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内と外の区別

ヒューイに乗って、街の南に広がる平原を目指す。今回受けた討伐依頼は、平原に大量発生した牛の魔物を間引くことだ。とりあえず、群れを一つ片付ければいいだろう。ヒューイなら造作もない。


平原を飛翔し、魔物牛の群れを探す。程無く、中規模の群れを見つけて、地上に降りた。やる気の漲るヒューイに、いつもの念押しをしておく。


「ヒューイ、まずは頭だけね。頼んだよ!」


ヒューイは一声、威嚇に吠えると、群れに突進した。あれよあれよと言う間に、魔物牛の首無しが山盛りに出来上がる。ヒューイが傍で伏せてゆっくり咀嚼している間に、背から降りて二人掛かりで魔石の回収する。


魔物牛は一頭が大きく、素材を取る分は一頭で充分だろう。残りはヒューイが平らげ、デューイとルーイもしっかりお零れを貰う。デューイが器用に魔物肉をほぐして、ルーイに与えていた。


魔物牛の解体作業は骨が折れるので、二人掛かりでやる。相変わらず、一撃で仕留めている為、取れる皮の質が良い。肉は部位別に分けて包み、さらに袋詰めにして、ヒューイの荷物スペースに詰め込んだ。


討伐がサクッと完了したので、次の採集依頼の為に東の森へ移動する。いつもの拠点に着くと、もう午後の遅い時間になったので、野営準備をした。


ソロで居た頃はがらんとしていた場所も、パーティーで来るとこぢんまりして、まるで雰囲気が違う。以前、アベル達と臨時パーティーで来た時とも、何処か違って見えた。


いつものように火を熾し、スープを作る。狩った牛の魔物肉を串に刺して焼き、ハーブ塩を振る。夕食が終わると、ルーイがステフに擦り寄って来た。ステフを先にテントへ入るよう促し、焚き火周りを手早く片付ける。


テントに入ると、ルーイに魔力給餌しているステフが、魔力切れギリギリ状態で待っていた。


「ステフ、お待たせ」

「ヴィル、早くー」


ステフをルーイごと抱いて、口吻して魔力譲渡する。この一週間程で、ステフもかなり魔力耐性が上がったようだ。最初は意識朦朧としていたのが、今では会話出来る位、耐えられている。


やがて、満足したルーイが離れて、傍で丸くなって眠った。こちらもステフを離して隣に横になろうとしたが、ステフが離さない。口も離れないのを、無理矢理引き剥がして文句を言った。


「ステフ、ここ、外だよ?」

「ヴィル、もっと欲しい」

「ダメ」

「お願い、ヴィル」

「……いくら何でも、外はダメ! 内と外の区別は大事だ」


ステフはかなり粘ったが、今回ばかりは、外でなんてとんでもない! というこちらの抵抗が勝った。テントの端に、ステフへ背を向けて横たわる。


「おやすみ、ステフ」


そのまま、安らかな眠りに入る……のは、無理だった。まだ諦めていなかったステフに、背中からがっちりと抱きしめられる。


「ここ、テントの()だよね?」

「テントは野外(・・)だよ!」

「ちゃんと内側(・・)だろう? いいよね? ヴィル」


屁理屈だ! という叫びは、ステフの唇に飲み込まれる。結局、無駄な抵抗で終わってしまった。押しに弱いのは、相手がステフの時限定と思いたい。


翌朝、まともに起きられなかった。いつもと違うシチュエーションに盛り上がったステフに無体なことをされて、腰が立たず躰が言うことを聞かない。すぐ傍に、こちらに向かって土下座するステフが見えた。


「ステフ」

「ハイ。ゴメンナサイ。調子に乗り過ぎました。反省してます」


ステフは、見よう見真似で薬草を煎じて、持って来た。飲んでみると、体力回復の煎じ薬がちゃんと出来ている。以前の合同クエストで、一緒に採集した時に教えたのを覚えていたようだ。


「ヴィルはゆっくりしてて」

「……うん」


ヒューイは、マイペースに過ごしている。ステフは、携帯食を囓って朝食を済ませて、一人で採集に行った。テントで休みながら、様子を見に来るデューイやルーイを撫でて、もふもふに癒された。


昼近くになって、やっと躰が動かせるようになった。昼食の支度をしていると、ステフが戻って来る。採集した薬草類を見てみると、量は少ないものの種類は合っている。後、何種類か足りない薬草を採集すれば、依頼分は達成出来そうだ。


「ちゃんと覚えてたんだ」

「またヴィルと一緒に仕事したかったからね」

「まだ本調子じゃないけど、午後からは採集に出るよ」


スライスしたパンに炙ったチーズを乗せて、昼食にする。もう一度、体力回復の煎じ薬を飲んで、午後から一緒に採集へ出た。以前は秘匿した薬草群生地を、ステフには教えておく。二人掛かりで採集したら、すぐ依頼分はクリア出来た。


「やっぱり、クエストはソロよりパーティーの方が良いね」


ヒューイの背に揺られて街まで帰る間、ステフの背中に寄り添って呟いた。

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