表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/166

此処は何処

ハッと目が覚めた。暫く、自分の措かれた状況が分からず、ぼーっと宙を眺める。ゆっくりと気絶する前の記憶が蘇り、辺りを見回した。


薄暗い部屋の中で、ベッドに寝かされている。部屋は街の自宅にある寝室や、王都で泊まっている宿よりもやや大きいだろうか。ベッドは簡素な造りで、二、三人は寝られそうな物だ。マットレスは硬く、寝心地は良く無い。上掛けはペラペラで寒いが、無いよりマシだ。


次に、自分の様子を観察してみる。以前、街で拉致された時とは違い、装備品は外されていた。服も着替えさせられており、白いシンプルな丈長の上衣のみだった。中の肌着は、自前の物だ。裸に剥かれた訳では無さそうで、少しほっとする。


肌着の中に身に付けていたおかげで、ステフと揃いのペンダントは取られずに済んだ。魔法鞄(マジックバッグ)になったポーチを取られたのは痛いが、また買い直せばいい。このペンダントは二つと無いのだから。


自分の躰を観察していると、足元に嵌まった鎖の枷が目に入った。やはり、街のボンクラな素人集団とは違い、甘くはない。手に枷が無いのが、せめてもの救いだろう。両足首に嵌まった枷は、ある程度の長さを持たせた鎖で繋がっている。その辺を歩くくらいは出来そうだ。


部屋には、ほとんど物が置かれていない。今、寝かされているベッドの他は、小さな棚と箪笥に、飾り気のない椅子くらいだ。足元の枷から伸びる鎖は、ベッドの脚に取り付けられていて、そこそこの長さはありそうに見える。


試しにベッドから降りて立ち上がる。靴は見当たらないので、裸足のまま部屋を歩いてみた。部屋の端に届く距離まで、鎖の長さは充分にある。ただ、歩く度にチャリチャリと音がするのは鬱陶しい。


ここまで検分した所で、部屋の外に人の気配を感じた。誰かがこの部屋に来たらしい。パッと上掛けを被って横になり、隙間から部屋の扉を窺う。ガチャガチャと鍵を開ける音が聞こえて、扉が開いた。


戸口に立つのは、白いローブ姿の痩せた男で、手に食べ物の載ったトレーを持っている。隣には黒いローブのやや大柄な体躯の男が居て、手に扉の鍵を持っていた。鍵束には、他の鍵も下がっており、この枷の鍵もありそうだ。


黒ローブに促されて、白ローブ一人だけが部屋に入ると、扉が閉まった。また廊下側からガチャガチャと音がする。出入りの度に一々鍵を掛けるとは、ご苦労なことだ。白ローブがこちらに近付き、ベッドサイドの棚にトレーを置くと、話し掛けてきた。


「起きられましたか、聖女様? 食事を持って参りました。お口に合いますかどうか分かりませんが、お召し上がり頂けると幸いです」


馬鹿丁寧な口上で、持って来た食事を勧める。チラリと見た感じでは、パンやスープなどの質素なメニューだった。湯気も立っておらず、冷めていて如何にも不味そうだし、何が入っているやら。この上、薬でも盛られては堪ったものではない。


それにしても、男に向かって聖女様って何だ。そもそも、勝手に拉致して枷で鎖に繋いでおいて、上っ面だけは聖女様と持ち上げるとは、その無神経さに開いた口が塞がらない。ムカムカと怒りが湧いてきて、ただでは済ますものかと気合いを入れた。


白ローブは暫くこちらを窺いながら佇んでいたが、返事もせず身動きしないのを見て踵を返した。後ろを向いた瞬間、その時を待っていたとばかりに、がばっと身を起こし攻撃開始する。


背を向けた白ローブに対して、後ろから飛び掛かり首に腕を回す。そのままスリーパーホールドで締め上げて、白ローブの意識を落とした。力無く(くずお)れる白ローブをベッドの上に放り出し、その躰からローブを奪って身に付ける。


床に足を降ろすと、今更ながら自分が裸足なのを思い出した。気絶した男から靴を脱がせて穿いてみる。ややサイズが合っていないが、この際どうでもいい。足の枷から伸びる鎖を持ち上げ、音が鳴らないよう気を付けながら扉に近付いた。


気配を窺うと、外に居るのは先程見えた黒ローブの男だけらしいのが感じられた。身に付けた白ローブのフードを目深に被り、部屋にあった椅子を扉の脇に置いてから、扉を軽く叩いて音を出し合図を送る。椅子の上に立ち鎖を手に身構えた頃、ガチャガチャと鍵の開く音が聞こえて扉が開いた。


「早いな。聖女様は眠ったままか?」


黒ローブが扉の開いた隙間から顔を出す。その瞬間を狙い、手にした鎖を黒ローブの首に掛けた。鎖を肩に掛けて背負うようにして、頸動脈と気道を思い切り絞める。止めとばかりに、椅子から飛び降りて体重を掛けた。


黒ローブは赤黒い顔色で暫くバタバタと抵抗していたが、やがて気絶して廊下の床に転がった。その躰を、鎖ごと引き摺って部屋の中に入れる。扉を閉めて、内側から鍵を掛けた。


黒ローブの男は、大柄な分重くて苦労したが、何とかベッドの上に転がし、痩せた男と並べて寝かせる。黒ローブも剥ぎ取って、靴も脱がせた。穿いてみたが、この靴もサイズが合わない。まだ痩せた男の靴の方がマシなので、この靴は予備に持っておく。


念の為、二人を身包み剥いでおく。肌着だけは残してやった。黒ローブが持っていた鍵束から、枷の鍵を見付けて外す。枷は、痩せた男と大柄な男の足に片方ずつ嵌めた。


剥いだ服から裾の方を裂き、猿轡を作って二人に噛ませる。裂き布を活用して、二人の手も後ろ手に拘束しておいた。仕上げに、ペラペラの上掛けを広げて、二人の躰を覆う。これでかなり逃走発覚まで時間が稼げるだろう。


剥いだ服のうち裂いた物以外から一つを広げて、残りの服や靴を包んで括り持ち出し荷物を作った。脱出時に、何かに使えるかも知れない。


黒ローブから剥いだベルトには、鍵束の他に短剣も下がっていて、有難く装備させて貰う。他には有用な装備は見当たらないので、予備の包みをベルトに引っ掛け、羽織ったローブを整えて扉の外に出た。外から鍵を締める。


反撃開始だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ