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容疑者確保

冒険者である自分達に出来ることは少ない。


事前の細かな手配や後の処遇等は、冒険者協会や王都の警備隊の仕事だ。我々が出来ることと言えば、容疑者である傭兵達の身柄確保位なものだろう。如何に相手に気取られること無く全員を捕縛するか、よくよく考えねばならない。


「この討伐クエスト中にやらないと、勘付かれて逃げられるかも知れない」

「魔物と混戦状態なら、どさくさ紛れに確保出来ないか?」


トールが口にした懸念材料を受けて、ライが提案する。


「そう上手く行くかな……」

「それなら、俺達がヒューイで魔物を群れ単位で追い立ててやるよ」

「おう、任せたぜ、ヴィル!」


懐疑的なレフに、それならと魔物の煽動を請け合うと、トールが喜んで応じた。


魔物を(けしか)けて混戦状態を作り、後はこの面子で力推しして傭兵達を拘束するという大凡(おおよそ)の方針は決まった。


「後は、現場で臨機応変に、だな!」

「それ、行き当たりばったりって聞こえるぞ?」

「魔物絡みで負傷したことにして、保護した体にするのが手っ取り早いさ」

「乱暴だなぁ」


ある意味、冒険者らしい大雑把な方法だが、あまり策を弄するのも向かない面々だけにこれで精一杯だろう。


「今回は、サイラスには別行動して貰った方がいいだろうな」

「そりゃそうだ」


打ち合わせを終えて、再びサイラスのテントに顔を出す。先程の打ち合わせで決まったことを伝えて、今回は別行動でもいいのではと言うと、サイラスは首を横に振った。


「俺もやる」

「え? だって、フィリーかも知れない奴を捕まえるんだぞ?」

「だからこそ、俺がやるんだ」


サイラスの思い詰めた表情に、それ以上口を挟むことは出来なかった。とりあえず彼を宥めてゆっくり休むように言うと、後はデューイに一晩付き添うよう言い付けてその場を離れた。


二人になってから、ステフと少し話した。


「サイラス、無理してないかな?」

「無理はしてるかも……だけど、オレが思うに、大事な人だったら引導渡すのも自分の手でって感じかも……」

「ステフもそう思うの?」

「オレは……想像つかないよ……」

「俺もさ……考えたくない」


お互いに言葉をなくし、ただ顔を見詰め合う。そして、相手の存在を確かめるようにして、寄り添って眠った。


翌朝、朝食の席に顔を見せたサイラスは、憔悴してはいたがしゃんと背筋を伸ばし、しっかりと前を向いていた。


「サイラス、決心は変わらないんだな?」

「ああ、人任せになんかしない。俺がやる」


その瞳に、迷いは見えない。念の為、引き続き今日一日はデューイをサイラスに付き添わせることにした。


「じゃあ、昨日の打ち合わせを確認するぞ!」


トールの一声で、皆の気持ちが引き締まる。とは言え、作戦らしい作戦は無い。ただ魔物を大量に嗾けて乱戦に持ち込み、それぞれ個別に身柄確保していくだけだ。


「遣り方は各々の裁量次第だ! 行くぜ!」

「「「おう!」」」


また脳筋体質な掛け声の応酬があった。このノリには、いつまで経っても慣れない。ステフは苦笑いして、他の皆に合わせつつ、宥めるように背中を押した。


冒険者達が続々と討伐に向かう。傭兵達の位置をチラチラと確認しながら、ヒューイの背に乗り魔物の溢れる国境付近へと繰り出した。


ヒューイに指示して、まずは上空へと飛び、魔物の分布を確かめる。嗾けるのに丁度良さそうな魔物の群れを見付けて、その付近に降り立った。


「ヒューイ、あの蜥蜴の群れを追い立てるぞ」


ヒューイは牧羊犬のように魔物を追い立て、はみ出した魔物はルーイに整えさせる。いい具合に、魔物の進行方向を傭兵達が討伐している所へ向けさせることが出来た。


「うわっ、何だこりゃ!」


突然現れた大量の魔物に、傭兵達は慌てふためいている。そこへ、彼らを遠巻きに監視していた上級冒険者達がそろりと近付き、傭兵達をバラバラに分断していく。


「危ないぞ、退いてろ!」

「巻き込まれても知らんからな!」


魔物への広範囲攻撃と見せ掛け、トールやライが土壁(ストーンウォール)火壁(ファイヤーウォール)を放つ。それまで連携を取って攻撃していた傭兵達も、迷惑そうにしながら、魔法攻撃に巻き込まれては敵わないと後退せざるを得ない。


「おらよっ!」


レフがわざとらしく掛け声を上げ、広域に氷針(アイスニードル)を展開して見せる。一応は魔物に向けての攻撃だが、攻撃の余波で地面が凍り、それに足を取られて何人かがまた離された。この時点で、傭兵達は殆どバラバラになった。


「……ファイ……」


サイラスが、一人になった主犯の男の背後を取り、手刀を入れて気絶させた。傍に寄り添っていたデューイが、昏倒した男を担ぎ上げる。他の傭兵達も、トール達が力技で捻じ伏せて意識を刈り取り、前線の協会幹部達の所へ運んだ。遠目には、負傷者の移送にしか見えないだろう。


こうして、魔物討伐に紛れた容疑者確保作戦を終えた。

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