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救助活動

取り乱し縋り付くステフに、まずは落ち着くよう声を掛ける。


「どうした? 何があったか説明して、ステフ」

「グスタフが重傷なんだ。お願い、ヴィル! 治癒術をかけてやって欲しいんだ! 薬草や低級ポーションでは追いつかない……」

「ゴブリンの討伐で重傷って……ヒューイだって居たのに、何故?」

「それが……」


ステフの言うには、このゴブリン討伐依頼のパーティー構成に問題があったという。アベルが懸念し、ステフに応援を頼む程、討伐の参加者が若年層に偏っていた。


ゴブリン討伐は、元々低レベル向けの案件ではある。然程強くはない魔物で、素材も取れず旨みはないが、その繁殖力から討伐依頼は常に出される。駆け出し冒険者の受ける定番の依頼だ。


ただ、ゴブリンの群れが大きくなると、別の問題が出てくる。群れに上位個体が発生して、討伐の難易度が上がってしまうことがあるのだ。今回は、そのケースに当たったらしい。その上、群れの中に上位個体が複数いて、ヒューイが片方の対応をするうちにもう一方が討伐パーティーを襲い、被害を受けたという話だ。


「今回の討伐パーティーは経験の浅い奴ばかりで、司令塔がいなかったんだ。オレも、ヴィルみたいに全体を見てヒューイに指示するとか出来なくて、それで……」

「グスタフを連れて来るのも無理だったのか?」

「他にも負傷者がいたし、グスタフも動かすには危ない状態で……」


グスタフは、アベルのパーティーで盾役を担っている大柄で寡黙な気のいい青年だ。ステフも兄のように慕い頼りにしていた。今回の負傷も、後衛の者達を庇ってのことだろう。


「分かった。俺が行こう。ただ、ウルはどうする?」

「置いて行けない。連れて行こう!」

「連れて行くのか……危ない魔物はもういないんだな?」

「ゴブリンの殲滅だけは終わらせた」


危険の多い討伐地域にウルリヒを連れて行きたくはないが、仕方ない。取り急ぎ、拠点の撤収作業を進める。テントを畳み、竃の火を消して、道具類を片付けた。荷物を纏めてヒューイのハーネスに取り付ける。ウルリヒの籠ベッドはデューイに任せて、皆でヒューイの背に乗った。ルーイはウルリヒを守るように、籠ベッドに寄り添う。ステフの指示でヒューイが走り出した。


飛翔するヒューイに乗っている間、ステフは譫言(うわごと)のように後悔の言葉を繰り返していた。もし自分がもっと的確な指示をヒューイにしていたら、とか、もっと自分の『(シールド)』術の範囲が広かったら、とか、もっとこうしていれば、とか、……たら……ればの言葉を際限なく口にする。


「ステフ、分かったから、もう黙って」

「ヴィル……」

「ステフはよくやった。後は任せろ」

「……ううっ……」


ステフが堪え切れずに洩らした嗚咽を、背中側から抱き締めて宥める。声を押し殺してしゃくり上げるのを背中越しに感じながら、黙って受け止めた。暫くして、呼吸が落ち着いたのを見計らい、手を伸ばして頭を撫でてやる。ステフは頭を撫でる手を捕まえて、頬摺りした。


日も傾き、もう暮れかけた頃、アベル達の居るゴブリン討伐地域に着いた。ヒューイの背から飛び降りると、アベルが駆け寄って来る。


「グスタフは何処?」

「こっちだ」


薄暗い中を小走りして進み、負傷者が集められた場所へ案内された。寝かされたグスタフの両脇に、パーティーメンバーのホリーとネイサンが付き添っている。


「どんな容態なんだ?」

「目に見える傷は薬草で対処したんだけど、ずっと苦しがってて……」

「じゃあ、内臓か頭の中か、ってところだな。診てみるよ」


ホリーと場所を交代し、グスタフの側に寄って手を取る。魔力を流し、その流れを追うと、躰の中で幾つか流れの滞りが見つかった。そこが炎症の箇所だろう。魔力の流れを操作して、滞りを流すように仕向ける。完全には戻らなかったが、大凡の流れは戻せた。


「まだ完全じゃないが、危機は脱したよ。後は安静にして、回復を待つことだね」

「ありがとう、ヴィルさん!」


ホリーに礼を言われ、アベルやネイサンにも頭を下げられた。その場を辞すると、他の負傷者のところを回る。グスタフ程の重傷者は他にいなかった。ざっと診て、各々回復を促す程度に魔力を流しておく。若手の冒険者達からは、治療そのものよりも上級冒険者『翠聖』が来たことの方がインパクトが強かった。やたらと恐縮されて、居心地が悪い。


その間に、ステフが野営の準備を整えておいてくれた。デューイからウルリヒを受け取って、テントで休む。従魔達は、討伐パーティーの居る場所全体に散って魔物の警戒に当たった。ステフはテントには来ない。アベル達と不寝番をするつもりらしい。ウルリヒに授乳しながら、疲労で意識が遠退いていった。

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