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断罪とその後

ラウンジに戻ると、皆はこちらの中座する前と同じ位置に掛けている。今さら酒でもないと、使用人に出された茶を飲む者が大半だったが、『紅刃』は気にする風もなく酒を呷っていた。自分も元居た一人掛けソファに戻ろうとして、トールに手招きされた。


「ヴィルヘルム、こっちに座れ。そこじゃステファンやデューイが座れない」


トールが掛けていた三人掛けソファに座り、トールは一人掛けに移る。ステフと並んでソファに腰を降ろすと、ステフの肩に居たデューイがこちらの膝に降りて来て、ウエストポーチのように腹にしがみつく。デューイの頭を撫でて落ち着かせ、こちらも癒しを貰った。


「では、始めよう」


辺境伯の声に、皆が一斉に視線を向ける。まず最初にと、こちらに詫びる辺境伯に促されて、先程の騒動の顛末を語った。


「中座して廊下を歩いていたら、いきなり途中の部屋へ連れ込まれて、揉み合いになった。俺が助けを呼んで、ステフがヒューイと駆け付けたんだ」

「ステフというのは、隣に居る少年か?」

「そうだ。少年って言うが、ちゃんと成人している。立派な中級冒険者だ」


辺境伯から目を向けられて、ステフは肩を竦める。大丈夫、と背中を撫でて微笑みかけると、ステフは照れたような笑みを浮かべてこちらに頷き、背筋を伸ばして辺境伯に向き直った。


辺境伯は、こちらのステフとの関係も問いたそうにしていたが、今回の件には関わりないので、言うつもりはない。サイラスは訳知り顔で頷いている。トールやレフは、完全に傍観の構えだ。


「ヒューイとは?」

「俺の騎獣で、翼犬だ」

「翼犬とは……恐れいる」


騎獣持ちの冒険者は多々いるが、翼犬を騎獣にしている冒険者は今までいなかった。辺境伯は息を飲んで、こちらを見る。先程目にした、部屋の窓を粉砕したヒューイの力は、辺境伯にも脅威だろう。そう言えば、ヒューイが壊した窓は、弁償しないといけないだろうか。


「で、助けを呼んでと言うが、彼らはどこから駆け付けたと?」

「前線拠点での子息の振る舞いから、危機感を持っていた。保険のつもりで、ステフにヒューイと屋敷近くに待機していて貰ったんだ。あくまで保険で、使わなければその方が良かったんだがね」

「成る程、さすがは冒険者の危機管理能力、という処だな」


辺境伯は、一つ一つ噛み締めるように聞いたことを飲み込んでいる。色々、思うところもあるだろうが、こちらの知ったことではない。それはそうと、気になることを確認する。


「ウチの騎獣が破壊した窓の弁償は必要か?」

「いや、こちらの落ち度だ。気にすることはない」

「では、子息の処遇を聞きたいが」

「前々から、あれの振る舞いには問題があった。儂もランベルトも、手を焼いておったところだ」

「それで、今後は?」


こちらの問いに、辺境伯は口を噤む。有用な策があれば、とうに実行していただろう。逡巡する辺境伯に代わって、返答は長男が引き継いだ。


「あれには再教育が必要だ。辺境伯軍の新兵教練でも受けさせるか」

「あまり向いてなさそうだが」

「性根を叩き直すには、ちょうど良い」


吐き捨てるように言う長男に、辺境伯は言葉もなく俯く。冒険者の中には、軍人崩れも多く、新兵教練の噂は耳にしたことがある。かなり厳しいらしい。徹底的に鍛え上げて地力をつけ、その後に適性で各部署に振り分けるという話だ。とても甘やかされた貴族のボンボンに耐えられるものとは思えない。


その時、今まで黙って聞いていた『紅刃』が、呷っていた酒をテーブルに置いて口を挟んだ。


「向き不向きで言えば、ヤツに打って付けの修行先があるんだが、どうだ?」

「……と言うと、心当たりがあるのだな?」

「あるにはあるが、厳しいぞ?」


『紅刃』の言葉に、トールは心当たりがあるのか、顎に手をやり頷きながら見ている。レフとサイラスは顔を見合わせ、首を捻った。こちらも首を捻る側だ。ステフはデューイを撫でて和んでいる。『紅刃』にも伯爵三男(バカ息子)にも全く興味がないらしい。


「まず、貴族階級のすることではないし、当然、周りは全て平民だ。その中で、最下位の弟子から始めなければならない。歳も歳だし」

「それでも、軍の新兵教練より向いていると?」

「恐らく」


『紅刃』はニヤリと笑い、長男に頷く。長男は辺境伯と顔を見合わせると、『紅刃』に向き直り、言った。


「詳しく話を聞かせてくれ」

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