次に繋がること
前線キャンプの一角にある協会持ちの大型テントに、身柄確保した傭兵達を一纏めにして詰め込んである。協会の職員で監視に立ち、南の商業都市から来る警備隊の護送部隊に引き渡され、今夜中に移送するという。
「とりあえず、一山越えたな」
「これからの取り調べとかの方が大変だろうね」
夕食の席で、口々に感想を述べる上級冒険者の皆は一様にほっとした表情だ。そんな中にあって、サイラスだけは無表情に口を閉ざしている。その内心が気になって、お節介と思いながらも声を掛けた。
「サイラス、フィリーと会っておかなくていいのか?」
「いいよ。会ったとしても、今のファイは俺のこと覚えてないだろうし……」
そう言って俯くサイラスに、何と言葉を掛けたらいいのか分からなかった。今夜ももう一晩、デューイを付き添わせた方が良いだろうか。こちらの逡巡する様を見かねてか、サイラスの方から声が掛かった。
「ヴィル、気を遣わせたな。ヴィルの方こそ、被害者なのに」
「いや、別に……それより、もう一晩デューイを付き添わせようか?」
「ありがとう。でも、今は一人になりたい」
「そう……思い詰めるなよ?」
「ああ」
サイラスは軽く頷くと、食べ倦ねていた夕食の残りを勢いよく掻き込み席を立った。その後ろ姿を見送りながら、本当にもう何も出来ることがないのかと、思いを巡らせる。
一人静かに考えに更けっていると、ステフに顔を覗き込まれた。心配を掛けてしまったらしい。
「ヴィルの方こそ思い詰めないでくれよ」
「いや、もう少しで考えが纏まりそうで……」
「何かやらかす気?」
「やらない後悔より、やった上での失敗の方がいいだろう?」
「良くはないよ! ましなだけで」
ステフと内輪で話しているのをライに聞き咎められて、説明を求められた。
「おい、コソコソ二人で喋ってないで、ちゃんと皆に言えよ!」
「まだ確証はないんだけど、試してみたいことがある」
「何だ?」
「ちょっと協会幹部に掛け合って、傭兵達に面会したい」
その発言に、真っ先に反応したのはステフだった。
「ヴィル! ダメだ! また心的外傷が……」
「確かに、あの不気味な気配には参るけどさ……でも、それが薬物乱用した洗脳の副作用なら、俺の癒し系魔力が効くかも知れないと思って」
「そうか、内側に無理矢理付けられた傷なら、癒せるかも……」
あの傭兵達が、協会幹部の推測する通り他国の暗部に誘拐されて薬物で洗脳を受けた元冒険者だとしたら、奴等もまた被害者なのだ。一方的に断罪して終わるのは、後味が良くない。
他国の暗部が行ったとされる薬物での洗脳も、その実態は分からないし、内部の損傷具合も見当がつかない。しかし、無理矢理に外部から与えられた傷なら、癒せる可能性はある。
一連の遣り取りを聞いていたトールやレフは、この試みをあまり賛成出来ないという態度だった。
「あの容疑者達に同情の余地はあるにしても、ヴィルの拉致監禁の実行犯だという事実に変わりはない」
「ヴィルは奴等が憎くはないのか? あんな目に遭ったのに」
それに対しての答えは決まっている。
「罪は償って貰うさ。それはそれとして、俺は俺にしか出来ないことをしたい」
「サイラスの為に?」
「いや、俺の為だ。このまま放っておいたら、ずっと奴等に苦手意識を持ったままになる。心的外傷克服さ!」
それを聞いたステフは、それまでの不安そうな態度から一転し、協力的になった。
「そう言うことなら、オレも協力する! 魔力の供給役になるよ!」
「ステフが魔力供給役? 量が足りないだろう?」
ライが鼻で笑うと、ステフがニヤリと笑い返した。
「じゃあ、ライも協力してくれよ! ライの魔力じゃ、ヴィルに直接はキツいから、オレが中継するよ」
「ルーイの魔力給餌を思い出すな……」
かつて、羽根竜のルーイが卵から孵化した直後、ステフを中継してルーイに魔力給餌をし続け疲労困憊に陥った日々が記憶から蘇る。
それはさておき、傭兵達への対処についての話が纏まると、その場に居る皆で協会幹部に掛け合うことになった。
協会幹部達は、この試みにはいい顔をしなかったが、試すことだけは認めた。但し、安全対策をしっかりすることを条件に付けられた。監視役の職員が見守る中、傭兵達の拘束されているテントに向かった。




