戦い終わって
魔力切れで倒れて動けないステフをデューイが抱き上げ、テントに運ぶ。その後ろを、ウルリヒの籠ベッドを抱えて続いた。ステフを寝かせて、デューイはテントの入口を守るように丸くなる。テントの中には、親子三人だけが残された。
枕元に籠ベッドを据えて、ウルリヒに授乳しようと抱き上げる。胸元を寛げて近付けると、空腹だったのか勢いよく吸い付いてくる。暫くして、満足したウルリヒが寝入ったところで、再び籠ベッドに寝かせた。自身も休息しようと横になる。
ステフは身動ぎもせず、よく寝ていた。その懐に潜り込むようにして、ひたりと寄り添う。そうしていると、ステフの匂いと体温に包まれ、ここが自分の居場所だと感じて安心できた。例えテントの外が魔物の闊歩する領域であろうと、それは変わりない。
寝ている筈のステフが、無意識に腕を回して抱き寄せてくる。二人でくっつき合っている体勢のまま、目を閉じて眠りについた。夜明けまでそう時間はないが、仮眠くらいは取れるだろう。
日が昇り、辺りが明るくなってくると、冒険者達も動き始める。こちらも行動開始だ。身を起こし、顔を拭い髪を手櫛で梳くなどして、ざっと身繕いする。隣のステフも、起きて同様に動き出した。
テントから顔を出すと、テント前に各パーティーのリーダー格が集まっていた。彼らの真ん中に、今回の討伐戦で得たゴブリンの魔石が詰まった麻袋がある。アベルが彼らを代表して、口を開いた。
「お疲れ様、ヴィルさん」
「お疲れ。それ、今回の収穫か? 流石に、群れ三つ分だと多いな。上位個体のもあるし、いい稼ぎになるぞ」
「ヴィルさん、これを持って依頼者に討伐証明を貰わないといけないんだ。それをヴィルさんにお願いしたいが、いいか?」
「今回の依頼は、アベル達が受けたんだろう? アベルと、他のパーティー代表とで行ってこいよ」
アベル他リーダー達は、顔を見合わせて首を横に振る。納得いかないようだ。
「でも、指揮を執ったのはヴィルさんだ。もしヴィルさんが来てくれなかったら、死人が出ていたと思う」
「俺は年の功で口出ししただけで、主体ではないさ。ほれ、行ってこいよ、リーダー!」
魔石がぎっしりの麻袋をアベルに押し付け、背中を叩いた。
「何なら、ステフを付けてヒューイに送らせようか?」
「ええっ? 翼犬に乗れるのか!?」
他のリーダー達が騒ぎ出した。翼犬の人気は凄い。ステフとアベルを除くと、乗れるのは後一人なのだが、その枠を巡って争い出した。収拾がつかず、最後は籤引きになった。当たりを引き当てた一人は、大喜びしている。
「じゃあ、行って来るよ」
「こっちは片付き次第、街に向けて出発するから、上から探して合流してくれ」
「了解」
ステフとざっくり打ち合わせして、飛び立つヒューイを見送る。残った面々は、野営の撤収作業だ。ウルリヒの籠ベッドにルーイを付き添わせて、デューイとテントを畳む。
作業の合間に、ホリーが物言いた気にこちらを見ているのに気付いた。視線はウルリヒの籠に合わさっている。そう言えば、臨月からずっと引き籠もっていて、ウルリヒの紹介もまだだった。
「ホリー、どうかした?」
「あの、ヴィルさん、その子って……?」
「この子はウルリヒ。よろしく」
「もっと詳しく!」
期せずして、ホリーの反応がランディと一緒だったのには笑えた。再びのらりくらりと躱して、詳細を暈かす。誤魔化しついでに、グスタフの容態を確認した。まだ本調子ではないが、街まで戻るには支障ないだろう。念の為、軽く治癒の魔力を流しておく。
「どうだ、グスタフ?」
「かなり楽になったよ。助かった」
グスタフは起き上がり、ぐるぐると肩を回して見せた。ホリーやネイサンも、ほっとした表情を浮かべる。他の負傷者達も、概ね回復していた。これで全員が一緒に、街まで戻れるだろう。
「皆、準備はいいか? じゃあ、出発!」
撤収作業を終えたところで、街に向けて出発した。別に号令などかける必要はないが、残ったリーダー達に請われて、渋々声を上げる。討伐チームの面々は、嬉々として着いて来た。完全に引率役にされている。一体何なんだ、どうしてこうなった。
ウルリヒを長い薄手の布で包んで横抱きにし、残った布で肩から斜め掛けにした。子供を抱いて歩くのにいいと、ステフが街の女達から聞いて来たやり方だ。するのは初めてだが、確かに歩き易い。空いた籠ベッドや畳んだテントはデューイが運ぶ。すぐ傍をルーイがふよふよと飛んで着いて来た。
討伐地域は、街から凡そ徒歩半日くらいの距離だが、怪我人が混じっているので一日かけるくらいのつもりでいいだろう。どうやらペース配分も引率役に任されているようなので、小まめに休憩を指示し、ゆっくり歩く。
ちょうど昼時に差し掛かり、折良く水場を見付けたので、長めの休憩に入る。各パーティー毎に、食事を摂ったり休んだり、思い思いに過ごしている。ウルリヒを抱いたまま座り込み、ふと気付くと日射しがちらちら翳る。空を振り仰ぎ、ヒューイが上空を旋回しつつ降りてくるのが見えた。
「お帰り」
「ただいま、ヴィル、ウル」
慌てて立ち上がり、着地したヒューイに駆け寄る。飛び降りてきたステフに、ウルリヒごと抱き留められた。
作中に出てくる抱っこ紐のようなものは、スリングをイメージして書いていますφ(.. )




