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寄り道クエスト

披露会が終わり、出演者達や裏方達が引き上げる中、ステフと二人でいると『紅刃』に呼び止められた。


「ヴィル、ステフ、打ち上げに行こうぜ」

「ああ」

「何処行くの?」

「彼奴らが場所を確保するって聞いてるが」


『紅刃』の視線の先に、レフとサイラスが居る。披露会を見に来てくれたらしい彼らと合流して、店に向かう。レフが馴染みの食堂で、個室を予約したという話だ。


「ここの店主が、俺と同郷出身でさ」

「酒飲みの客が多そうだな」


店に入り、個室に案内される。中では、トールともう一人の人物が待っていた。


「あれ? あんたは、確か」

「また会ったな、ヴィルヘルム、ステファン」

「ニールさん、トールと知り合いだったの?」

「昔、よく現場で顔を合わせたよ」


そこに居たのは、ウオーキングトレーナーのニールだった。トールによれば、ニールは現役時代、王都軍で体術の教官を務めた程の猛者で、軍との合同討伐などで、よく一緒になったという。


「退役してから、インゲ様に訓練教官を頼まれたのでね」

「軍隊式の訓練だったのか。厳しい訳だ」


話しているうちに、料理や酒が運ばれて来た。レフが予約した時に、予め頼んでいたらしい。皆にグラスが行き渡り、乾杯した。アルコールの回る前に、向かい側に座る『紅刃』に、疑問をぶつけた。


「おい、『紅刃』、披露会の最後のあれは何だ? 聞いてなかったぞ」

「あれは、俺もいきなり婆さんから衣装渡されて、出るように言われたんだ。これみたいにしろってな」


そう言って、最近王都で流行りだという舞台のチラシを見せた。その舞台は、男女の三角関係がテーマで、ラストシーンで結婚式場からヒロインを略奪するヒーローがウケているらしい。成る程、あれはインゲ女史の趣向だった訳か。


「何にせよ、打ち合わせも無く突然、演出を変えるのは困るな」

「全くだ」


そんな愚痴を聞きつつエールを飲みながら、気楽な調子でサイラスが言う。


「そういえば、ヴィルのところの子猿、元気?」

「大きくなったよ。呼ぶ?」

「え、呼んだら来るの?」

「すぐだよ」


個室の窓を開けて、外に向かって呼ぶ。


「デューイ、ルーイ、おいで」


暫く待つと、空からデューイを連れてルーイが降りて来た。窓からストンと部屋に入る。


「え、そんなに大きな声じゃなかったのに、聞こえたのか? それに、何処から来たんだ?」

「耳がいいからね。宿に居たけど、ルーイは飛べるから、すぐ来れる」


デューイを撫でながら、サイラスに説明する。隣で、ルーイに擦り寄ってじゃれつかれていたステフも、説明に加わる。


「デューイ、大きくなったね。それに、また従魔が増えてる?」

「この子はルーイ。羽根竜(フェザードラゴン)だよ。卵から孵して育てたんだ。ステフを親と思ってるよ」

「刷り込みでの親認定はオレだけど、雛の時に魔力給餌したのはヴィルだよ。だから、ルーイはオレ達の子だね」


この数カ月で、デューイは大猿とは言えないまでも、中猿位には大きくなった。ルーイも、毛玉体型から、竜らしい姿になり、小さいながらも空を飛べる。まだ人を乗せるまではいかないが、デューイを運べる位には力もついた。


「え、魔力給餌? 竜の雛は魔力を食うのか」

「そうだったよ。オオトリは違うのか?」

「オオトリの雛は、普通に穀類や野菜と肉だったな」


オオトリを卵から孵して育てたレフと、雛の育て方の違いを話す。やはり、鳥と竜では、違いが大きいようだ。


「従魔が三頭か。ヴィルヘルムは益々テイマー染みてきたな」

「そうだな」

「いっそのこと、看板を替えるか? 『聖女』じゃなくテイマーのヴィルってな」

「どっちも、俺が名乗ったことはないぞ」


トールと軽口を叩いていると、ニールが興味を持ったらしく、尋ねてきた。


「他にも従魔がいるのか?」

「うちの騎獣は、翼犬のヒューイだよ」

「翼犬が騎獣に? それは凄いな。一度、(じか)に見てみたいものだな」

「それなら、一緒に狩りにでも行く?」

「是非!」


すると、他の面々も乗り気で、あっという間にこの面子での臨時パーティーが結成となった。


翌朝、王都の南門前に、ニール達が集まった。そのまま門を出て、外側でヒューイを呼ぶ。さほど間を置かずに現れたヒューイを見て、ニールは息を飲んだ。


「翼犬がこのように人に懐くとは……」

「俺も、最初に見た時は、目を疑ったがな」


トールが笑って、ニールの呟きに答えた。


皆、各々の騎獣に乗り、走り出す。騎獣を持たないニールは、トールの黒狼に同乗した。ヒューイは僅かの助走で高く飛翔する。王都付近の魔物は、ほとんど間引かれていて見当たらない。少し離れた所で、やっと鹿の魔物を見つけた。小さな群れで、この面子では過剰戦力だろう。


「この先、鹿の魔物が少し居るけど、どうする?」

「皆、自分が狩るより、デューイとルーイの実力が知りたいだけだろう。頼むよ」


トールにそう促され、デューイとルーイに指示を出す。


「デューイ、ルーイ、行っておいで」


ルーイはデューイをぶら下げて飛び立つ。鹿の群れに近付き、デューイを降ろすと、ルーイは群れに向かって鳴き声を上げた。ルーイの鳴き声には麻痺系の超音波が混じっていて、鹿達は軒並み動きを止める。そこへ、デューイが飛び込んで行き、爪を振るう。あっという間に、鹿が群れごと狩られた。


「まぁ、こんな感じかな」

「お見事!」


ステフとヒューイの背から降りて、いつものように手分けし、魔石を回収する。その後、鹿の一頭を捌いて、残りはヒューイ達のおやつになった。その場で火を熾し、捌いた鹿肉を串焼きにして、皆に振る舞った。

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