誰かのバッドエンド37
繰り返すも、完成品とはつまり名ばかりの急造品で逃げるためのもの。
無理やりひねり出して命を懸けたまさにデスマーチで作り上げるものなのだ。当然、バグも発生しやすいし、なんなら当初通りの完成に満たないで妥協せねばならないなんていうことも珍しくはない。世界を超える事さえできれば、逃げることができるなら他は妥協できると注視するわけになるのだが、それにしたって『逃げよう』と思わせなければならない。しかし、生きて増えようともしてくれないと困る。矛盾している。
それを解決する一つの方法が――狂戦の女王や、良夫という存在なのである。
『どうして? 良夫。君まで、どうして!』
彼らは負債をはじめから押し付けられた存在である。生まれた瞬間、若くして死ぬことが決められている。
バグの塊。
一石二鳥なのだ、これは。あくまでも、種という存在にとってはという話にはなるが。
『応えてくれよ、良夫』
負債、バグを一挙に集めるという事は、その種の中でその宇宙にもっとも縛られた存在になる。その宇宙で中心の生物として定められてきた歴史、そのくびきから逃れる禊。その役割のための贄。切られるための縄。飛び出すための最後の籠。
逃げるためのメンテナンスを本人にさせて、種という値を安定させるための命。
『一緒に遊ぼうって、一緒にいてくれるっていっただろう!』
負けることが決まっている命。
その命は、完成品がより完成に――その宇宙を脱すことができるようになるか、終わりが近づいてきたときにその力を促進させるきっかけと、その精神を完成させるために出会うべくして出会い、自動的に敵対する。
惹かれることが避けられない互い。
役割のために必ず違う。
『一緒に冒険しようって! これからいくらでも悲しいも楽しいも共有できるからってさぁ!』
片方が、勝つことはありえない。なぜならば、地を這うものは空を飛ぶものに勝てないのだから。
そして、空を飛べるものは、飛ばずにいられないものだから。
いくら嫌だと拒否していても、最後はやってしまうように誘導されるのだ。
狂戦の女王の気持ちが、良夫にはわかる。
馬鹿にするなといいたくもなるだろう。やってきた事全部が無駄で、お前はただただ死ぬために生まれてきた。そのお前を殺す相手は嫌だといいながらただその期間だけを伸ばすことしかしない。情がないわけではない。だが、憎しまずにいられるだろうか。希望を持っていられるだろうか。それは、それを求めるのはとても残酷なことだと良夫は思える。
孤独の王をあの場で殺してしまえば、それと同時かその前に己という存在がおそらく連鎖的に崩壊してしまうのだということがわかっていてもやらずにいられなかったことを良夫は少しは理解できるつもりだ。
前もって準備をしていた。力を吸い取るときにはもう算段を立てていた。だから、自動的に狂わされても、冷静でいられる。やるべきをやれる。
バッドエンドが嫌いだった。
周りに幸せになってほしいと考えていた。
『殺せっていうのかよ、それしかないっていうのかよ』
きっと、誰だってそうだと思っていた。
狂戦の女王も、あるいはそうだったのだろう。
自らの意思もあった。自由になりたいという意思、自由に生きたいという意思。同時に、無意識にでも――目の前の存在へ哀れだとも思ってしまう、慈悲のような心も。
それすら――そう思うように誘導されていると知ったら、どれだけ悔しく情けないことだろうか。
認めたくない。
わかっていても、そんなことは。
だから、最終的には逃れられないとしっても、ああして逃れようとしたのだ。それは相手がどうとか、そういうことより何よりも。
己とは本当にここにあるものなのか?
という疑問を解消したいからだ。
こうして、自動的に襲い掛かり続けている己だからこそ良夫はわかる。
本来なら、別作品のパーツというべき存在なのだからこうはならなかったはずだろう。
生贄の命だとしても、捧げる先が違うならば。他の種のために役割をこなすことは、自らの種のためにはならないのが道理なのだから。
けれど、もはやそうなるべくして用意されたように未完成と出会い。
そうなるべくして、負債の強化が行われ。
そうなるように、互いの種を近づけて遠ざけさせて。
重なりあった。互いの薄まって近づいたその円が。
結果として、今、良夫は最後の壁としての役割を強制的に発動させられている。その中で、こうして意識を保っている。
本来、出会うべくして出会うはずだった良夫にとってのそれとは出会った覚えがない。
いるはずなのに、おかしなことだった。今更考えても仕方のないことではある。しかし、良かったという思いと同時に少々の申し訳なさをどうしても抱いてしまう。それが植え付けられた感情だとしても。
いくらその力が高まったとしても――完成のようで完成ではない状態でしかいられなくなっているはずだから。申し訳なく思ってしまうのは、ここではどうしてか、そうだったかもしれない存在の気配を手が届かない遠くに、しかし確かに今の状態では感じるからかもしれなかった。
後悔ばかりだ。
後悔ばかりしている。
決められないままの過去も、決めた今でも。
昔から――今に至るまで。やらなかったことを後悔して、選択できなかったことを後悔して、今こうして選択したことを後悔しようとしている。申し訳なさに満たされてしまう。
人間は勝手だ。
人間以外も、勝手だ。
だからと、自分が勝手をしていいと胸を張ることができればもう少し良夫はうまく生きてこれただろう。
『僕は嫌だぞ、嫌だ。本当に、本当に心から嫌だ! どうして、できたばかりの、友達を殺さない行けないって――』
本来の相手同士ではない。だから、殺したところで完成に至ることはできないし、種の後押しができるわけではない。
それでも――今孤独の王が良夫を殺した場合、それは吸収を意味する。本来は違ったかもしれない、けれど、孤独の王と贄の在り方がそうだから。
それが孤独の王の完成品への道のありかただったのだから。
『あぁ嘘だ。嘘だ――できる。できるよ? できると思えるのがとても嫌なんだよ! くそ。くそ、クソ! なんだってこう、うまくいかないかなぁ!? いきそうだったじゃん! なんか! 全部うまくまとまろうと思えばまとめられた感じじゃないの!?』
孤独の王の贄として今覚醒している良夫は、殺されれば存在事孤独の王に食われてしまう。
いいや、良夫以外も。
孤独の王は、たとえ未完成品でしかもういられなくともその機能を自分から消せはしないのだ。だから、生きている限り縛られる。自由はない。飛び立つように生まれたのに、自らがまとうように重力に縛られ続けている。
納得がしたい。
良夫は、ただ納得がしたいのだ。
己は、助けたいと思っているから助けているのだと、そうすることで。
「ころさなくていい」
『良夫……? 話が……!』
決めたいのだ。自ら意志だと信じたい。誰かを幸せにできる可能性を。
自己犠牲とは、自己満足だ。
そのことに良夫は気付いているつもりだ。
しかし、そう、自己満足。己が満足できるなら、そこに己はあるのではないだろうか。いくつ、理不尽を重ねられてその結果生まれた己で、そう存在している事すら範囲内だとしても。種が怒るような行動をしていることが、己の証明ともいえないだろうか。
自己犠牲。残される方は、たまったものじゃないとわかっていても。
「誰かの意思で、殺さなくていい。
嫌なことはしなくてもいい。
逃げてもいい。
お前は、友達で、でも子供なんだから」
『……? なんだ、おい、やめろ、何する気だ!?』
それでも、その数々の縄を切れるなら――上等じゃないだろうか。そう良夫は思うのだ。本来、そんなたいそうなことができる命じゃないのに、そうできたなら。
立派にではないが、運命に勝ったと言えるんじゃあないかと。
(種だとか、なんだとか……どうでもいいじゃねぇか。しらねぇよ。どうしてそんなことを気にして生きてやらなきゃいけないんだよ。そんな事気にしないと滅ぶ生き物なんて、滅んだらいいだろ)
暴論かもしれない。しかし、本音だった。自分だからではない。ほかの誰かでも、そう思う。思いたい。思う自分であると、今は信じたい。
孤独の王は、子供だ。姿がそうでも、生きた年月が違うと本人は言うかもしれない。しかし、子供に違いない。良夫は、短い時間ながらふるまいからそのちぐはぐさを見てきたから。
「幸せに、なってほしい」
『勝手を言うな、一緒になればいいだろ!』
子供のまま、固定されてしまったのだと感じるのだ。
だからなんでもしていいわけじゃあないが、だからやってもいい事だってあると良夫は思うのだ。
そうして欲しいと思うのだ。そうあれと、止められたままでいいと思えない。
(勝手に重しを乗せたほうが悪い。俺はそう思う。だから――違う重しになるだろう俺を、恨んだっていい。憎んだっていい。それでも、その重荷をどかしたいという俺のわがままだから)




