職人探し
職人の工房を回るうちに、ウルリヒが泣き出した。ちょうど昼時でもあり、食事がてら休憩することになった。従魔連れで入れる店は、個室でも借りない限り望めないので、露店で賑わう中央広場へ足を向ける。
「じゃあ、オレ、昼メシ何か買って来るから」
「頼むよ。俺はウル係だ」
「デューイ、ルーイ、護衛よろしくなー」
ステフが食料調達に奔る間、広場の隅にあるベンチに座り、ウルリヒを抱き上げ胸に吸い付かせる。視線を避ける肩掛けと、デューイのガードは欠かせない。何人か、こちらを窺うような目線を感じたが、その都度ルーイがふよふよと相手の周りを飛び回り煙に巻いてくれた。
程無く、ステフが沢山の食べ物を抱えて戻った。ステフは自分も食べながら、こちらにも食べ物を口元に差し出す。食べ易いように、小分けにする気の遣いようだ。ウルリヒに乳を与えていると異様に空腹感が増すので、以前と比べて食べる量が増えている今、この気遣いは有難い。
食べる合間に、それまでに回った魔道具工房の感想を話す。最初の工房と二軒目とは、従来型の据え置き式通信魔道具しか扱っていなかった。三軒目で、やっと持ち運べる型の魔道具を見掛けたが、まだまだ大きさに難がある。
「街で小型の通信魔道具を作るのは無理かもな」
「いっそのこと、王都の職人に特注する?」
「前に貰ったお祝い品の魔道具、確かレフが懇意にしている魔道具職人が作ったって言ってたよな?」
「レフにその職人を紹介して貰えるか、聞いてみよう」
ウルリヒが満腹して離れてから、レフに伝言魔法を放った。
『魔道具職人を紹介してくれ』
暫く待つと、レフから返信が届く。
『何だよ、薮から棒に! 紹介するのは構わないが、気難しい奴だから、仕事を受けるかどうかは保障出来ないぞ』
『それでいい。頼む』
『了解』
魔力持ち同士だと、王都と街とで距離が離れていても、こうして伝言魔法で遣り取りが出来る。便利だ。隣で伝言を聞いていたステフが、食べ終わった後の包み等を片付けながら言う。
「王都に行くなら、ウルリヒをどうしよう? 連れて行くには、まだ小さ過ぎるだろう?」
「ヒューイなら王都まで一日だし、連れて行こう。討伐クエストじゃないんだ、何とかなるさ」
「ヴィルがそう言うなら」
常日頃お気楽なステフが心配を口にして、こちらが楽観的なことを言う。丸っきりいつもとは逆だ。腹に抱えた期間を含め、しっかりとウルリヒとの絆を実感している自分と比べて、まだ繋がりの希薄なステフはつい過保護に走るのかも知れない。
家に帰って出掛ける支度をし、翌朝早く街を出発した。これまで、王都へは何度も出向いているが、ウルリヒを連れて行くのは初めてだ。ウルリヒは、遠出すること自体がまだ少ない。体調を見ながら、慎重に進んで行く。
途中の休憩も、いつもより多目にとった。まだ寝ている時間が長いとはいえ、移動中に泣かれたら対処し辛い。移動中は布に包んで前抱きにするか悩んだが、籠ベッドに寝かせた上に結界をしっかり掛ければ問題無かった。
王都に着いたのは、もうとっぷり日も暮れた頃で、いつも王都で利用する従魔連れ可能な宿に直行した。例によって、ヒューイはさっさと自主的に狩りへと出掛けてしまった。
とりあえず、連絡だけ入れて、あちこち回るのは明日以降にする。宿の客室に落ち着いてから、レフに伝言魔法を放った。
『王都に着いた。明日、冒険者協会に来てくれ』
『了解。噂の赤ん坊にも会わせろよ!』
『……考えておく』
『おい、そこは「はい、喜んで」じゃないのか!?』
伝言を聞いていたステフが、隣で爆笑している。ウルリヒは、デューイやルーイと夢の中だ。流石に移動の疲れが出たのか、ベッドに倒れ込む。夜着に着替えるのも億劫だ。
「ステフ、俺もうダメ。寝る」
「ヴィルー、せめて着替えようよー」
ステフが着替えさせようと、服を脱がしに掛かる。うとうととされるがままにしていたら、何だかステフの手付きが怪しい。明らかに下心満載な触れ方をされて、眠気が吹き飛んだ。
「ステフ?」
じろりと睨め付けると、ステフが言い訳がましく言う。
「だって、最近はずっとご無沙汰じゃないか。偶にはいいだろ?」
「ステフだって、疲れてる筈だ。今日はもう休もう」
「ウルがこんなにぐっすり寝てくれるのって、なかなかないぞ! こんなチャンス、滅多にない!」
色々と言い募る間も、ステフの怪しい手付きは止まらない。結局、済し崩しでステフを受け入れた。甘いだろうか。




