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仕事再開

ウルリヒが生まれて、一ヶ月も過ぎると、分業体制のおかげもあってか徐々に生活リズムが整ってきた。躰の方も出産ダメージから回復し、そろそろ仕事の再開を考え始めた。まずはウルリヒを外に連れて行き、野外活動に慣れさせねばならない。


手始めに、裏庭へ出て外気浴をさせてみる。ウルリヒを寝かせた籠を持ったデューイと勝手口から外に出ると、厩舎で寛いでいたヒューイが、のっそり顔を覗かせた。


「ヒューイ、今度ウルリヒと出掛けたいから、よろしくな」


ヒューイは籠に鼻先を近付けてフンフンと匂いを嗅ぐ。そして、ベロンとウルリヒを舐めた。ウルリヒはギョッとしたのか、火がついたように泣き出した。デューイが宥めるように籠を揺らす。一緒にウルリヒを上掛け越しにトントンして機嫌を取った。


「あれ? ウル、泣いてるの?」


外に出ていたステフが帰って来たらしく、母屋を回り込んで裏庭にやって来た。一緒に出掛けていたルーイが、ふよふよと皆の周りを飛ぶ。


「ヒューイが挨拶代わりにウルをベロンとやったら、驚いたらしくてね」

「あははっ、そりゃあウルの大きさなら、ヒューイのベロンは恐いだろうな」

「だろ?」


ステフがウルリヒを抱き上げ、背中をトントンと叩く。ルーイもウルリヒに纏わり付いて、スリスリと頬摺りした。ステフの抱っこが良かったのか、ルーイのスリスリする感触が良かったのか、ウルリヒは泣き止んだ。ヒューイが物言いた気にこちらを見ている。


「ヒューイ、ウルもすぐ慣れるよ。気を悪くしないでくれ」


ヒューイはやれやれとでも言いたそうに、鼻をフンと鳴らした。


部屋に戻り、居間のソファで寛ぐ。ウルリヒは食事中だ。開けた胸に吸い付いている。デューイとルーイは、足元の敷物で丸くなっていた。ステフが出先でのことを話し始める。


「冒険者協会に行ってきたよ。いつもの指名依頼が入っていたから、受けてきた。後、アベル達にも会ったんだ」

「そうか。変わりない感じ?」

「相変わらずだよ。それでさ、討伐依頼の応援頼まれちゃって」

「どんな?」

「ゴブリンの巣の殲滅なんだけど、ちょっと規模が大きいらしくて、何パーティーかの合同らしいんだ。それで、念の為にオレもヒューイ連れて来て欲しいって」

「ヒューイが出るなら、アベルのところ単独で充分だろう?」

「もう、その何パーティーかで受けた後らしいんだ。今日、オレの顔見て、出られそうなら頼みたいって言われて」

「成る程」


アベル達の事情は分かった。かなり大きめの規模の討伐依頼で、人数は多いが面子が心許ないんだろう。それで、たまたま見かけたステフに応援を頼んだ。要するに、保険という訳か。翼犬のヒューイがいれば、ゴブリンの殲滅など戦力的には過剰と言える。


アベル達のパーティーは、ステフと同郷出身の者同士で、ステフよりも少し早く街に出て冒険者をしていた。ステフの村が流行病(はやりやまい)で全滅し、僅かに生き残った者達で街に辿り着いた時に、ステフをパーティーに迎え入れている。ステフにとっては、思うところがあるだろう。


「ステフが行ってやりたいなら、いいよ」

「本当? でも……」

「ステフにとっては、アベル達とは長い付き合いだしな、俺よりも」

「大事なのはヴィルだよ……後、ウルも」

「先に東の森までヒューイで送ってくれ。そっちが終わるまで、採集して待ってるから」

「ありがとう!」


ステフが勢いよく抱き付くと、ウルリヒが驚いて泣き出した。慌てて頭を撫でて宥める。一頻り泣いて落ち着くと、ウルリヒは食事を再開した。


久しぶりに冒険者装備に身を包み、ヒューイの背に乗る。ウルリヒは、籠ベッドに寝かせている。籠ベッドをデューイが抱え、ヒューイの背に乗った。ステフは最後尾だ。ヒューイは裏庭を数歩駆けて助走をつけ飛び立ち、軽々と外壁を飛び越える。


「ヒューイ、東の森までよろしくな」


分かったとでも言うように、ヒューイは翼を羽ばたいて見せる。あっという間に、いつもの拠点にしている森の閑地に着いた。ここで荷物を降ろし、ステフを見送る。


「気を付けて」

「すぐ迎えに来るよ」


ステフは軽くハグして、額に口付けていく。そして、ヒューイに飛び乗って、討伐地まで出掛けて行った。



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