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南の商業都市

街を出て、草原地帯の中を貫く街道を南へと向かう。以前、西の辺境へ行った時と同じように隊列を組み、進んで行った。先頭はトールの乗った黒狼のディーンで、殿(しんがり)がヒューイだ。その間を他の騎獣達──セスやルド、フロルが続く。


「そろそろ休憩するか」

「賛成!」


街道沿いに見える草原には所々に木立があり、その木陰は旅人達の良い休憩場所となっている。そのうちの一つに近付いた折、先頭のトールから声が掛けられ、皆でそれに応じた。休憩場所で騎獣を降り、躰を伸ばしたり水を飲む。街よりも強烈な日射しに、流れる汗を拭った。


「まだ木陰は過ごし易いけど、さすがに日向は暑くなって来たな」

「この辺りはまだましだよ。この先、土地が荒れていって日陰が無くなるから」


ステフから言うように草原に茂る草も、南へ行く程疎らになり、荒れていった。休憩できる木立すら無くなり、後の方では人の手で作ったような粗末な日除けが掛けられていた。


街から南の国境へは、普通の馬車で四、五日かかる。馬車を連ねた商隊なら、もう少し日数がかかるだろう。その距離を、この上級冒険者の騎獣達はほぼ丸一日程で走破した。ヒューイ単独なら更に速かっただろう。


日暮れ時に着いた国境の町は、荒れ地の中にただ一カ所ある水場に拓けた商業都市だった。西の国境とは異なり、砦などは見当たらない。此処の国境は隣国と緩衝地帯を挟んで離れている為と、その隣国とは取り立てて争うことがない為だった。


何しろ、挟んでいる緩衝地帯は、広大な魔境だ。過酷な環境の砂漠に魔物が跋扈し、領土にするにはどちらの国にとっても大した益にはならない。ただ、逞しい商人達は、魔境をものともせず越えて来る。おかげで、交易拠点としてこの町は重要な位置を占めていた。


もう薄暗くなり他の町なら店じまいをし始める時間でも、この町ではまだ宵の口らしく活気に満ちていた。露店の集まる市場の其処此処で魔石ランプが点灯し始め、昼間の喧騒とは違った賑わいを見せる。


陽気に騒ぐ明るい表通りの灯りの届かない辺りから、妖しい雰囲気が広がっていた。どの町にも色街くらいはあるものだが、此処のは他より少し大っぴらな気がする。南国の暑さ故の開放的な気風が、そちらにも発揮されているのだろうか。


「おおっ! ここはねーちゃん達のレベル高いな!」


レフが目聡く客引きに出ている夜の蝶を見留め、口笛混じりに浮かれ口調で呟く。トールはやれやれといった風に肩を竦めて、レフの背を叩いた。


「お楽しみは依頼を終わらせてからだ」

「了解。とっとと終わらせて、ねーちゃん達と豪遊するぜ!」


一人息巻くレフを尻目に、他の面々は今後の見通しを話しながら、町にある冒険者協会の支部に向かった。


協会の建物に入ると、受付に声を掛ける間もなく協会幹部達が出迎えた。通信魔道具で街から連絡が入っていたのだろう。その足で全員が受付奥にある会議室へ行く。会議室では、ここの支部長が待ち構えていた。


「よく来た。早かったな『黒槌』」

「この面子なら、全員が騎獣で飛ばして来れるからな」


支部長とトールが挨拶を交わしている横で、他の幹部職員が今回の依頼に関する情報を標した地図を広げていた。それを指し示しながら、状況説明が入る。


「ここを見てくれ。今回の大規模討伐依頼は、瘴気溜まりの位置に問題があるんだ」

「問題?」

「よりによって、緩衝地帯の隣国寄りにある。瘴気被害は、おそらく隣国の方が酷いだろう。かといって、隣に任せっ放しって訳にもいかない。ウチからも戦力は出さないと」

「向こうとの連携は?」

「そもそも、隣国とは揉めていないだけで、積極的な交流は無いに等しいんだよ。交易も商人達が躰張って魔境越えしているから成り立ってるだけだ。国が動くことは今のところ無い」


幹部職員の説明に、要所要所でサイラスが質問を挟む。おかげで、今回の依頼での問題点がはっきりしてきた。要するに、この瘴気溜まりに対して、連携も無く両側から攻撃の布陣が敷かれるということだ。おまけに、その場所までの距離はこちらの方が長い。


「そんな中にのこのこと出掛けて行って、浄化しても大丈夫なのか?」

「向こうがどのくらい戦力を出してくるのか分からないが、浄化の能力者はいないだろう。『翠聖』の浄化は必要だ」

背中から撃たれる(フレンドリーファイア)のだけは勘弁して欲しいがね」


今までにはない厄介さを孕んだ依頼だった。瘴気溜まりから湧き出る魔物だけでも大変なのに、隣国の連中を躱しながらの浄化とか、出来る気がしない。


「心配しないでいいぞ、俺がしっかり護衛してやる!」

「護衛はオレとデューイ、ルーイがいるから! ライは他で魔物間引いていなよ!」

「浄化中はステフだって無防備だろうが! 俺に任せておけ!」


浄化に伴う厄介な状況について思い悩んでいる横で、ライとステフが何やら言い争っている。これでは考えに集中出来ないと口を挟もうとしたところで、先にトールとサイラスが間に入った。


「ライは何でも力押しにする。良くないぞ」

「ステフ、作戦行動については、もう少し状況見てから指示があるさ。誰が護衛に付くかは、その時次第だよ」


二人から冷静に諭されて、ライもステフも張り合うことを止め口を閉ざした。


本当に、どうするんだ、これ。

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