番外編 重大事案
番外編です(*´∀`*)ノ
『重大事案有り。至急、集合! 場所は王都冒険者協会』
上級冒険者達に飛んだ伝言魔法は、同じく上級冒険者の『白爪』サイラスの風属性魔法によるものだった。
平民出の魔力持ちは、王侯貴族達とは違い、系統立てて魔術訓練を受けることはない。大抵が、魔力量の多さから暴走しかけるなどで、必要に迫られて体得する。よって、繊細な魔力操作などとは無縁の、力押しで魔法を使う者が大半を占める。
サイラスは、身体的な不利を補うべく、自力で繊細な魔力操作を覚えた強者で、宮殿魔術師並みに多彩な魔法を扱う。この伝言魔法もその一つだった。
事の発端は、サイラスが王都の繁華街で、顔見知りの少女に行き当たったことから始まる。少年と二人連れの少女を、挨拶代わりにデートかと揶揄っていると、少女から思わぬ爆弾が落とされた。
「ヴィルさんとこのお祝いを探してるのー」
「ヴィル達に、何か目出度いことでもあるの?」
「もうすぐ子供が産まれるんだよー」
「誰の?」
「ヴィルさんとステフさんの!」
サイラスは、暫く頭の中が真っ白になった。思考停止状態から立ち直るも、未だ混乱を抜けきれないうちに、更なる追い打ちがかかる。
「ボクがヴィルさんのお腹に触ったら、中から蹴られたのー」
確定だ。あの二人のどちらか一方が、他の女を孕ませた訳ではない。正真正銘、二人の子供で、ヴィルヘルムが妊っているという。
超重大事案だ。可及的速やかに仲間達を集めて情報を共有せねば。
サイラスは、少女らに暇を告げると、即座に伝言魔法を飛ばし、集合場所に指定した冒険者協会へと足を向けた。
協会の扉を潜り、受付手前にある飲食スペースの一角に腰を下ろしたサイラスは、入口付近を眺めながら困惑しきりの頭を鎮めようと大きく息を吐き出す。齎された突拍子もない情報を、何とか消化しようと努めた。
「おう、サイラス、どうした?」
程無く現れたのは、協会近くに居を構える『黒槌』トールだった。彼なら、あの情報源の少女とも面識がある。事の真偽を確かめるのも、その対策を考えるのも容易いだろう。
「驚きの情報を手に入れてね。全員が揃ったら言うよ」
「了解」
トールは食堂の給仕を呼ぶと、エールと摘まみを頼んだ。サイラスも便乗して、エールを注文する。飲み物が運ばれてくるうちに、もう一人、待ち人がやって来た。
「しけたとこで飲んでるな。サイラス、あの伝言は何だ?」
「まあ座れよ、ライ」
新たにやって来たのは、王都最強と名高い『紅刃』ラインハルトだ。サイラスに促されて、その隣の椅子に腰を落ち着ける。摘まみを持って来た給仕に、エールを追加で頼み、改めて二人に顔を向けた。
「で、何だって?」
「全員揃ってからだとよ」
「レフもすぐ来るだろう。二度手間は避けたい」
「間怠っこしい」
追加のエールも運ばれて来て、三人のジョッキも半分程になる頃、漸く最後の一人が顔を出した。『蒼牙』のレフだ。戦いに於いてはスピードと手数を誇る彼も、プライベートではなかなか動かない横着者だ。
「遅ぇぞ、レフ!」
「一体、何だよ? サイラス」
「まあ座れよ、そして落ち着け」
「俺は慌ててないけど?」
レフがだらだらとトールの隣に収まると、周りをぐるりと睨め付けたサイラスが、重々しく口を開く。
「ヴィルが妊娠したらしい。もうすぐ産まれると聞いた」
「「「はぁ!?」」」
サイラスを除く三人が、顎が外れそうな程口を開けたまま、呆然としている。サイラスとて、先程まで同じような状態だったのだ。気持ちはよく分かる。
やがて、硬直の解けたトールが、サイラスを問い詰めた。
「冗談にしては笑えねぇ話だ。どこからの情報だ?」
「情報源は、エルだ」
「エルって、クリスの妹の?」
「ああ」
そこへ、レフが割って入った。
「誰?」
「クリスはうちのクランの新人だ。街の出身だから、妹も恐らく街でヴィルと面識があったんじゃないか?」
ラインハルトも補足しようと口を挟む。
「エルなら俺も知ってる子だ。王宮で文官付きの秘書をしてて、魔術師団で研修生も兼ねている。気立てはいい。嘘はつかんだろう」
そして、四人は顔を付き合わせて呟く。
「しかし……これ、有り得る話か?」
「だよな……いくら美人でも、男だろ? それが……妊娠だって?」
「エルがヴィルの腹に触ったら、蹴ったらしいぞ」
「うわぁ、生々しい」
「マジか」
そして、四人は深い溜め息を漏らした。
後日、四人は連名で祝いの品を用意し、これからヴィルヘルムに会いに行くという少女に託したという。
時系列は、次作「ほのぼの街暮らし──エルのお仕事ライフ──」の買い物デート後です(^.^)




