二人の休養日
家に帰ると、荷解きするのに寝室のクローゼットへ行く。今回は野営ばかりで、あまり着替えも必要なかった。片付けもそこそこに、ステフの腕が絡み付いてくる。
「どうした?」
「うーん……何だか、ヴィルが足りない」
「今回のクエスト、ずっと一緒だったのに」
「でも、足りない。全然、足りない」
そう言いながら、ステフの手がゆるゆると躰を撫で、触れてくる部分からステフの言う『足りない』成分が、何となく察せられる。顔を合わせてはいるものの、他のパーティーメンバーの手前、あまり大っぴらに触れ合う訳にもいかない。
「そうか。なら、俺もステフが足りないかな」
「ヴィル……」
「ステフ……来て……」
一緒に住んでいて助かるのは、人目や時間を気にせずに済むことだろう。折良く、ここは寝室だ。まだ外は明るい時間だったが、お互い足りない成分を、存分に補給し合った。
日の傾く頃、一頻り補給に満足して小休止とばかりに、並んで仰向き横になる。全身を覆う疲労感さえ、心地良い。ふと、ステフが思い立ったように口にした。
「オレさ、アベルとホリーが羨ましかったんだ」
「何で?」
「同じパーティーだから、いつも一緒に居られるだろう?」
「ん……」
「ヴィルはそう思わない?」
「俺はずっとソロでやってたから、考えた事なかったな」
ステフは仰向いていた躰をごろりと横にして、こちらの躰を引き寄せる。そして、つらつらとアベルとホリーの馴れ初めを語る。ステフと同郷の彼らは、所謂幼なじみという間柄で、喧嘩しつつも仲の良いカップルらしい。主に、餓鬼大将だったアベルがしっかり者のホリーに叱り飛ばされる役回りだという話だ。今も、しっかり尻に敷かれていそうな感じがする。
「今回、臨時パーティー組んで、ヴィルはどう思った?」
「一緒に居られて、嬉しかったよ」
「オレも。でも、さ」
「ステフ?」
「でも、いい事ばかりじゃないんだなって、今回分かったよ」
「何?」
「一緒に居られるのに、触れ合えないって、キツい」
「そうだね」
ステフは嬉しそうに、引き寄せた躰を撫で回す。どうやら、足りない成分補給の追加が必要らしい。互いに、手や唇の感触を堪能する。夜は、まだこれからだ。
帰ってから、買い物もまだしていないので、夕食がてら、街中に繰り出す。まだ二人で暮らす前に、よく食べに行った食堂へ行くと、ダールと鉢合わせした。
「よう、新婚さん、お熱いな!」
「ダールさん、声が大きい」
「あんたがダールさん?オレ、ステフ。よろしく」
「お前さんがヴィルの旦那か。若いな!幾つだ?」
「オレ若い?幾つに見える?」
「ステフ、相手しなくていいから」
その後も食事中、ダールに絡まれ続けた。ステフが愛想良く相手したおかげで、ダールは上機嫌で帰ったが、こちらは疲労感だけが残った。せっかくの夕食が、ダールのせいで台無しだ。
「ステフ、何かごめんね?」
「ヴィルが悪い訳じゃないよ。オレは結構楽しんでたけど?」
「ステフは心が広いね。俺は駄目だ、ああいう手合いは」
「ヴィルは真面目だからな。オレ、いい加減だから、平気だよ」
家に帰ってから、ステフにたっぷり癒して貰った。
依頼達成が思ったより早かったおかげで、その分ゆっくり休養が取れる。翌日も特に差し迫った用事も無く、のんびり朝寝してから起きた。朝昼兼用食を食べて、後片付け等の雑用を済ませた後、二人でゆったり寛ぐ。
居間のソファに座り、隣に置いた卵を撫でる。ステフも横に腰掛けて手を伸ばすが、卵には届かない。ステフはおもむろにこちらの躰を抱き上げると、自分の膝に下ろした。これで、二人とも卵に手が届く。卵を撫でながら、取り留めなく話した。
「何が生まれるのかな?」
「鳥なら放置しないだろうし、竜かな」
「飛龍だといいなぁ。目撃情報もあったし」
「走竜って事はないかな」
「走竜も鳥程じゃないけど、親が傍にいる筈だけど」
「もし地竜だったら、どうしようか」
「大きいし、狩りにも向かないし、困るね」
「強いけどさ」
ちょうどその時、家の扉をノックする音が響いた。かなり雑な叩き方で、訪問者の性格が窺える。この家には移り住んだばかりで、訪ねて来るような人物に心当たりは無い。ソファから立ち上がり扉に行こうとするも、訝しんだステフが押し止め自ら応対に立った。
「誰?」




