今できること
自分たちに今できること、とは何だろうか。つらつらと考えていると、その頭の中を見透かしたように協会幹部達が話している。
「まぁ、洗脳被害者かどうかは置いといて、とにかく奴らを捕まえなきゃ始まらん」
「捕まえるには、その為の大義名分が要るな」
まずは、傭兵達を逃げられないうちに身柄確保しなければ始まらない。瘴気溜まりを浄化した今、この討伐クエストの終了は残り幾何もない。連中が王都での件で熱りを冷ましているのなら、クエスト終了と同時に他所へ移動してしまうだろう。
「王都へ報告を上げて、指示を仰ごう」
「そんな悠長なこと言ってられるのか? 逃げられたら終わりだぞ!」
彼らの身柄確保をする大義名分を得る為には、王都の警備隊に話を通す必要がある。代わりにこの地域の冒険者協会が動けるように、容疑者を特定するような手配書と捕縛を代行する委任状が必要だ。
「では早速、事務手続きを始めるか」
事情説明なら通信魔道具で出来るし、書類なら鳥の従魔に持たせたら早い。とにかく、時間勝負だ。事務手続きに関しては、幹部達に任せるしかない。一介の冒険者である自分たちに出来ることはあるのか。
「手続きが整うまで、何か出来ることあるか?」
「監視の目を緩めないこと位じゃないかな」
こちらの発した疑問の声に、ステフが応じた。確かに、それ位しか思い付かない。他に大して意見も出ず、打ち合わせはお開きになった。
「じゃ、夕飯食いにに行くか!」
「サイラスにも声掛けた方がいいかな」
「まだそっとしておけよ」
トールが夕食に誘うと、レフやライが口々に声を上げる。サイラスにはデューイを付き添わせているし、様子見には自分が行くのが適任だろう。
「俺が様子見てくるよ」
「なら、オレも」
トール達が場所取りと夕食の確保をしておいてくれると言うので、ステフと二人で再びサイラスの休んでいるテントに向かった。
「サイラス、起きてる?」
テントの中を覗き声を掛けると、横になって休んでいたサイラスが身を起こした。デューイはサイラスの枕元に寄り添い丸まっている。
「ヴィルか……」
「少しは休めたか? そろそろ夕食だけど、食べられそう?」
「……まだちょっと無理、かな……」
「なら、後でパンとか差し入れるよ。デューイ、もう暫く付き添ってて」
テントから離れ、広場に戻る道すがら、一緒に来たステフにサイラスの様子を話した。
「サイラス、まだダメージから立ち直れてないな」
「死んだと思ってた知り合いが生きてたのって、そんなにショックかな?」
「あの様子じゃ、ただの知り合いって訳ではないだろうね。もっと親密な間柄だったんじゃないの?」
「親密……付き合ってた、とか?」
「かもな」
あまり憶測で物を言うことは避けたいが、考えずにはいられない。もし自分だったらどう思うだろうか。もし付き合っていた人と死に別れるとしたら、それだけでも遣り切れない程辛い。その死に別れた人が生きていて、それが誘拐・洗脳された挙げ句に犯罪者となっていたとしたら……
もし、ステフがその立場だったら……
「……考えたくない」
「何が?」
「もしステフと生き別れて、再会したら犯罪者だったら、とか」
「うわーないわーそれーオレも無理ー」
二人でげんなりとしながら、広場に戻って来た。
「おーい、ヴィル、ステフ、こっち!」
夕食時で賑わう広場の一角で、レフが手を振り二人を呼ぶ。その声に手を振り返して、広場を横切って行った。途中、例の傭兵達の集団が目に入る。周りの騒がしさと比べて、彼らは殆ど話すこともなく、黙々と食事を口に運んでいた。
「サイラス、具合どう?」
「まだ調子悪そうだった。食事も無理そう」
「そうか」
「デューイを付き添わせているから、夕食が終わったら差し入れがてらもう一度様子見に行くよ」
皆のところに着くなり、レフから聞かれた。それに答えながら、とって貰っていた席に座り、夕食のトレーを受け取る。この際、サイラスと親しかったという人物のことを聞いておく方がいいかも知れない。記録映像の顔に最初に反応したトールに、事情説明を求めた。
「トール、先刻の映像に映っていた人のことを教えてくれないか?」
「いや、似ているだけで、そうと決まった訳じゃない」
「違ったとしても、聞いておきたい。知らずにいて、サイラスに余計なことを言って負担を掛けたくないし」
「それもそうだな」
トールは、重い口を開いた。




