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再び王都へ

「俺だ。ここ開けろ」

「はぁ?誰だよ」

「いいから開けろ。急ぎの用だ」


ステフは戸惑って、こちらを見る。覚えのある声と態度で、すぐに誰だか分かったので、開けるよう目で促す。ステフが扉を開けるなり、其奴(そいつ)はずかずかと家に踏み込んで来た。


「遅い!」

「な、何であんたがここに?」

「招集かかったんで、迎えに来たんだ。行くぞ!『翠聖(すいせい)』のヴィル」


相変わらずの傍若無人さで、『紅刃』はこちらを見据えてニヤリと笑う。こいつが迎えに来たということは、強制依頼だろうから断れない。溜め息混じりに、幾つか質問する。


「それ、俺の二つ名?」

「おぅ、今回の依頼で招集かかった時、発表があった」

「星の名前か?」

「彗星じゃねぇよ。ヴィルの目の色と『聖女』並みの浄化能力とで、この二つ名が付いたんだろうさ」

「やれやれ、あんまり有難くないもんだな」

「それが分かったんなら、俺の二つ名呼びも止めてくれ」


『紅刃』と話している間、ステフは牽制するように『紅刃』の前を横切り、隣に立つと腰を引き寄せぴったりと寄り添う。『紅刃』の目が剣呑な色を帯びるが、構わず話を続ける。


「依頼の期間は、いつからだ」

「今すぐにでも」 

「場所は何処」

「招集は王都だが、瘴気溜まりは西の辺境地帯だ。長くかかるぞ。一ヶ月近くはみておけ」

「一ヶ月……」


そんなに長く離れるのかと、隣のステフを覗う。ステフもこちらに目を遣り、心配そうにしながら暫く逡巡している。やがて、気持ちが定まったのか、きっぱりと言った。


「オレも行く」

「ステフ……」

「おい、招集はヴィルだけだ。お前はお呼びじゃない」

「一般の募集もある筈だ。ヴィルだけ危険に曝す訳にいかない。オレも行く」


『紅刃』の反論も跳ね返し、ステフは揺るぎなく言い切った。『紅刃』もそれ以上の反論はせず、今後の段取りに話を向ける。


「セスには二人しか乗れん。移動はどうする気だ」

「ウチにも騎獣が居るから、問題無い」

「狩ったのか。種類は」

「翼犬だから、二人位余裕で乗れる」

「翼犬!?」


さすがの『紅刃』も面食らったのか、二の句が継げないようだ。口を半開きにして呆けている『紅刃』を放置して、二人で遠出の支度を始めた。ステフが寝室のクローゼットで衣類を二人分用意している間に、こちらはパントリーで作り置きの携帯食や水袋を詰め込む。ヒューイのおやつ用に、乾し肉は多めに入れた。


「じゃあ、王都行きをアベル達に言ってくるよ」

「東門で集合ね。ヒューイの支度よろしく」


ステフを先に送り出すと、『紅刃』と冒険者協会へ向かう。カウンターには、いつもの窓口職員の他に協会支部長も待っていた。


「ヴィルさん!急な話で、済みません」

「王都から俺に指名依頼らしいね。この上級冒険者様がいきなり家に来て、驚いたよ」

「依頼の連絡だけなら、支部ごとに置いてある連絡用魔道具で済むがな、冒険者の所在までは支部じゃ把握しきれないからね」

「それで、今回は俺が来た訳だ」


支部長の言葉を受けて、『紅刃』が自慢気に答える。


「俺は魔眼持ちだからな、魔力の残渣を追って所在が分かる」

「犬か」

「ヴィルは魔力がダダ漏れだから、すぐに分かったぜ」


嫌味をものともせず、『紅刃』は豪快に笑った。窓口で指名依頼の手続きをすると、協会を出て裏の厩舎に向かう。そこに、『紅刃』の騎獣、大山猫のセスが待っていた。


「セス、久しぶり!」


挨拶代わりにセスの首元を撫でると、お返しとばかりに顔中をべろべろ舐められた。


「相変わらずの懐かれ振りだな」


『紅刃』は、その様子を然もありなんと言う風に、半眼でこちらを見遣る。構わずセスの歓迎を受けて、再会を喜んだ。そのままセスを連れて、東門へ向かう。


東門には、ステフがヒューイを連れて待っていた。

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