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街起こしイベント

街に戻ってから冒険者協会へ寄ると、商人同盟からの面会希望が入っていた。いつもの討伐や採集依頼を受け、下準備するついでに、同盟へも寄ってみることにした。


「珍しいな、同盟からアポ取りなんて」

「何の用だろうねー」


ヒューイとデューイは狩りに行ったので、ルーイだけ連れてステフと共に大通りを南へ向かう。同盟の建物に入り、受付に声を掛けた。


「こちらで面会希望と聞いて来たんだが」

「ヴィルヘルムさんですね。お待ちしていました」


職員に奥の部屋へ通された。商談用の応接室の一つらしい。今回、こちらを呼び出した、同盟の担当職員が応対した。


「わざわざご足労頂き、恐縮です。本来なら、こちらから伺うべき案件ですのに、済みません。実は、ヴィルヘルムさんに折り入ってお願いしたい事がございまして」

「何?」

「先日、王都でクリューガー・ブランドの新作披露会に出演されて、好評を博したと聞いております。その時の、トリでお召しの衣装もお持ちだとか」


そう言う担当職員の手には、王都で配られたらしい『王都流行通信』と題された瓦版が握られている。表紙を飾るのは、例のペア衣装の姿絵だ。


「ああ、あのペア衣装なら、買い取りを打診したら、依頼料に上乗せして現物支給してくれた」

「お願いです! その衣装を着て、街起こしイベントに出て頂けませんか?」


担当職員の鬼気迫る物言いに、思わず退いた。ステフがすかさず間に入り、のほほんと言う。


「何のイベント? インゲ様の衣装なら、本人に聞いてみないと使えないよねー」

「いえ、クリューガー・ブランドの披露では無く、この企画の目玉として、お二方にゲスト出演して頂くという形でお願いしたいのです」

「じゃ、あのペア衣装を着なくてもいいの?」

「それは……出来れば、あの話題の衣装でお願いしたいのですが」


要するに、インゲ女史の人気に(あやか)って、人を客寄せに使いたい訳か。商人同盟にそこまでする義理は無い。


「こちらに、何のメリットも無いな。断る」

「お待ちください!」


帰ろうとするのを、担当職員が引き止める。


「街の発展にご協力願えませんか」

「この街を拠点にはしているが、冒険者に帰属意識は無いよ。土地に根ざす農民や商人とは違う。それに、はっきり言って、俺は衆目に晒されるのは苦手だ」


きっぱり断りを入れて、席を立つ。担当職員は、尚も食い下がって来た。


「そこを何とか」

「こちらに苦手を押しても参加する理由や、対価を示せないなら、そもそも交渉の余地は無い」

「依頼料なら、ご希望の額をお支払いします」

「話にならない」


オロオロする職員を尻目に、取り付く島も与えず部屋を出る。ステフは何も言わずに、後からついて来た。ルーイがステフの肩からこちらに寄って来て、宥めるように頬ずりする。


商人同盟の建物を出て、中央広場に向かう。気持ちがささくれ立つのを止められない。ステフが背を撫でて、ベンチに座るよう促した。


「ここで待ってて」


暫く待つと、ステフは飲み物と軽食を抱えて戻って来た。


「モヤモヤする時は、飲み食いして発散するに限るよ」

「ステフらしいな」


飲み物を受け取り、口を付ける。ステフが隣に座り、一緒に軽食を摘まむ。人心地つくと、ステフが聞いた。


「何で、あんなに怒ってたの?」

「人を客寄せにするからさ」

「綺麗なヴィルが話題の衣装着ていたら、みんな見たがるよ」

「そもそも、俺は目立つの嫌いなんだ。この間の披露会も、死ぬ程怖かった。神殿への牽制に役立つ後ろ盾ってメリットがあったから受けたけど」


俯いてモヤモヤを吐き出すように溜め息をつくと、ステフの腕が肩を抱き寄せ、ルーイが膝で丸くなる。ステフに寄り掛かり、膝のルーイを撫でていると、少し落ち着いてきた。


「あのペア衣装、素敵だよね。ホリーとかダールさんとか、協会の受付のお姉さんとかも見たがるだろうな」

「内輪だけだったら、まだいいよ」

「そういう内輪の人に見せるついでに、他の人が見るのもありなんじゃないかなー」

「ステフは、さっきのイベントの依頼、受けたいのか?」


やっと落ち着き、上向いてきた気分が、再び翳る。


「オレはヴィルの味方だよ。嫌がる事は薦めない」

「じゃあ、何でそんな事言うんだ?」

「今のオレは、ヴィルが目立つの嫌いなの知ってるから、出来る限り視線は遮るし、絡んでくる奴も遠ざける」


ステフがさりげなくフォローしてくれているのは、分かっている。いつも、ありがたい気持ちでいた。


「でも、ヴィルと知り合う前は、ちょっと目に入るだけでも嬉しかったのを覚えてるから、ヴィルを見たい人の気持ちも分かるんだ」

「……」

「帰ろっか」

「ああ」


隣に居るのがステフで、本当に良かった。手を繋ぎ、寄り添って歩く。家に帰り着く頃には、ささくれ立った気持ちはすっかり消えていた。

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