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あい すてる らぶ うー14


 子供たちは、体を手に入れたのかと。

 ついに、復讐される時がやってきたのだと。

 そんな風になってまで、と悲しくなる。同時に、そんな風に思う資格もないかと自嘲もする。

 ずり、とそのうまく動かせないのか、無理やり引きずるように動く巨体が、千都子の方に近づこうとしているらしかった。昆虫の足と、小さな手足をわちゃわちゃと動かして進もうとしている。どうみても上手とはいえない動きで、しかし確かに千都子に向かって進んでいる。ゆっくりと、だが確実に。

 それで逃げ出すでも、立ち向かうでもなく、千都子はそれをぼうっとした眼差しで見る。


(繋がりのようなものを感じる)


 もしかすれば、それは最初からあったのかもしれないが、何か千都子自身と子供たちは奇妙な見えない線のようなもので紐づけされているような感覚がはっきりとある。

 触ることはできない。

 ただ、そこにつながりがあることがわかる。

 それは蟻が変化しだして、冷静になってから強く太くなっていくのを確かに感じているもの。きっとそれは、そうなる前からあったのだという事もなんとなくわかる。

 だからだろうか、大きくなりすぎた子供たちが、今千都子に近づこうとしていることが見た目だけではなくわかる。

 強く意思をもって、近くにこようとしているのが。

 そして、なんらかのつながりを持っていて、それが太く強くなったというその影響なのか、どういう行動をとればどうなるのかということ。

 繋がりは、その先はよくわからないが、子供たちから無数に広がってるらしいという事。

 それはすなわち、このダンジョンの蟻全てにだろうという事。

 そういうことを、なんとなくだが理解した。


(あぁ――あの子たちは、つまり。このダンジョンの王さまみたいなものなのか。蟻の女王?)


 掲示板で、誰かがいってたっけ。

 焦るでもなく、思い出す。


(支配者なんだ)


 もしくは、そうなるように定められた。

 攻撃されない理由。

 攻撃されなくなった理由。

 それは、女王と繋がっていること。

 例えば、王様がいて、その親族も同じく敬われるような。

 ついでに。


(攻撃されなかったのは、この子たちのおかげで。で――私はそれと強く繋がっているから。邪魔をされないから、私はきっと、できちゃうんだ――)


 はっきりいって、異様ではあるが目の前の巨体は遅い。

 そして、そうなったばかりだからかどうかしらないが、千都子には硬そうにも見えないし、実際自分にとってはそれほどの硬さを持っていないだろうと確信できる。

 ずりずりとその巨体を引きずって移動する際に、自分のパーツを潰して壊してしまっている。体液の線が雑に地面に引かれている。

 使い慣れた鈍器でも振り下ろせば、容易にその肉ははじけ飛ぶだろう。


(この子を、制圧することが。殺すことが。支配者の――その権利のようなものかな? それを交代することが)


 いや――それでも、本来は殺すまでなどは無理なことである。そのことすらなんとなくわかった。

 いくら鈍重に見えようが、柔らかく見えようが――本来なら、自分などぷちっと、何の気なしに潰せてしまうより酷い差が横たわっていなければおかしい。

 そんな風に思う。そういう、格の違いのようなものも、人間という生き物として感じることができている。

 でも確かにできるという気持ちは嘘ではないのだ。

 できないはずのものなのに、できてしまえる。

 弱くは見えないもののはずなのに、そう見えてしまう。


(子供の体は、柔らかいもの)


 その矛盾が自分のせいだと思えてきて。

 どうしようもなく強いはずのものが、自分がいるから弱い存在になっているように思えて。

 そんなこと、できもしないし、したこともないくせに。

 千都子は、近寄って抱き上げたい気分になる。


(打倒することができる。私は。やろうと思えば、きっとそれは容易に――あぁ、部屋に置いておかなければいけなかった理由は、そういう紐づけの為だったのだろうか)


 千都子は、近寄ってくる相手を殺すことができる。

 それは決して不可能ではないどころか、恐らくは簡単に。

 だって、きっと逃げないこともわかるのだ。


(そして、そうしたなら、この子たちはリスポーンはしないだろう)


 打倒することで、支配者を交代したのなら、きっと相手は死ぬのだと。


(死ぬことだ。殺すことだ。私が、子供を? もう、それ以外だとは見れないのに? できるから、またするの?)


 つまりそれは、千都子に子殺しをしろということに他ならなかった。


(2回も?)


 目の前の近づいてくるものから、どうするのだ? という選択を突き付けられている気分だった。

 今から行くぞ、殺しに行くぞ、お前はどうする? と。


(多分、そうすればここからも出れるんだろうな――1人きりになって。いや、蟻はいるのかなぁ。交代するみたいな感じだと、そういう感じになっちゃうのかなぁ。そんなお供は、別に要らないな……)


 これは確信までに到達しているわけではないが、恐らく、それがクリアするための方法なのではないかと千都子は察した。

 近寄ってくる。

 ほとんどの人間が醜悪と呼び嫌悪するだろうその巨体が。ずるずると、肉を削りながら。削られた肉を補てんするようにまた肉を増やしながら。

 削られた肉から、新しい蟻が生まれているようだった。


(最初に比べて、もう醜いとは思えなくなってきちゃったなぁ……)


 それでも、千都子は死にたくはない。死にたくはないのだ。

 千都子は自分がここで殺されても、リスポーンはできるだろうという確信はある。

 子供たちと違って、自分は繋がっているだけのただの1生物に過ぎないからだ。

 ずりずりと、近寄ってくる。

 死にたくはないが、動けもしない。どうしても、ここから動く気持ちになれない。

 眺めていると、その中に他の子供より大きめの顔が見える。


(あぁ、海君も。どうして、こっちに来ちゃったの? 拒否した私が、そんなにも憎かった? 死んじゃって、こんな風になってまで?)


 ただ少し大きいだけで、顔も見えないのに。千都子には、それがどうしようもなく海という少年に見えた。


(切り捨ててきたから)


 繋がりがある。

 蟻の女王と、千都子。

 そうか、と思う。


(今度は、私が切り捨てられる番という事なんだろうか?)


 死にたくないながら、恐怖からでもなく、千都子はそんな風にぼんやりと思った。

 状況がわからないわけではないのに、夢をまた見ているようにぼんやりとしている。

 武器を取り出す気には、どうしてもなれなかった。

 立ち上がる気にも、そこから逃げ出す気にも。


(死にたくないなぁ)


 座り込んだまま、ただどこか他人事のように、そう思った。


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