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番外編 萌芽

久しぶりの更新です(*´∀`*)ノ

暫く続いた忙しない日々も、漸く落ち着いた頃、久しぶりに採集依頼を受けた。東の森に行き、いつもの空き地に拠点を設ける。街から森に環境が変わるだけで、二人と三頭の暮らしは変わりない。


慣れた場所とはいえ、全く危険が無い訳ではないが、元々ソロで受けていた採集依頼を二人でするのだから、安心感がある。それに、ステフは最近、魔力量が増えて、魔法で(シールド)を展開することを覚えた。ルーイに魔力給餌していた影響だろうか。


森の薬草群生ポイントでステフと採集する間、従魔三頭は遊びに行ったり狩りをしたり、各々自由に過ごしている。デューイやルーイは気紛れに寄って来ては、薬草運びを手伝ってくれたりする。


そんな中、ふと躰に怠さを感じ、動きを止めた。


「ん? どうしたの、ヴィル?」

「少し怠いんだ。躰が重い」

「熱でも出たかな?」


ステフが額に触れて、体温を測っている。その手をひんやりと心地良く感じるから、平熱よりは高いかも知れない。


「微熱かな。ちょっと顔色も良くないし、テントで休んでて」

「そうさせて貰うよ」


拠点に戻ろうとすると、デューイが寄って来て、抱き上げ運んでくれた。この子も、大きくなったものだ。もう、この子の親と変わらない体格だろう。


拠点に戻ってから少し休み、夕食の支度をする。定番の野営スープだ。いつもならいい匂いと思うのに、今は胃がつかえたような感じで、食欲が湧かない。


「ヴィル、体調どう?」

「何か、胃がムカムカする」

「忙しかったし、疲れが出たんだよ。今回は早めに引き上げよう」


スープは汁だけをよそい、パンを浸して食べた。残りは全て、ステフが平らげる。せっかく作った食事が無駄にならず、有難い。


翌朝、採集した薬草をチェックし、規定量をクリアしているのを確かめると、ヒューイに乗って街に戻った。


それから、ずっと体調不良が続いている。少し動くとすぐに怠くなるし、微熱も下がらない。食欲も無く、酷い時には吐いたこともある。不調の原因が分からず、苛々した。


「何だろう、これ。自分の躰に裏切られてる気がする」

「きっと、ゆっくり休めっていう天のお知らせだよ。焦っても仕方ないさ」


こんな時、ステフのお気楽志向は有難い。どんなに苛々と八つ当たりしようと、ふんわり受け止めてくれる。きゅっと頭を抱え込まれ、背中を撫でられると、苛々した気持ちがすうっと楽になった。


この人を好きになって、本当に良かった。


体調不良で伏せている間、ステフはアベル達のパーティーと依頼を受け出掛けて行った。ヒューイを連れて行くと、討伐が捗って喜ばれる。討伐帰りに、パーティーの面々が見舞いに寄ってくれた。


「ヴィルさん、お加減いかが?」

「微熱続いてるって?」

「食欲無いっスかぁ? 大変っスねぇ」

「お大事に」


見舞いの言葉を口々に言うパーティーの面々に、愛想笑いで応える。そして、体調不良の症状を聞いたホリーが、爆弾を落とした。


「えーと、微熱が続いて、食欲無くて、怠くて、吐き気がある……まるでつわりみたい!」


それを聞いた皆はどっとウケて、冗談キツいと笑い飛ばす。ステフと二人、周りに調子を合わせて笑うが、こっそり冷や汗をかく。その可能性は、全く考えていなかった。


見舞い客が帰ると、ステフと顔を突き合わせた。


「つわり……かな?」

「どうだろう。全然、思ってもみなかった」


いくら自分に女性の部分があるといっても、禄に月のものも無いのに子を孕むなんて、あるだろうか。有り得ないことではない。


ステフが腹に耳を押し当てて、中の音を拾うが、普通に腹の鳴る音ばかりで判然としないと言う。


「暫く養生して様子見だね」


ふうっと溜め息が零れる。もし本当に、腹の中に子がいるとしても、喜びより困惑の方が強い。世間にはずっと男として通してきた。それが、いきなり子を産めば、何と思われるだろうか。鬱々と気が塞ぐ。


「成るように成るさ。気楽に行こうよ」


そう言って、ステフにすっぽりと背中から抱えられて腹を撫でられると、安心できて心地良い。塞いでいた気持ちが、ふわっと楽になった。撫でられた腹も、心なしか温かい。


「果物なら食べられそう」

「あ、食欲出た? 買って来るよ」


ほいほいと甘やかしてくれるステフに、思いっ切り我が儘放題しているうちに、やがて吐き気と食欲不振は治まってきた。


「ん? ……聞こえる! 心臓の音」

「そうか、居るんだな」


ステフが再び腹に耳を押し当てて聞くと、心臓の音が拾えたらしい。そのまま腹に頬を寄せて、ゆっくり撫でられた。ルーイもふよふよと飛んで来て、ステフと一緒にスリスリと腹に擦り寄った。


ちょうど体調が小康状態になった頃、王都の冒険者協会から指名依頼が入った。王都付近に、かなり大きな瘴気溜まりが出来つつあるという。ステフは体調を慮って、今回は依頼を断ってはどうかと口にした。


「でも、浄化は俺しか出来ないし、断れないよ」

「そうは言っても、万が一……」

「ステフも居てくれるだろう? 大丈夫さ」


そして、ステフと二人、依頼を受け王都へ旅立った。

時系列は、次作「ほのぼの街暮らし──エルのお仕事ライフ──」での、大規模合同討伐クエスト前になります(o´∀`)b

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