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通信魔道具

ウルリヒの預け先は決まったものの、まだ解決すべき問題がある。そもそも、ウルリヒを預けなければならないような事態は、今回のようなレアケースは滅多に無いとしても、元々突発的なものが多い。


最も多いだろう瘴気溜まりの浄化依頼は、魔物の発生数が増える等の予兆がある分、予測することは出来る。しかし、王都に居て事前情報を集められる立場ではないから、依頼をされる側としてはいきなり感が強い。


いざ依頼が来て、ウルリヒを預けようとした時、何の連絡も無しに連れて行く訳にはいかないだろう。事前にランディへ連絡をとる方法が要る。


伝言魔法は、ランディにとっては受け取れはするが返信出来ない一方通行の連絡方法だ。どうにかして、双方向から連絡の取れる手段が必要だった。ふと、思いつきを口にしてみる。


「ルーイに手紙でも預けてお遣いさせようか?」

「夜の寝ている間だったら、ルーイが家に入れないよ」


ランディがそう言うので、家に入れずふよふよと建物の周りをうろうろ飛んでいるルーイを思い浮かべてしまった。いや、ルーイなら入れなくて困るより、無理矢理入って物的被害を出しそうな気がする。この案は却下しよう。


寝ている時にいきなり依頼が入る可能性は低い。ただ、今回のような緊急の救援依頼だと、その限りではないだろう。ランディの懸念も尤もな話なので、他の連絡方法を模索することにした。


今度はステフが、思いつきを話す。


「そう言えば、冒険者協会の本部と支部って、情報早いよね」

「ああ。協会の建物に据え付けた通信魔道具があるって聞いたよ。職人組合や商人同盟にも似たような物があるらしい」


ステフに返事する傍から、ランディも話にのって来た。


「その通信魔道具って、街で買えるかな?」

「さあ? 見たことないけど、あっても高いだろうね」

「魔道具職人に特注すればいいんじゃない? 魔石持ち込みなら大丈夫そう」


魔石持ち込みと聞いて、この間の報酬として貰ったばかりの魔石を思い出した。ゴブリン上位個体から剥ぎ取った、かなり大振りな物だ。これなら、通信魔道具に使えるかも知れない。


しかし、据え置き型では不便だ。持ち運べる物か、身に付ける物の方が、移動することが常の冒険者としては有難い。職人に注文するなら、その辺りも確認してみよう。


「じゃあ、明日にでも職人組合に行って、話してみるよ」

「通信魔道具かぁ、凄いな! カッコイイ」


ランディは魔道具好きなのか、何だか別な方向に感動しているらしい。そっとしておこう。わくわく顔のランディを見て、デレデレと相好を崩すフェルマーも、あまり直視したく無い。


「じゃあ、また」

「ご馳走様、ランディ。お邪魔様、フェルマー」


二人に暇を告げると、ヒューイを呼んで街まで戻った。


翌日、ステフと連れ立って、街の西側にある職人組合まで出掛けた。ウルリヒは、籠ベッドに寝かせてデューイに運んで貰う。知り合いに見咎められるのは避けたいが、置いて行く訳にもいかない。早くランディに預けられる体制を整えたいものだ。


組合の建物に入り、受付カウンターに声を掛けると、受付職員が早まってダールを呼ぼうとした。


「違う! 今日は別な用事だから」

「え、ダールさんじゃないんですか?」

「だから違うって! 魔道具職人を紹介して欲しいんだけど」


受付職員は、何だか腑に落ちない顔をする。確かに、此処へ来る時はダールからの依頼関連が多い。だからと言って、毎度毎度、用も無いのにダールを呼ばれても困る。今回の用件をはっきり伝えて、話の先を促した。


「魔道具職人ですか。それぞれ得意分野が違いますが、どのような物をお求めです?」

「通信魔道具が欲しいんだ」

「それでしたら、得意な職人が幾人か居りますよ」


こちらの要望を聞き、受付職員は職人名簿を繰って魔道具職人を何人か紹介してくれた。職人の名前と工房の場所を記したメモを貰い、ダールに捕まる前に、そそくさと組合を後にした。


「まずは、近い工房から当たってみようか」

「そうだね」


貰ったメモを見ながら、最初の工房を目指し歩き出した。

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