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番外編 萌える女達の集い

番外編です。

街起こしイベントの終わった夜、中央広場近くの食堂に、三人の女達が集まった。


「来たわね」

「待ってたわ」

「ご機嫌よう、同士」


冒険者のホリー、冒険者協会の受付職員ミリー、職人組合の受付職員ネリーだ。いずれ劣らぬヴィル推しの同士達である。


「今日のヴィルさん、一段と美しかったわねぇ」

「まさに眼福!」

「これは、永久保存版よ」


職人組合のネリーが、手許の記録用魔道具をちらつかせた。


「そ、それは!」

「フフフッ……ヴィルさんの今日のお姿をバッチリ収めた、記録用魔道具よ」

「見せて!」


三人で魔道具に映る映像を食い入るように見つめる。


「これよ、この笑顔、最高!」

「衣装も素適だわぁ」

「このびっくり顔もレアでいいわねぇ」


冒険者協会の受付職員ミリーが、瓦版『王都流行通信』を取り出す。


「それは!」

「商人同盟から手に入れた瓦版よ」

「職人組合に回って来た分は、ダールさんに盗られたわ……」


冒険者ホリーも、負けじと瓦版を出す。


「街の瓦版『我が街便り』よ」

「それが何か?」

「ヴィルさん、載ってたっけ?」

「ここよ!」


隅にある広告欄に、挿し絵が載っている。横顔の人物画で、よく見ればヴィルに似ていた。


「言われて見れば、似てる……か?」

「まあ、この挿し絵を描いた絵師は、確実に同士とみた!」

「勧誘しましょう」

「同好会活動報告に、姿絵が載せられたら、士気高揚、間違いナシ」


ネリーが、記録媒体の魔石をいくつか並べて、溜め息をつく。


「こうして記録媒体は順調に溜まっているけど、投影用魔道具と複写用魔道具が無いのが痛いわ」

「どちらも、商人同盟にはありそうね。同士を勧誘出来ないかしら」

「それなら、街起こしイベントの担当職員のビリーが、話に乗ってきそうじゃない?」

「アリね」


やがて、給仕が料理やエールを運んで来た。三人は乾杯すると、それぞれの萌えポイントを語る。まずは、ホリーが口火を切った。


「ヴィルさんって、見目麗しいだけじゃなくて、女子力高いのよね。以前、仕事でご一緒した時、手料理は頂けたし、ハーブの使い方も教わってね」

「仕事でご一緒したですって? 羨ましい!」


次に、職人組合のネリーが語る。


「ヴィルさんって、声も素適よね。よく通る、張りのある声で、つい聞き惚れちゃう。ダールさんとの掛け合いは愉快だし、ずっと聞いていたいわぁ」

「落ち着いた話し方も、ポイント高いよ」


最後は、冒険者協会のミリーだ。


「最近は伴侶のステフがべったりガードしてるけど、以前はよく一人歩きしていたじゃない? その時、見ちゃったのよね、手を出した痴漢野郎を、鮮やかな体捌きで軽く熨したところを」

「見た目は華奢なのにね、ギャップに萌える!」

「何たって、現役の上級冒険者だもんね」


女達はよく喋り、よく食べ、よく飲んだ。同好の士との語らいは、話題に事欠かない。


「本当に今日は眼福な一日だったわぁ」

「毎年、結婚式してくれたらいいのに」

「誰と?」

「……」

「け、結婚式じゃなくてもいいのよ! 皆の前で着飾ってくれたら!」

「じゃ、クリューガー・ブランドの披露会みたいな? 街で出来るのかしら」

「ヴィルさん、あんなに綺麗なのに、目立つの苦手らしいから」


その時、ちょうど店に入って来た人物が、このテーブルの女達を見掛け、声を掛ける。


「よぉ、ネリーじゃねぇか。旦那はどうした」

「ダールさん、今日はちょっと、野暮用で」

「ん? こりゃ、変わった顔ぶれだな。何の集まりだ?」

「いえ……」


言葉を濁すネリーに、ダールは黙ってテーブル上を見ると、『王都流行通信』に目がキラリと光った。空いた席に座ると、ニヤリと笑って懐の物を取り出す。


「お前さん達、こういう物を見たくはないか?」


ダールが取り出したのは、記録媒体魔石から複写した姿絵で、王都でのクリューガー・ブランド披露会のヴィルを写した物だった。


「これはっ!!」

「商人同盟の伝手から手に入れた、秘蔵の複写絵だ。伝説の、ヴィル三連撃もバッチリ収めたファン垂涎の品だぞ」

「「「見せて!」」」


女達はダールに飛び掛かり、姿絵をテーブルに広げ、食い入るように見つめた。そこには、数々の華麗な衣装に身を包んだヴィルが並んでいる。中に、連続して動きを追った絵があり、ペア衣装のヴィル達と、赤い髪のイケメンが描かれていた。ヴィルとイケメンが、派手な立ち回りを演じているシーンのようだ。


「どの衣装のヴィルさんも素適!」

「これが、噂に聞くヴィルさんの三連撃?」

「こっちのイケメンは誰? もしかしたら、三角関係!?」

「フフフッ……真相は藪の中だ」


ちゃっかり女達と同席し、怪気炎を上げるダールは、すっかりヴィル同好会の一員のような顔をしていた。

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