毛玉の正体
毛玉はその後も数時間おきに腹を空かせて、ステフの鳩尾に貼り付いた。その度にステフへの魔力譲渡をすることになり、二人共に疲弊して倒れる。倒れて眠り、少し回復すると、また毛玉が貼り付く。エンドレス。
せめて、ステフを経由しなければ、消耗するのが一人で済んだのに、と思わないでもないが、仕方ない。孵化して最初に抱き上げたステフが、所謂刷り込みによって毛玉の認識した親なのだろう。
「これ、何時まで続くんだろう……」
「……眠たい」
この、魔の自転車操業のような魔力給餌は、いったい何ヶ月間続くのかと危ぶまれた。蓋を開けて見れば、三日程でピークを過ぎて徐々に回数も減り、一週間もすれば普通の餌も食べるようになった。魔力給餌は夜だけになり、漸く生活ペースが通常に戻った。
「助かった」
「でも、二人の共同作業って感じで、イイね」
「……ステフ」
またホリー辺りに何か吹き込まれたのか、可笑しなことを言い出す。ステフのお気楽思考は、どんなに疲弊しても健在だった。
「そういえば、この毛玉、いったい何の魔物かな?」
「鳥っぽいけれど、親が卵抱いてなかったし、竜にしても、鱗はないし、この毛玉体型……」
幸いヒューイやデューイが新入りの世話を焼いてくれるので、昼間はほぼ任せ切りにできた。その間に、冒険者協会へ足を運ぶ。協会で閲覧可能な魔物についての文献で、毛玉の正体を調べる為だ。
卵から孵ってすぐは、毛玉に嘴といった風体だった。嘴に見えたが、よく見れば鋭い歯がある。鳥ではなさそうだが、竜のような鱗はない。
毛玉の外見を思い浮かべながら文献を調べるうちに、鳥と竜の特徴を備えた魔物がいると分かった。羽根竜という魔物が、毛玉の特徴と一番近い。
「毛玉は羽根竜かもな」
「カッコイイね! なのに、毛玉呼びじゃ、ちょっと哀れ……ヴィル、名前付けてよ」
「また俺? 毛玉はステフを親だと思ってるんだから、ステフが付けろよ」
「ヴィル、お願い!」
「えー……じゃ……ルーイ」
「……」
「俺にネーミングセンスを求めるな!」
何だかんだで、従魔が三頭に増えた。これは、もう、テイマーを名乗ってもいいのかも知れない。最も、即戦力はヒューイだけだが。まあ、翼犬一頭でも過剰戦力だろう。
せっかく協会に来たのだから、と依頼ボードをチェックしておく。また近々、王都行きの約束がある為、長丁場になりそうな依頼は無理だが、単発のものなら受けられるだろう。ステフと相談しながら、討伐依頼や採集依頼を見繕う。めぼしい依頼票を持って受付に声を掛けた。
「これ受けたいんだけど」
「あ、ヴィルさん、お久しぶりです。ダールさんから問い合わせが来ているのですが、指名依頼、受けられますか?」
「また王都行きが控えてるんだ。種類と量次第だな。組合に直接聞いてくるよ」
協会を出て、中央広場を抜け職人組合へ向かう。神殿の陰謀対策で単独行動を避ける為に、ステフと一緒だ。組合で受付に声を掛け、出て来たダールにそれを喜ばれてしまった。
「昼間っから見せ付けてくれるじゃねーか、お二人さん!」
「神殿対策だよ。知ってるだろう」
「いやいや、若いってイイねー。お熱いのー」
「……わざとか」
話が進まない。苛ついて眉間に寄る皺を揉みほぐしていると、ステフにポンと背中を叩かれた。チラリと隣を窺うと、任せて、というように軽く頷き、背を撫でる。
「ダールさん、羨ましい?」
「おお! 肖りたいのう」
「残念だったねー、ヴィルはオレのだから!」
ダールあしらいをステフに頼み、合間に仕事の内容を聞き出す。どうやら、いつもの東の森で済みそうな内容だったので、受けることにした。ついでに、マジックポーションを直接買えないか尋ね、融通して貰う。ダールは性格に難ありだが、製薬の腕だけは確かだった。ダールのポーションなら、王都の品と遜色ない。
協会に戻って、ダールの指名依頼を受けてから、買い出しに行く。以前なら、迷わず手分けして済ますことだったが、単独行動が出来ない今は、効率が悪い。それをぼやくと、ステフは事も無さげに言う。
「オレは構わないけど?」
「だって、時間食ってばかりで、効率悪いじゃないか」
「たいして違わないよ。一緒に居られる方が嬉しいや」
ヘラリと笑うステフに毒気を抜かれ、呆けた顔をしてしまった。こういう泰然としたところは、敵わないなと思う。サイラス辺りに、また「どっちが年上だ」とか言われそうだ。
野営準備を整えると、東門を出てヒューイを呼ぶ。ヒューイには、デューイと毛玉改めルーイが漏れなく付いてくる。ヒューイにハーネスを付け、手綱や荷物を装備してから、その背に乗る。二人と三頭の新生パーティーで、出発した。
雉じゃなかったですね(゜◇゜)
従魔の名前は、某夢の国にいる某鵞鳥の甥っ子三つ子から頂きました(o´∀`)b




