番外編 男達の熱く語り合う夜
第三者視点の番外編です。
部屋割りの関係でヴィルと離されたステフは、早々に寝てしまうつもりでいた。ところが、同部屋になったレフが、あれこれ話し掛けてくる。
「なあ、ステフ、どうやってヴィルと付き合えたんだ? 馴れ初め聞かせろよ!」
「えー、ノーコメントで」
「何でだよ、少し位いいだろう?」
「ダメ。ヴィルにばれたら大変だし」
暫くステフとレフとで押し問答が続いていたが、もう一人の同部屋であるラインハルトが口を挟んできた。
「一方的に話すのが嫌なら、取引しようぜ。ステフの為になる話を聞かせてやろう。その話を聞いて、価値を認めたらステフもヴィルの話を小出しする。どうだ?」
「為になる話?」
「男としては、いかに相手が年上とは言え、翻弄されるばかりでは情けないだろう? 経験不足を補う、為になる話さ」
なまじ経験不足を自覚しているだけに、ステフはラインハルトの言葉を無視出来ず、悪魔の囁きに耳を貸してしまった。それに、ステフにも惚気話を披露して、魅力的な交際相手を自慢したい気持ちが少なからずあった。
「じゃあ、まず話を聞こうか。オレからヴィルのこと聞き出せる話だといいな」
「言ったな! まずは俺から始めようか」
取引を持ちかけたラインハルトから、話を切り出す。話題は、主に閨の作法についてだ。ステフ達を男性同士の付き合いと思っている為、話もそちら方向に傾く。ヴィルの性別を秘匿したいステフは、黙って聞いていた。
「……うわぁ……そんなことまで……」
「為になったか?」
「ううっ……」
確かに、未知な分野の貴重な情報ではある。これに見合う対価としては、馴れ初め話で済むだろうか。
「オレはヴィルに拾われたんだ。討伐を失敗して敗走している時、力尽きて行き倒れたオレを、ヴィルが助けてくれた」
「この間の子猿みたいにか?」
「そうだな。オレもヒューイもデューイも、皆死にかけてヴィルに拾われた仲間かもね」
「それでか。俺の魔眼で視ると、ヴィルとステフは魔力の質がほとんど同じだ。最も、魔力量は大違いだがな」
「離れててもヴィルの居場所が何となく分かるのも、そのせいかな」
「さあな。ただ、この間の子猿の時、ステフの手から糸みたいな細い光が延びてるのが視えたな」
自分に魔力など無いと思っていたステフは、思わぬ情報を齎されて、喜びに包まれた。少しでもあるなら、魔力操作を覚えて使いものになるかも知れない。この情報の対価は、かなり弾まないといけないだろう。
「オレもヴィルも、初めて同士でさ、大変だった」
「はぁ!? ステフはともかく、ヴィルがか?」
「セクハラされ過ぎてて、触られるのが気持ち悪いって言ってたな。だから、触りたい相手もいなかったって」
「そりゃ重傷だ。それで、ステフなら大丈夫だったと」
「そうみたいだね」
ちょっと得意気に言ったステフに、レフが突っ込みを入れる。
「何を生意気な! 初心者のくせに」
「スミマセン、先輩!」
「よしよし、素直な後輩には、イイコト教えて進ぜよう」
今度はレフが、花街で仕入れた玄人の手練手管を披露した。レフは高給取りだが決まった相手がおらず、花街で発散するタイプなので、この手の話題には事欠かない。ステフは目を点にして、言葉も無く聞き入った。
「……うわぁ……そんな……」
「初心者には刺激が強かったか?」
「ガンバリマス」
「精進しろよ!」
これまた貴重な情報を得て、ステフは対価に困る。レフの聞きたがった馴れ初め話は話してしまったし、後は何かあるだろうか。
「それでさ、どっちから告ったんだ?」
「オレ」
「おぉー、見かけによらず豪気だな、ステフは」
「そりゃ、相手は街でも有名な高嶺の花だったけどさ、偶然にも死にかけを拾われて、知り合えた千載一遇のチャンスだよ、必死にもなるさ」
「すんなり付き合えた訳じゃないのか」
「もう全然! 脈無しだったけど、とにかく押して押しまくって、アピール続けて、やっと付き合い始めたんだ」
「ステフの粘り勝ちか」
そして、調子に乗ったステフは、余計な事まで喋り続け、ラインハルトやレフはほくそ笑み合いの手を入れる。
「ヴィルが高嶺の花だったって?」
「だって、あんな美人がソロで冒険者やってるんだよ? 協会でも目立ってたし、声掛けて素気なくされてる奴なんか、山程いたし」
「じゃ、知り合う前から、ステフはヴィルのこと知ってたんだな」
「顔は知ってたけどね。綺麗だなって憧れてた。そしたら、助けられて目が覚めたら、目の前にあの綺麗な顔があるんだよ? 思わず舞い上がっちゃうよね!」
「ほほう、それで?」
「介抱してくれて、メシ作ってくれて、それからテントで一緒に寝たんだ。傍に居ると、何だかいい匂いするし、つい抱きついちゃって、そしたら柔らかくて……」
「その話、もっと詳しく!」
その後も、男達の熱き語り合いは続き、夜は更けていった。




