようもないものに目を付けられる可能性があるという事を知っていたからでもある。
ある一人があるものを見つけ、そしてその技術が完成したとき。
逃げようとしたものもいた。手を出してはいけないものだという事が瞬間に理解できていたから。
しかし、ほとんどの――とはいってもその数は少ないが――結局寄り添い続けることを選んだ。力で無理やり止めるという事もせず、ただ寄り添った。
それを、無責任だとか自己満足でしかないといえばそれはそうなのだろう。
けれど、彼らはそれに自分の命をベットした。
結果的に、訪れたのは死だ。その粒子は将来的にはだが、どうしようもないもの――終わりの一種になる程度のポテンシャルを持っていた。だから、それは当然の結末。
できることはした。起きたことは惨いことだ、悲しいことだ。そう思っても生きてほしいからと、今までにしたことがない規模で手を出したりもした。結果が、荒廃した廃墟群と、異形な生物の増産でしかなくとも。
戻すことはできないまま、ほとんどが死に絶えた。
彼らも、それ以外も。
ただの死は、彼らにとって消滅を意味しない。
魂というそれが、彼らが知っている『それ』の流れに引っ張られ無い限り。
それを何度も回避しない限り。
一度や二度の肉体的消滅は、彼らにとって終わりではない。だから、悔いはあっても行動に後悔はなかったのだ。
それでも、消滅してもいいと思えるくらいには情が移っていたからだ。それは、人が人に抱く個人のようなそれでなくとも。確かに、互いを思いあって存在していたのだ。
漂うその中の一つが。力のほとんどを自らを信じるものたちに明け渡してしまい魂のエネルギーだけの浮遊存在となっていたはずの存在が。不意にその体が外からの強烈なる波動によって形成されていくのを感知した。
その時点で、何があったのかということを察する。唐突に、場所ごと消えたものたち。
その行く末と、決断を知る。今、知った。
エネルギー体とでもいうべきそれは、ただそれを受け止めて――悲しんだ。
復讐心がないわけではない。せっかく、生きていけるというのに、次のステップに進むことができれば生物として元には戻れないが進化と呼べる別の生命として新たなスタートを切ることができたかもしれないのに――それを見ることができなくとも、そうできればこちらは満足だったのに。それらを捨てて、こうしてこちらに思いを届ける愚かさを、吐いて捨てる気にはなれなかった。
だから、受け入れて――ただただ、悲しんだ。
その座標はわかる。
何かをしようと思えば多少はできるだろう。意趣返しはできる。それもわかる。きっと、最後は負けてしまうだろうこともわかるが、多少なり巻き添えにしてやることはできる――そうしてやりたい気持ちも、ある。
それでも、愛していたものが受けついで受けついで、それを見守り続けた。それらが――最後の力とその意志で、与えてくれた体。
それを、感情のまま振るうことは躊躇われた。
どうしても。それが、超常のものらしくないとよく言われたが、それでも。
寄り添い続けてしまったから。
もう、寄り添い続けたものが帰ってこないとわかるから。
復讐は、ただこの命を無駄にしても届かないとわかるから。
そもそも――それが、ただの善意ではなくとも。
可能性であったことは確かだったから。
むやみやたらに、他者に八つ当たりのようにすることは――それが知る限り、望まないほうが多い生き物だったから。
ただ、そのエネルギーの全てを大事に抱えたまま――それは新たな場所を目指すように、その宇宙を飛び出した。




