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暗転

南西大通りを連れ立って歩く。こちらが動くに連れて、怪しい連中の気配も動いているのを感じる。他の皆にも連中の気配が分かるようで、サイラスがこちらを気遣わしそうな目で見た。軽く口角を上げて頷き返す。


「じゃあ、あの角を曲がった所で、行動開始だ」

「よし」

「分かった」

「……気を付けて、ヴィル」


ステフがぎゅっと手を握ってくる。心配ないと逆の手でポンと叩くと、名残惜し気に手を離した。なるべく歩調を変えないよう心掛けて移動し、大通りから路地に入る当たりで、号令をかける。


行け(Go)!」


一斉にバラバラな方向へ向かって動き出した。


まずサイラスがステフとウルリヒをフロルに乗せて走り出す。それを追って、ルーイがふよふよと飛んで行った。レフは路地に走り込むと、手近に居た怪しい気配の連中に範囲攻撃を叩き込む。


氷針(アイスニードル)!」


レフの氷針は自身の周りを壁で覆うように展開する、攻守合わせた技だ。攻撃力は程々だが、牽制には適している。先制攻撃を受けた怪しい連中は、それまで気配を殺し潜んでいたのをかなぐり捨てて、わらわらと姿を露わにし、反撃に転じた。


連中の攻撃は、短剣や投げナイフらしく、魔法攻撃は無い。レフは連中の攻撃を易々と躱して、更に追撃を加える。魔法鞄(マジックバッグ)を買ったらしく、腰のポーチから明らかに容量を超える大きさの双剣を取り出して装備した。レフはこの双剣に氷を纏わせて闘うスタイルが主で、二つ名『蒼牙(そうが)』の由来にもなっている。


「オラオラ、そんなヌルい攻撃で俺と遣り合う気か!?」


レフが連中を煽る。その隙をついて密かに路地の物陰に身を隠した。潜伏スキルを最大限に発揮し、気配を殺して闇に潜る。索敵(サーチ)で辺りの状況を窺いながら、ひたすらレフが連中を引き離すのを待った。


潜伏している間、ふと過去の記憶が蘇る。物心ついてから成人するまでを過ごした辺鄙な村で、よく苛めっ子達に追いかけ回されては、こうして物陰に隠れてやり過ごしていた。あの連中は、この顔が気に入らないと言っては苛めてきた。


長じては、この顔に魅せられたとか言って追いかけ回されている。そして今、よく分からない連中から追いかけ回されて、こうして息を殺し潜んでいる訳だ。全く、溜め息しか出ない。


この顔について、育ての親の長老は何やら言っていた。そう、生みの母そっくりだ、と。身重な躰で何処からか流れて来て、身寄りのない辺鄙な村で子を産むと、力尽きた母。長老は、母については多くを語らなかった。


今思えば、長老は語らなかったのではなく、語る言葉を持たなかったのだと分かる。幼い頃は、それを分からず、ただの苛めと思い泣いていた。理不尽な話だ。心の中で、長老に謝っておこう。


数少ない、長老の語った母の事は、顔が自分に似ている事と、目の色は母譲りである事、そして、名前を母の名から取って付けた事だ。母の遺したのは、この顔と名と、古いアミュレットだけ。そのアミュレットさえ、あの雨降る夜に着の身着のまま逃げ出した際、村に置いて来てしまった。


つらつらと思い出を辿るうちに、やがて日も傾き、路地から見える大通りの人通りも疎らになってきた。気配察知を働かせて辺りを窺うも、怪しい連中はもう移動したようだ。そろそろ動いても大丈夫かと、用心しながら路地を出て歩く。人波を泳ぐように漫ろ歩き、回り道しながら王都の冒険者協会を目指した。


途中、協会の建物が見える辺りで、再び連中の仲間と覚しき気配を感じた。スッと身を隠し、また物陰に潜む。まだ諦めていないらしい。仕方ないので、また遠回りな道を選び人混みに紛れた。


怪しい気配から充分に距離を取り、潜伏と移動を繰り返す。協会に近付いては怪しい気配を感じ、また再び離れた。このままでは、永遠に協会の建物には入れない気がしてくる。方針を変え、一旦何処かに身を寄せてから迎えを待つべきか、考えてしまう。


もう何度目かと協会を間近にしては足踏みしている頃、協会の方からルーイがふよふよと飛んで来るのが見えた。ルーイを呼ぼうと片手を上げた所で、その手首をガッと掴まれる。何事かと振り返ったが、手首を掴んでいる相手の顔を見る前に手刀が首元に落とされて意識が刈り取られた。


一瞬の出来事だった。

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