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浄化クエスト参加

ステフはヒューイにハーネスを付け、手綱や荷物を装着している。ヒューイは賢く、口頭の指示で動くので、手綱には乗る時の手摺りのような意味合いしかない。ステフがヒューイの首をわしゃわしゃ撫でるところに近付くと、ヒューイはこちらに気が付いて身を伏せた。


ヒューイを見上げた『紅刃』は、信じられないという風に(まばた)きすると、呆れたように言った。


「聞いてはいたが、やっぱデカいな。よく翼犬なんてテイム出来たもんだ」

「狩った訳じゃないよ。拾ったんだ」

「意味が分からん。こんなのがその辺に落ちててたまるか」


ヒューイを撫でながら、『紅刃』とセスをその場に止めて、相性を見る。まずセスを呼んで、頭を撫でながら、そろそろとヒューイに近付け、声を掛ける。


「ヒューイ、セスだよ」


ヒューイは変化が無かったが、セスは耳を倒し尻尾を下げている。怯えているようだ。頭を撫で続けて、ようやく落ち着いてきた。次に『紅刃』の手を取り、ヒューイに近付ける。その刹那、手に魔力操作特訓の時のような熱と痛みをピリリと感じて、ほんの少し眉根が寄った。


「ヒューイ、『紅刃』だよ」

「だから、二つ名呼びは止せって言ってるだろ『翠聖』」


こちらのムッとした感情が伝わったのか、ヒューイは歯を剥き出して低く唸った。さすがの『紅刃』もギョッとして身構える。慌てて、ヒューイを宥める。首をモフモフと撫でながら、声を掛けた。


「大丈夫だよ、ヒューイ」


ヒューイとの相性を見ているつもりだったが、ヒューイの反応はこちらの内心を如実に表しているようだ。思えば、アベル達のパーティーメンバーと引き合わせた時もそうだ。他のメンバーと比べて、ネイサンの軽薄な態度に少し不快感を持った。それが伝わって、ヒューイの態度が他のメンバーの時より、やや芳しくなかったのだろう。


今回も、『紅刃』に対する怖れや苦手意識が伝わった上での、ヒューイの威嚇行動と思われる。ならば、自分の心持ち一つで変えることが出来そうだ。全力でヒューイを宥めにかかる。


「ヒューイ、落ち着いて。顔も怖いし態度も悪いけど、敵じゃないよ」

「おい、どさくさ紛れにディスるな」

「ヒューイ、いい子いい子」


ステフと二人がかりで撫で回し、ヒューイを宥めて落ち着かせた。ヒューイが落ち着くと、知らず詰めていた息が漏れて、その場にいる三人同時に溜め息をついた。


「じゃあ、王都へはセスが先行してくれ」

「おぅ。追い越して行くなよ」

「了解」


ステフが先にヒューイの背に乗って、手を差し伸べる。その手に掴まり引き上げられると、ステフの後ろに収まった。『紅刃』がセスに乗って出発し、ヒューイが追走する。かなりのハイペースで王都への道程を走った。時々、練習も兼ねてヒューイを飛翔させる。上空からの眺めも、風を切る感触も心地良い。休憩の時に、『紅刃』が愚痴を溢した。


「そうやって、ちょいちょい飛ばれると、地べた走り回るこっちが馬鹿みてぇだよな」

「セスは速いし、走りも滑らかで綺麗だよ」

「翼犬とは比べもんにならねぇ」

「ヒューイは別」


王都まであと少しというところで、日が暮れ始めた。無理はせず、野営して明日の朝王都入りすることになった。街道沿いの野営スペースに陣取り、火を熾す。ステフと分担してスープやパンを用意し、夕食にする。『紅刃』も携帯食で済ます派だったらしく、こちらを唖然として見ていたが、振る舞う料理は遠慮無く食べていた。


その野営スペースには他にも数組の旅人がいたが、皆一様にこちらを見て固まっている。騎獣連れも珍しいが、それにも増して翼犬はまず見ない。だが、旅人達の間で、『紅刃』の顔が売れているらしく、高名な上級冒険者なら翼犬連れでもおかしくないと思われているのか、ひそひそと噂する様子はあるが、パニックにはならなかった。『紅刃』もたまには役に立つ。


翌朝、さっと身仕度して朝食を済ますと、出発した。昨日と同じく、セスが先行しヒューイが追走する。特にトラブルも無く、午前中に王都へ辿り着いた。王都外壁の門番にヒューイを見咎められたが、同行者が『紅刃』と分かるとすんなり通してくれた。その足で冒険者協会へ向かい、浄化クエストの責任者である協会本部長に面会を申し入れる。窓口職員にすぐさま奥の応接室に案内された。応接室には、協会本部長をはじめ、名だたる冒険者達が既に揃っていた。


「よく来てくれた、『翠聖』のヴィル」

「……この二つ名、何とかなりませんか?」

「気に入らんか」

「はあ……何と言うか……何とも言えないというか……」

「慣れろ」


本部長にあっさり見捨てられ、浄化クエストの段取りに話が移る。今回は、西の辺境伯からの依頼で、協会が応援を出す形になるらしい。移動は協会側が持ち、現地での差配は辺境伯側が執る。準備が整い次第、順次出発するという。本部長にステフの参加を伝えると、了承された。


「よう、ヴィル、ステフ、また会ったな!」

「サイラス、久しぶり」

「他の連中にも、ステフを紹介してやるよ」


サイラスを介して、ステフはレフやトールとも面識を持った。移動は、騎獣持ちのこの六人で行くことになった。

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