過去に埋もれた犯罪
「あの男がもし俺の知っている奴だとしたら、其奴は王都の冒険者協会にいたベテラン冒険者だった」
トールは過去の記憶を掘り起こし、言葉を選びながら話す。
「俺と似たような歳で、討伐もそこそこ熟すし、護衛もそつなく出来る、突出した能力こそ無いが器用な奴という印象だったな。騎獣を狩るのが上手かったよ」
「名前は?」
「ファイベル。仲間内ではフィリーで通ってた。サイラスだけはファイと呼んでいたかな……」
途中で質問を差し挟むと、トールではなくレフが答えた。続きは再びトールが引き継ぐ。
「フィリーはあまり固定のパーティーと組む奴ではなかったが、顔見知りによく助っ人を頼まれてたな。あの新規ダンジョン調査の依頼もそうだったと記憶してる」
「確か、その同行したパーティーって、リーダーが見通し甘い奴で依頼の失敗が嵩んでジリ貧じゃなかったか?」
「ほう……よく覚えてたな、レフ」
「いや、フィリーがその依頼を受けた時、サイラスが口を酸っぱくして『危ない! 止めとけよ!』って引き留めてたから、なんとなく記憶に残ってさ」
「それで、調査チームはどうなったんだ?」
トールとレフが思い出話に浸りそうなのを、声を掛けて状況説明に引き戻した。
「新規ダンジョン調査なんて、浅い階層を調べてその結果を協会に報告するだけの仕事だ。本来なら、然程難易度は高くない」
「まぁ、万が一に備えて、協会側から高位の冒険者がサポートに着く場合もあるが、その依頼では高位冒険者の代わりにベテランを配したってことだろう」
「そのサポートに着いたベテラン冒険者がフィリーだったってことか」
「そうだ」
当時の状況を説明するトールとレフに合いの手を入れて、続きを促す。
「調査チームは、帰還予定を過ぎても戻らなかった。こういうダンジョン調査では、先が読めないことも多々あるから、暫くは様子を見たが、幾ら何でも遅すぎると追加調査が組まれて、それに応じたのがサイラスとレフだ」
「おう」
すると、それまで黙って聞いていたライが口を挟んだ。
「思い出した。追加調査だから高位冒険者に話が来て、レフの参加で決まりだった所にサイラスが自分も行くって捻じ込んでたんだったな」
「そうそう!」
「その強引な態度があまりにもサイラスらしくなかったんで、覚えていたんだ」
ライの語りに、レフが頷く。聞いている自分達にも、当時の状況が少しずつ見えてきた。こうなれば、結末まで聞いておきたい。
「それで、追加調査はどうなったんだ?」
「俺達はチーム内に上級冒険者が二人もいるからって、通常よりも深い階層まで潜ってみたんだ。そうしたら、そのダンジョンは入り口付近は低レベルな魔物しか出ないのが、途中でいきなり高レベルな奴が出始めてさ……だから、最初に来た調査チームが帰って来ないのは、その辺りまで潜っちまったのが原因じゃないかってことになってな」
「成る程ね」
なまじ原因になりそうな事象がそのダンジョンにあった為、最初の調査チームが失踪しても、ダンジョンでの全滅として受け取られてしまったのか。
段々と、過去のダンジョン調査チーム全滅と冒険者の失踪事件との繋がりが見えて来た。
「おまけに、フィリーの使ってた剣とそっくりなのがダンジョンドロップで出たからな……サイラスが遺品と思って持ち帰ってたよ」
締め括りのようにレフが呟いた。
ダンジョンドロップというのは、ダンジョン内で仕留めた魔物が落とすアイテムのことで、その殆どが魔物由来の毛皮や牙、爪などの素材だ。
だが稀に、そのダンジョンで過去に冒険者などが落としたアイテムなどが出ることもあり、それをレアドロップなどと称したりする
恐らく、拉致犯はダンジョン調査チームがダンジョンから帰還するところを狙って全員を拘束し、奪った持ち物をダンジョン内に放置したと思われる。
ダンジョンに吸収された冒険者の持ち物が、その後ダンジョンドロップとして出た日には、その冒険者の遺品と思ってしまっても当然だろう。
そうして、拉致犯はまんまと冒険者の拉致をダンジョンでの全滅として偽装し、行方を眩ました──
「そこまでして拉致っておいて、用が済んだら放置かよ」
「一から育てるよりは安上がりな方法らしいぞ」
「その黒幕連中、碌な死に方しないな」
その場にいる皆、一様に暗澹とした気分になった。
この話に出てくる過去のダンジョン調査チーム全滅事件は『番外編 サイラスの夜』でちらりと触れています(o´∀`)b




