残る火種と新たな依頼
うっかり騎獣の名前を間違えていたので、訂正しました(^^;)
どうもすみません<(_ _)>
王都からの帰路は、いつも以上のハイペースで飛ばした。ヒューイが暫く放っておかれた鬱憤を晴らすように走った為だったが、早く帰れる分には構わない。移動中、自分達に掛ける防護結界を厚くしたのは当然の措置だ。
「やっと帰って来れた」
「このところ、出先でのトラブル続きで、帰りが遅れてばかりだったからね……」
「ホッとするよ。当分の間、面倒事は勘弁だな」
家に帰り着くと、ステフと二人して愚痴めいたことを口にしてしまった。やはり、我が家が一番だ。従魔達も寛いでいる。ウルリヒはご機嫌な声を上げていた。何を言っているか分からないが、赤ん坊言葉はそんなものだろう。
街に戻ってから数日後、冒険者協会経由で奪われていた装備品の一部が戻って来た。インナーなどの量販品はともかく、外套や軽鎧、魔法鞄などの特注品は、王都でも知名度のある『翠聖』の物との認識が高く、売りに出されてすぐ足がついたそうだ。
そのおかげで、拉致実行犯の一部は王都警備隊に捕縛された。やはり傭兵だったという。しかし、こちらの隠形潜伏スキルを上回る手練れは、まだ捕まってはいないらしい。今後必ずしも敵対するとは限らないが、不安要素が残ってしまった。
「ヴィルさん、ステフさん、お帰りなさい」
「よう、疲れた顔して、どうした?」
帰って早々に会いに行ったランディとフェルから、挨拶がてら声を掛けられた。それにステフ共々返答する。
「ただいま。王都でちょっと厄介な事に巻き込まれたんだ。まあ、無事に終わったから良かったけどね」
「とりあえず、目的の物は手に入ったよ」
何はともあれ、王都から持ち帰った小型通信魔道具を、ウルリヒの預け先となるランディ達に無事渡せた。これで漸く、突発的な依頼にも対応出来る。ステフと二人、ホッと胸を撫で下ろした。
それからは、大した波乱も無く過ごした。ウルリヒはすくすくと育ち、首も据わり躰付きもしっかりして来ている。乳以外に食べられる物も徐々に増えて、動きが活発になっていった為に、常に親である自分とステフや従魔達が監視の目を光らせていた。
「俺は長老から『手のかからない子だった』って聞いていたんだがな……」
「じゃあ、ウルはオレに似たんだね! オレはよく動く子だったらしいからさー」
ウルリヒに振り回された一日の終わりにそう呟くと、ステフから笑いながら返された。ぐったりしているうちに、飛ぶように日々が過ぎて行く。そんなある日──
「ヴィル、浄化の指名依頼入ったよ。今度は南の国境付近だって」
冒険者協会に依頼の確認しに行っていたステフが、帰って来るなりそう言った。
「へぇ、南か。行ったことないな」
「オレはアベル達と護衛依頼で行ったことあるよ」
「どんな所だ?」
「やたらと暑くて賑やかな所だよ。西の国境付近とは全然、雰囲気が違うな」
ランディに連絡をしてウルリヒを預ける算段をし、手早く荷造りすると、ステフと共に南へ向かう用意をした。まずは、国境にある商業都市に行く。そこにある冒険者協会の支部で、今回の依頼に関する詳細を聞かねばならない。
ウルリヒはランディ達が迎えに来てくれた。彼らの家で預かってくれるという。有難い。
そして、出発しようといつものようにヒューイを先に街の外で待たせ、ステフやデューイと一緒に東門へ行くと、そこに見知った顔ぶれが並んでいた。
「やあ、今回の依頼もこの面子のようだな」
「協会の人材不足のせいだろうよ。変わり映えしないメンバーだが、よろしくな」
瘴気溜まりの浄化依頼でよく顔を合わせる上級冒険者達──『黒槌』『紅刃』『蒼牙』『白爪』が勢揃いしている。彼らの騎獣達も、こちらに身を乗り出していた。ライの騎獣である大山猫のセスが一早くこちらに近付いて来て、撫でて欲しそうに足元に擦り寄る。
「セス、久しぶり! ヨシヨシ」
「ヴィルの騎獣誑しは相変わらずだな」
「人聞きの悪いこと言う奴だな。セス、主に似るなよ」
絡んで来たライに軽口で返し、その隣のトールに話し掛ける。
「王都から来たのなら北門が近いだろう? 何で皆、東門にいるんだ?」
「協会に寄ったら、ヴィル達はもう依頼を受けた後だったから、まだ街にいるか確かめに来たんだよ」
「早めに合流出来たらと思ってね!」
トールの返答に、サイラスが付け加えた。レフは黙って、辺りをキョロキョロと眺め回している。その不審な様子にステフが突っ込んだ。
「レフ、何してるんだ? 探し物?」
「いや、お前らの赤ん坊、何処行ったかと思って」
「ウルなら、依頼を受けてすぐ預かって貰ったよ。もう危険に晒したくないからね」
そう答えるステフに、レフは目を丸くしていた。
「何だよ、レフ、どうかした?」
「ステフが親っぽいこと言ってる……すげぇ違和感!」
「何だよ、それ! 親っぽい、じゃなくて親なんだけど!!」
一人息巻くステフを囲み、皆が笑っている。こっちはそれ処ではなく、騎獣達に取り囲まれて撫でて攻撃に遭っていた。
「ディーン、フロル、あんまり押さないで! おい、ルド、甘噛みするなよ! セス、さっき撫でてやっただろう?」
騎獣に埋もれてあわあわしていると、デューイが間に入って助け出してくれた。うちの子は頼りになる。その上空で、ルーイがふよふよ飛び回りながら、暢気にギョエーと鳴いた。




