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作戦会議

前線に戻ると、他の皆も三々五々戻って来ていた。朝食を食べた場所に再び集まり、緩衝地帯で目にした情報を共有しておく。それらを元に、明日からの対策を決めねばならない。


「瘴気溜まりの位置は隣国すれすれだ。ただ、魔物の湧きが多過ぎて誰も近くにはいなかった。国境にも隣国の者は見当たらなかったぞ」

「国境付近にいないとすると、隣国の連中は、魔物が砂漠を行く間に弱体化するのを見越して町の防衛に徹しているのかも知れないな」


瘴気溜まり周辺の様子について報告すると、それを聞いた協会幹部が憶測を話した。もしそれが本当なら、背中から撃たれること(フレンドリーファイア)への危険は避けられそうだ。瘴気溜まりへの対応は、いつも通りに我々だけで行うことになりそうだ。


「とにかく、うんざりする程の魔物の量だ。これを何とかしないと、瘴気溜まり本体に近付けもしない」

「蜥蜴と虫ばっかりだから、単体でならそれ程強くはないのが救いだけどねー」


追加で情報を話すと、ステフも付け加えた。


「規模はどの位だ?」

「かなり大きい方かな。以前王都付近に発生したのに比べたら、それ程でもないけど」

「あれは浄化に手子摺ったよなー、何日もかかったし!」


別の協会幹部から聞かれた質問に答える。その時の苦労を思い出し、ステフが愚痴めいたことを口にした。


此処にある瘴気溜まりの規模なら、丸一日かければ自分一人でも何とか浄化出来るだろう。ステフに補助して貰えば、もう少し早められるかも知れない。


それから先程、出会(でくわ)した奴のことを報告した。


「今回、参加している傭兵の中に、王都で俺を拉致した主犯格の奴が潜んでいる。残念ながら、俺は其奴(そいつ)の顔が分からない……見たことがなくて。でも、確かに気配は感じる。間違いなく奴だ」

「本当か!?」

「また『翠聖』の拉致狙いなのか?」


協会幹部達がざわめく。上級冒険者達も、皆一様に渋い表情だ。大量の魔物討伐だけでも大変なのに、その上、拉致犯の対応までするのは厳しい。


「今回は瘴気溜まりの浄化が最優先だ。拉致犯の確保は二の次になる。顔が分からないんじゃ、手配書も出せないしな」

「なら、今回は拉致犯の顔を確かめることを優先しよう。人相書きが作れたら手配書も出せるし、魔道具で撮影出来たら、万々歳だ」


協会幹部の中で、此処での責任者となっている人が当面の方針を決めた。それを受けて、皆は口々に意見を述べる。


「じゃあ、撮影魔道具を貸してくれ」

「全員の分はないぞ!」

「大体、気配が分かるのはヴィルだけだろう。誰を撮影するんだよ!」

「傭兵を片っ端から撮っておけば、どれかは当たるさ」

「雑だな……」


それからは、上級冒険者同士で侃々諤々とやり合って役割分担を決めた。撮影魔道具は、レフとサイラスが担当することになった。器用さで他に優る二人なら、そつなく(こな)すだろう。


トールとライは、討伐に専念する。二人共、範囲魔法は得意だし、地を這う蜥蜴にはトールの土属性は有効だろう。ライの火属性は、昆虫系には効果覿面だ。


浄化に当たる自分とステフは、ヒューイに乗って上空まで飛び、そこからルーイにぶら下がって降下することにした。地上からでは魔物が多過ぎて本体に行き着く前に疲弊してしまいそうなのと、ヒューイが瘴気溜まりに入るのを嫌うからだ。


ルーイはまだ小柄で騎乗は出来ない。だが成長して大きくなってきた翼は力強く、短距離ならよくデューイを持ち上げて飛んだりしている。今回は二人も運ぶことになるが、真上から降下するだけなので何とかなるだろう。


「じゃあ、明日に備えて休むか」


話し合いが終わると、配給の夕食を摂って各々テントに引き上げた。ステフと二人で持って来たテントを張り、そこで横になって休む。昨日の宿と同じように、枕元にルーイが、足元にデューイが陣取った。


布一枚で外部と隔てられただけとはいえ、やっと家族のみで過ごせるプライベート空間だ。緊張が解れて癒される。隣に寝転ぶステフに腕を回しぴったりと身を寄せると、ステフからもガシッと力を込めて抱き返された。


「ヴィル、胸張ってない? 大丈夫?」


ステフが耳元で気遣わし気に囁く。少し前まで、ウルリヒに乳を飲ませないと、僅か一日で胸が張って大変だった。今では、ウルリヒの離乳も進み徐々に乳の出も減っているので、以前のような炎症を起こすことはなくなった。


「今のところ平気だよ」

「吸い出しておく?」

「もうそんなに出ないから、布で押さえておけば大丈夫」

「そうは言っても……念の為ね」


ステフがこちらの服を寛げて、胸に吸い付く。乳が大量に出ていて搾るのに追いつかない時、応急措置でステフに吸い出して貰っていたが、今はそこまでの緊急性はない。別の意図があるのは明らかだ。


「……ステフ?」

「治療だってば」

「嘘吐け!」

「ちょっと位いいじゃないかー」


──結局、流された。必死で口を押さえていたが、テントの薄い布一枚でどれだけ物音が防げたか怪しい。明日の朝、テントを出るのが果てしなく気まずかった。


テントを遮音付与した魔道具付きに代えるか、遮音結界を覚えたい……

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