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ヴィルとステフの一番長い日

連載再開します(*´∀`*)ノ


不定期更新……になりそうです(^^;)

行き倒れを拾ったら何だか知らないが懐かれて、いつの間にだか絆されて、気が付けばかけがえのない伴侶になっていた。


そして、その伴侶との間に、奇跡的に新たな命を授かった。


日に日に育つ腹の子は、愛おしい。と同時に、言い知れない不安も抱かせる。男の出産など、自分を含めて周りの誰一人として経験がない。街の女性達のように、産婆を頼むことも憚られる。


街の東門に近い外壁沿いの我が家で、静かに日々を送りながら来るべき日を待っていた。冒険者の仕事は、指名依頼など外せないもの以外は極力控えておく。ゆったりとした服越しにも分かる位、腹がせり出してきていた。


「かなり目立ってきたね、お腹」

「ああ……順調なのは有難いんだけどな」

「なるようになるさ。心配ないよ」

「……」


ステフが殊更に明るく言ってのけるが、おいそれとはこの不安を払拭出来ない。思わず、顔を引き攣らせて言葉に詰まる。そうなると、お気楽極楽を地で行くステフも、流石に冗談めかした言い草ばかりでは居られなくなったようだ。


「よし、ヴィルの為に一肌脱ごう!」

「ちょっとステフ、何するつもり?」

「なーに、ヴィルの不安解消の手助けをするだけさ」


そう言って、ステフは街中へと出掛けて行った。羽根竜のルーイがその後を追って、ふよふよと飛んで行く。


大猿のデューイに支えられながら家事を済ませ、ソファで寛いでいると、ステフが帰って来た。ルーイは飛び疲れたのか、ステフの頭の上で半分眠りかけている。


「ただいま!」

「お帰り、ステフ、ルーイ」

「街の出産経験者達に、経験談を色々と聞いて来たよ」


ステフは街の顔見知りを片っ端から聞いて回り、出産に関してのノウハウや、それからの育児についての情報収集をして来たようだ。顔が広く、気さくで物怖じしないステフならではの方法だろう。とても、自分には出来そうもない。


「八百屋のおばさんは、三日三晩陣痛が続いて大変だったってさ。反対に、肉屋の嫁さんは超安産で、半日掛からなかったんだって。人それぞれみたいだよ」


ステフの聞いて来た話を纏めると、大凡の出産の流れが見えてくる。出産の兆候が現れ、陣痛が始まる。最初は極弱く、間隔も空いているが、それが徐々に間隔が縮まり、痛みも強くなる。そして、子宮口が開き、出産に至る訳だ。何も知らずただ闇雲に不安がっている時より、格段に安心感が増した。


そしてステフは話を聞く傍ら、必要な物を買い集めていた。出産時も産後も、布地は大量に必要らしい。その他、大きめの盥や撥水性の高い敷物など、山のように抱えて来た。それらの用途を、聞かされたまま教えてくれるステフの声を聞いていると、胸に蟠る不安が少しずつ溶けていく。


改めて思う……この人が傍に居てくれて良かった。


更に日々は過ぎ、せり出した腹が重くて、日常生活にも支障をきたし始めた。まずは、仰向けに寝られない。それから、立ち上がるにも歩くにもバランスが悪く、すぐに疲れて動けなくなる。ステフやデューイの介助無しには暮らせなくなった。


そんなある日、立ち上がった拍子に何かが躰の奥から流れ出す気配を感じ、踞った。


「ステフ……何か出た」

「もしかして、始まった?」

「そう……かも……支度、お願い」


デューイに抱えられて寝室に運ばれている間に、ステフは湯を沸かし、布地や他の道具類を揃えた。まだ自覚出来る痛みもない。着替えると、案の定、出産の兆候といわれるものが服に残っていた。


「どの位掛かるか分からないから、余裕のあるうちに、食事や入浴しておいたらいいよ」

「そうだな。デューイ、頼むよ」


デューイに運んで貰い、浴室に移動する。湯に入っていると、ステフが来て髪を洗ってくれた。湯から上がって緩い服を羽織り、食事を摂る。デューイがベッドに背宛てクッションを置いて、食べ易いようにしてくれた。胃が圧迫される為か、多くは食べられない。少しずつ、数回に分けて食べる。


ふと寝室の窓から外を見ると、翼犬のヒューイと羽根竜のルーイが並んでこちらを覗き込んでいる。いつもは気楽に部屋中をふよふよ飛び回っているルーイが珍しく外にいるとは。室内の只ならぬ気配に警戒して、こちらを伺っているのだろうか。


「……あっ!」

「どうしたの?」

「何か、痛かった、かも」

「あははっ、はっきり分からないんだ?」


そんな余裕があったのも最初の内だけで、次第に痛みははっきり感じられるようになり、間隔も詰まってきた。痛みのある間は、会話もままならない程だ。そうなってくると、腹の子がどんどん下がっていくのが、感覚で分かる。


「……多分……もうすぐだ……かなり下りて来てる」

「ヴィル……」


痛みの合間に、そんな遣り取りをする。ステフは、盥に湯を張ったり、度数の高い酒で手を濯ぎ、火で炙った鋏を構えた。撥水布の上に膝立ちして、背宛てクッションに抱きつき、痛みの波に乗って力む。痛みが引くと、そのまま俯せて休んだ。その繰り返しだった。何度目かの痛みの波が来た時だ。


「ヴィル! 頭が見えた!」

「……はぁはぁ……ウグッ……」

「もう少しだ! 頭さえ出たら、後は楽だって雑貨屋のばあちゃん言ってた」


ステフに励まされて、気を失いそうな痛みに耐える。もう時間の感覚もない。ひたすら、痛みに合わせて力み、合間に息を吸い込む。


「よし、頭全部出た! 暫く楽にしてて」


ステフが背後でゴソゴソと処置している気配を感じながら、クッションに凭れた。盥の湯で綺麗にして布に包まれた子を、ステフが抱えて見せてくれる。


「男の子だよ。ほら、ママだぞ」

「え、俺がママ? 止めてくれ」

「だって、ヴィルが産んだんだよ? ママじゃん! で、オレがパパね!」

「名前でいいだろ……」

「えー」


ステフは不満そうだが、断固、ママ呼びは断る!

これから暫く、子育て編を書いていく予定です(^.^)


またヴィルとステフの甘々CPにお付き合い下さると嬉しく思います<(_ _)>

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