表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
90/166

真相

まだ人の疎らな休息場所の中をデューイと歩き、サイラスのテントを見付けて彼を運び入れた。


「デューイ、サイラスを降ろして」


デューイは首を横に振ると、サイラスを抱き抱えたまま床に座り込み、ゆらゆらと揺する。まるでウルリヒをあやす時のような仕草だ。僅かな時間だが触れ合っているサイラスが、癒しを必要とする程弱っているのを感じとっているのだろう。優しい子だ。


「ありがとう、デューイ。暫くサイラスを頼むよ」


デューイは頷き、サイラスを揺する。サイラスもデューイに寄り添われて安心したのか、少し落ち着きを取り戻していた。


「ヴィル、取り乱して悪かった。これを」


撮影魔道具を差し出すと、サイラスはそのまま気を失うように寝入った。


「預かるよ。とにかく、今は休め」


受け取った魔道具を持って広場に戻り、協会幹部達の打ち合わせる輪の中に加わる。幹部の一人が、魔道具から記録魔石を取り出して、映像を確認する装置に組み込んだ。パッと光が灯り、映像が映し出される。討伐中の傭兵達がはっきりと写っていた。


「サイラスのも、よく撮れてるな」

「レフのとは角度が違うから、これなら映ってるかも」


あの総毛立つ気配の主を探して、映像の中の傭兵達を一人一人確認する。なかなか見付からなず、気ばかり焦るが仕方がない。溜め息を吐き、焦る気持ちを振り払って確認を続ける。映像の最後の方で、漸くそれらしき顔が映し出された。


「多分、此奴(こいつ)だ」

「え? これって……」

「何だ? トール、知ってる奴か?」


拉致犯と覚しき奴の顔を指し示すと、トールが動揺を見せた。先程のサイラスの様子を彷彿とさせるような表情だ。


「いや、彼奴(あいつ)の筈がない」

先刻(さっき)のサイラスみたいなこと言うなよ」

「……しかし、他人の空似にしては似過ぎている。もしかしたら、生きていたのか?」


トールが譫言(うわごと)のように呟くのを、暫く黙って聞いていたが、そろそろ忍耐が切れそうだ。苛々と先を促す。


「先刻から、サイラスといいトールといい、どうかしてるぞ! いい加減、はっきり言ってくれ」

「悪かった」


トールは皆に詫びると、ずっと以前にあったダンジョン調査チーム全滅の話をした。


「王都の冒険者協会が依頼した未探査ダンジョンの調査で、調査パーティーが全滅した件があったんだ。その時の調査メンバーの一人と、この傭兵がそっくりでな」

「その全滅したパーティーの件、覚えてるよ。俺、追加の調査チームに入ってたんだ。確か、その時サイラスも一緒だったな」


トールの話を受けて、レフが答える。協会幹部達は、流石に管轄区域が違い過ぎて知らないようだ。話を聞いて、ライが思い出したように言う。


「そう言えば、その全滅したパーティーの奴とサイラスは親しかったっけなぁ。当時、随分と落ち込んでいたようだが」

「その全滅したパーティーの他のメンバーは、この傭兵達の中にいるのか?」

「はっきりとは思い出せないが、似たのはいるな」

「どういうことだ? 一体……」


意味が分からず、全員が黙り込む。暫くして、幹部の一人が「あくまで、噂の域だが」と前置きして、不穏な話を持ち出した。


「西の方、二つ三つ離れた国の話だ。その国が内情不安定で国の要人が国外に逃げているような状態で、その国の暗部が使い捨ての駒を現地調達してたって話がある」

「使い捨ての駒?」

「暗部ってのは、手駒を育てるのに時間も金もかかる。人手の足りない他国での情報収集や裏工作、果ては暗殺まで、即戦力として現地の冒険者を誘拐し薬で洗脳して使い捨てたとか何とか」

「酷ェ話だな」

「胸糞悪い」


噂話と言いながら、かなり信憑性の高い話らしい。現に、周辺の国では誘拐や洗脳の被害者が確認されていると言うことだった。ただ、離れた国の話なので、この国での被害はまだ表立ったものはない。


「冒険者のダンジョンでの死亡事故なんて、掃いて捨てるほどあるからな。死体も残らないし。そこを突かれて、誘拐や洗脳されていたとしたら、発見は難しい」

「なら、あの傭兵達が、誘拐洗脳被害者の可能性があるってことか?」

「断言は出来ない。ただ、使い捨てにされた後も生き延びていたなら、無理矢理身に付けさせられた技術を使って、裏稼業で食い繋いでいてもおかしくない」


その場にいる全員が、暗澹とした気分になった。あくまで、憶測に過ぎないのだが、真相を確かめようがない。


「其奴らが被害者と仮定して、洗脳を解くことは出来るのか?」

「難しいな」

「もし仮に洗脳を解けたとしても、記憶や自我がどの程度戻るか分からない。下手したら、廃人状態になるぞ」


ライと幹部達が話すのをぼんやり聞きながら、ここにいないサイラスの心情を思った。親しい相手との悲しい別れだけでも遣り切れないのに、その傷を更に抉るようなものではないか。


「ヴィル、眉間に皺が寄ってる」

「ステフ……今は眉間の皺どころの話じゃない」

「だって、考えても仕方ないことなんだろう? 知り合いなら助ければいいし、記憶がないならないなりに生きていけばいいだろう?」

「ステフは考え方がシンプルでいいな」

「へへへっ」


確かに、ステフの言うことも一理あるだろう。どんな状態だろうと、生きているなら、何とかなる。どん底から這い上がったステフならではの言葉ともいえる。


「そうだな。考えても仕方ないことは棚上げして、今できることを考えよう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ